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南風北風―ぱいかじにすかじ―  by  松原敏夫

沖縄、島、シマ、海、ことば、声、感じ、思い、考え、幻、鳥。

詩時評・沖縄  2011年末回顧

2014-05-10 | 沖縄の詩状況

2011年末回顧・沖縄・詩壇】 

『現代詩手帖』2011年5、6月号は3・11を特集(「東日本大震災と向き合うために」)して被災地や常連の詩人を動員した詩やエッセーを掲載していた。なかでも北川透の「(詩を書くものは)北の海を彷徨う死者の眼と同調する狂気が必要だ」という文章にうたれた。沖縄の詩誌にも3・11を意識して書かれたものがあった。自然と国家政策の暴力で、いのちと生存場所を破壊された東北、福島の悲惨は沖縄にも通底する。この島トポスも繰り返される不条理な暴力と流動にさらされ続けている。私(たち)は、島トポスの内なる現実を感受しながら、個の内面を自立する詩の言葉に転化して、どう浮上させていくかを常に問い続けなければならないだろう。

[詩集]
市原千佳子『月しるべ』(砂小屋書房)、かわかみまさと『夕焼け雲の神謡』(あすら舎)、新城兵一『死生の海』(同)、下地ヒロユキ『とくとさんちまて』(花View)、網谷厚子『瑠璃行』(思潮社)が出た。市原、かわかみ、新城、下地は、宮古を出自としている。偶然とはいえ、今年は宮古出身詩人の詩的活動が目立った年といえる。
『死生の海』は生存という磁場への強いまなざしである。痛みと他者への優しさ。この詩人の内なる解体と廃墟から紡ぎだした言葉は喩の劇性を呼び込んで惹きつけるものがある。生と死の在所から出てくる言葉の響きがいい。本当の詩を読んだなという感じを持たせた。新城はこれで12冊目の詩集。これまで一番多く詩集を出しているのは、宮古の伊良波盛男で18冊である。
『月しるべ』は市原の19年ぶりの詩集。この間を市原は家庭を、職を、東京を捨て、潔しのない、しみったれの歳月という。前詩集『太陽の卵』にあった珊瑚礁、自然、太陽の光、の詩的感受性が夜=月に転移している。身体、死、エロスへの愛しさ、哀しさ。その詩的言語に、いのちを中心に広げた詩形を感じた。最近の市原詩には人間の深い哀愁も漂ってきた。
『とくとさんちまて』は、神話的感覚を喚起させる詩集だった。視るものから変容のイメージを作りだす特異の感覚が織り込まれていた。この詩人の登場はうれしい。
『夕焼け雲の神謡』には遠近の時空間の出会いから生まれた自在な言葉の織り込み、根への帰巣と存在の宇宙が取り込まれていた。
2年前に亡くなった上原生男の遺稿集『沖縄、我が蒼穹を求めて』には詩13編を収録。時代や草莽の痛みと悲しみが、緊張感をもった詩語から伝わってきた。読みながら氏の豊饒な寡黙を想いだしていた。
詩集に与える山之口貘賞。今年は、新城兵一と下地ヒロユキ氏。詩歴の長い新城氏の遅い受賞は個人的にも感慨深かった。高木敏次の『傍らの男』がH氏賞を受賞。詩の言葉への向き合い方が〈私〉を基点に独特の呼吸をもっている詩集という印象をもった。

[詩関連誌]
詩人論が多く出たのが今年の特徴だ。いまや伝説的詩人になってしまった清田政信への言説が目をひいた。『Myaku』7号でネット対談「詩人・清田政信」(比嘉加津夫+田中眞人)、9号に松島浄が「清田政信の初期の詩ノート」を書き、『脈』73号に比嘉加津夫の「清田政信論ノート」があった。宮城松隆が同号で「川満信一小論」を、『裁詩』13号で鈴木次郎が岡本定勝を論じている。
本土詩誌の『詩と思想』8月号が沖縄の詩を特集した。「沖縄の名詩アンソロジー」。「名詩」という付け方や新城兵一、田中眞人、矢口哲男が入っていなかったのはどういうわけか、というのがあるが、地方の詩に目を向けた、この雑誌のポジティブさを評価したい。宮城隆尋のエッセー「沖縄の若手詩人」は、先行世代と対比しながら、沖縄意識(政治状況、郷土性)が希薄な若手詩人の作品を解釈し可能性に言及したのが印象に残った。
東風平恵典が宮古で『Lunaクリティーク』、『Luna通信』を創刊した。『1999』8号、『めじ』5は久しぶりの発行。その他の詩誌発行を列挙すると、『アブ』9、10。『宮古島文学』6、7。『非世界』22、23。『脈』73、74。『あすら』23~26。『うらそえ文芸』16。『だるまおこぜ』6。『裁詩』13。『ゑKE』39、40。『KANA』19。『間隙』30~32。沖縄女性詩人アンソロジー『あやはべる』9。

「琉球詩壇」(琉球新報)が2月から開設(復活)され、定期的に掲載を始めた。

                                                   (沖縄タイムス2011.12.21)


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