波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

柴田秀利氏の『戦後マスコミ回遊記』について

2005-06-26 01:50:47 | 雑感

 今週日本から, 柴田秀利氏の『戦後マスコミ回遊記』が届いた.本書を入手するきっかけになったのは,竹内春夫氏の『ゾルゲ謀略団』の冒頭に,元サンケイ新聞取締役の野地二見氏による「刊行によせて」という序文があり,その文中に,三田村武夫氏の尾崎・ゾルゲ事件に関する報告書を占領軍司令部に提出した経緯が引用されていた.その引用源が,柴田氏の当該書だった.日頃利用している図書館には,この本は収蔵されておらず,最近になって理想書店から電子版・印刷体版の双方で再刊されているが,英語版のコンピュータでは電子版は読めず,また,印刷体版の値段は日本の或る古本屋が提示している価格より割高だったので,結局後者から入手した.
 柴田氏は,今日日通念化している狭い意味での新聞記者ではなく,政界等を回遊して自社の新聞記事向けの取材をするだけでなく,時には特定の政治家の耳や目的存在として,或は,代理人として他者に働きかけたり等の活動にも手を染めるという古典的な意味での「記者」と言える.同書によって柴田氏の「記者」活動を辿っているいくと,「記者」尾崎秀実が「政治家・重臣」近衛文麿にどのような形で影響を与えたのかが,より鮮明に類推できるようになった.佐々木隆氏の『日本の近代 14 メディアと権力』の9頁に,「実体としての新聞は政府・権力と隠微な関係を持ち,危うい間合いを取るものがあったのだが,それは新聞界ではありふれた日常の一こまであり,決して例外的な現象ではなかった」という件があるが,まさにその通りだったのだ.

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