波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

2004年米国大統領選挙にまつわる闇 「自由民主主義国」米国の選挙をめぐる建前と実際

2005-09-04 23:24:34 | 雑感
 当該網誌を始めることを決めた際,此の話題について何時か書き留めなくてはと思っていた.来週日曜,日本は衆議院選挙日であるし,また当該話題に関連するのだが,昨夜米国連邦最高裁判所長官が死亡ことでもあるし,時宜にかなっているだろう.細かく書きたいところだが,仕事の締め切りが迫っているので,要点だけに止めよう.
 昨夜死亡した米連邦最高裁長官は,米国における法曹界の頂点に立つ者として資格を厳しく疑われる過去を持っていた.そのような過去を彼は連邦議会上院での連邦最高裁判事承認委員会において否定し,後日それが偽証だったことが判明する.このような如何わしい背景を持つ男が1980年代に長官に指名され,昨日まで法曹界を牛耳っていたことになる.
 彼の過去とは,その昔,亜利桑那州における選挙の際,共和党代表立会人として,投票場で非白人の投票者に対して彼等の投票資格について彼是疑問を呈するなどして,投票阻止・妨害を行ったことである.1960年代の公民権をめぐる法改正・各新法制定までは,米南部では非白人に投票をさせない色々な仕組みがあった.前出の投票場での立会人による投票阻止は,投票場に行けるだけ未だ御手柔らかな遣り口で,非白人を投票過程に全く係わらせないようさせる手段が色々考案されていた.前米連邦最高裁長官が立会人としてやったことが,当時の亜利桑那州の州法や連邦法に抵触していたのか確認していないが,他国に「自由民主主義」を説教して止まない米国の法曹界の頂点に立つ者として,その様な行いが相応しいかどうか自明であろう.
 米国における選挙・投票の実践を観察している,手段を選ばない人間の知恵には限界が無いということをつくづく痛感させられる.確かに,1960年代の公民権運動で,建前上,人種その他の紐付きなしの成人の投票が可能になった.しかし,米国は建国以来,民権の拡大派と制限派の鬩ぎ合い状態にあり,選挙・投票もその好例で,投票の運営における技術的な点を最大限に利用して,都合の悪い連中(特に,非白人)にはなるべく投票させないという地下水が今でも脈々と流れている.米国憲政史に名を残している政治家の中には,明らかな選挙違反をして選出されたという「武勇伝」を持つ者が少なからず居る(L.B.Johnson大統領は,得克薩斯州から連邦上院議員として選出された際,当時の得克薩斯州の選挙常法に従い,僅差で勝利を収めている).
 2000年の大統領選挙では,佛羅里達州で集計作業が紛糾し,結局,米連邦最高裁が大統領を決定した.後日の大学関係者による再集計の結果では,前副大統領の民主党候補者の表が上回っていたことが判明したが,9.11事件による戦時体制突入により,現政権の正当性に疑いを挟むことは米主流媒体界では禁忌となった.また,前出の佛羅里達州の再集計で一部露呈していた投票をめぐる様々な疑惑・問題は,一部電子投票の導入の促進で解決されるかと思われたが,結局,投票過程を更に不透明化して,監察不可能な投票という悪魔を出来させることになった.そして,2004年の大統領選挙だが,投票前,投票中,投票後,という三段階において,俄亥俄(Ohio)州その他で,近年まれに見る選挙妨害・違反その他が出来した.俄亥俄州は同州選管によると現大統領が勝利したことになっているが,報道媒体による情報や連邦下院議員による調査によると,当日投票機の不備その他で投票を断念せざるを得なかった者,投票入場券を受け取れなかった者,投票したものの無効票扱いになったものが多数あり,また,請求され実施された投票後の抽出再集計も,手作業による全数集計を防ぐため,「やらせ」の「無作為」抽出で行われ,集計をめぐる疑惑も解明されることがなかった.
 日本の選挙の感覚からすれば,投票所で候補者名を名前を所定の用紙に書いて所定の箱に入れ,後で集計すれば終わり,という単純作業に見える.住民票という基本的な台帳が投票者名簿作成を簡単にしているのだが,米国にはその様な住民票はないので,自己申告による登録が不可欠だ.よって,日本のように,選挙の時期になると役所から律儀に入場券が自動的に郵送されるような甘やかされた仕組みとは全く違い,関心の無い者には投票させないものとなっている.また,この投票者登録自体が非常に米国的で,役所だけでなく,民間団体が投票者申請の代行を行えるようになっている.確かに,自分と思想信条を共にしている連中を組織的に募りたい場合には,結構なやり方だが,法的縛り等で無党派の看板を掲げて申請書をまとめても,覆われた下地により,当該団体と立場が異なる側で登録した者を廃棄することも可能で,事実そのような事例が昨年の選挙の場合西部の州で見られた(今の米国には,連邦が運営する選挙は無い.連邦議員も大統領(選挙民)にしても,すべて州単位で選出することになっているので,現在実施の各選挙を規定するのは州以下の法とになる.米国の投票登録申請は,大抵の州で,自分の党派を明記させるようになっているので,申請者が民主党,共和党,その他であるかが申請書により一目瞭然となる).このような民間代行も可というような認識では,投票者台帳を正確に随時更新するかどうかは,各政府のやる気・懐具合次第で,州によっては財政難を盾に更新が遅れているとこもあるようだ.よって,申請しても,投票所入場券が郵送されてくるまでは,安心できない.また,不在者投票にしても,「なるべく投票させない」というのが原則からすれば,彼是条件を厳しくして,実質投票不可能にもっていくことも技術的に可能だ.昨年の俄亥俄州の例では,病院の入院患者に不在者投票が認められず,点滴道具をつけたままの患者が投票場の長い列の中にいたそうだ.
 米国における投票日における投票妨害の典型が,警察官を投票場に貼り付けて,逮捕や任意同行の恐怖心を起こさせて投票場に近づけない,駐車違反その他各種科料の未納名簿を用意しておき,該当する投票者が現れれば,完納するまで即時逮捕・拘置という御触れを出しておく(=>貧乏人は逮捕に怯えて投票所に現れない)である.また,昨年の俄亥俄州の妨害例の傑作が,民主党候補への投票傾向が強い黒人が集中している貧困都市部では,投票日に水道の検査日を故意に重ねて,日中の成人(投票者)の在宅を義務付け,違反すれば水道の供給中止という御触れを出して,母子・父子家庭を合法的に投票所に行かせないようにした自治体もあった.また,投票機を満遍なく配備しないで(黒人地区等の民主党地区には少なく配備),人工的に長蛇の列(投票までに数時間)を作って,これまた合法的に,投票を断念させるという遣り方も昨年の俄亥俄州で見られた.
 日本では最近電子投票が試みられて色々な問題に突き当たったようだ.しかし,電子投票が広がっている米国では日本や加拿大(Canada)の紙による投票を羨む者もいる.米国の電子投票の問題は,投票機が民間業者からの賃貸であり,投票機の軟体(software)の監査,集計過程の安全性が政府によって厳しく審査されていなことと(投票者が自分の投票結果を紙で受領することなども義務付けられていないところが多い),投票機を製作している会社中,市場を占有している大手二社の社主が兄弟関係にあり,彼等と基督教系のcult集団との関係が疑われていることだ.日本でたとえるならば,創価学会やオウム真理教の子会社が投票機を製作して,息のかかった支持政治家の口添えで各自治体に無理やり賃貸契約を結ばせ投票機賃貸市場を占有し,選挙管理員会の投票機監査要求に対しては企業秘密を盾に拒絶する,あるいは,適当に御茶を濁す,というものだ.よって,投票所におかれた投票機の実際の作動・精度を適宜操作することや(A候補に投票しても,B候補に投票されるようにする,集計時に集計結果を操作する),各地の集計結果を網路経由で送り選管でまとめる際に「からくり」を埋め込んで,特定の支持候補が最終的に勝てるようにする,などの操作が可能になり,監査も手緩いので此のような「からくり」もばれない.平均的な米国人は現在の電子投票の危険さを殆ど理解していないようで,事務の効率化,税金節約というような視点でしか見ていない.事実,電子投票にまつわる疑惑が全米各地で報じられているが,政権党である共和党に取っては投票機は打ち出の小槌的存在であり,厳しく規制したり監査したりという姿勢は全く窺われない.
 最後に,投票後の集計・再集計における操作だが,日本でも仕込んでおいた投票用紙を集計中にこっそり入れ替える事件があったため,職員がステテコ姿で集計していた時代があった.米国の場合,日本の記入式は違法(かつて,南部では元奴隷の非白人を投票させないため識字試験を課するという投票妨害があった)になるはずなので機械による投票・集計が殆どだ.投票用紙に穴を開けて集計する形式の場合,穴あけ・読み取り精度の問題だけでなく,用紙の設計も問題となる.昨年の俄亥俄州の場合,投票所毎に穴あけ(候補者)の順番を変えるなど複雑な決まり事があり,集計結果を煩雑にさせて,集計の錯誤をわざわざ招くような形式になっていた.また,投票しても,所定の投票所以外で投票すれば無効票にするというような集計上での操作も,米国で良く見られる無効票出来による投票妨害の一つだ.電子投票の場合は,機械に一蓮托生で,停電・故障その他で機械を再立ち上げした際,それ以前の投票結果が果たしてそのまま残っているのかどうか,監査が緩いため不明なことが多い.昨年の俄亥俄州の場合,OECD関係者が開票の立会いを求めたところ,様々な法的手段を講じて直の立会いを拒絶したことは報道媒体上では殆ど報じられていない.
 このように昨年の大統領選では,俄亥俄州で近年まれに見る,選挙前,選挙中,選挙後の妨害が発生したが,9.11事件以降戦時下にある米国では,主流報道媒体は,此れまでの各国の戦時下の報道媒体と違わず,現政権と距離を詰めることはあっても乖離しない道を選択して今日に至っている.真実の報道が報道媒体の至上の価値であるならば,Iraqの大量破壊兵器をめぐる論議で厳しい立場をとる事ができたはずだが,米国の主流報道媒体はその様な選択をしなかった.昨年の大統領選挙の違反・妨害についても同様だった.州の選挙管理の元締めである州総務長官(共和党)の強力な指導の下,1960年以前を彷彿させるような選挙妨害が明らかに俄亥俄州等で進行していたにもかかわらず,米の主流媒体はIraqの民主化には口を挟んでも,自国の民主主義の実践が腐敗・堕落していることには目を半分瞑り続けた.そして,投票日あからさまの投票妨害が発生したにもかかわらず,米主流報道機関は現職の勝利に注目するだけで,その過程が如何に疑問符が付くものであったかも殆ど報じなかった.一方,野党の民主党も,戦時下の野党に典型的な現政権との対決回避で御茶を濁し,当該問題を殊更追及しなかった.2004年の大統領選挙について彼是論じることは,現在の米媒体では,「電波」を飛ばすことと見做され,人権派系の言論人・媒体のなかにも世間体を憚って,殊更否定に躍起になっているものもある.
 Iraqに自由民主主義をもたらそうと自国の多大の税金と人命をかけ,自由民主主義国の盟主と自負する国ですら,自由民主主義の実践についてこの程度しか達成できていない.「(非白人には)なるべく投票させない」という不文律が建国以来地下水として流れている以上,自分達に投票しない連中については関心が散漫になり,ましてや今年は選挙の年ではない,そのような価値観が図らずも露見したのが今回の颶風で浸水した新奧爾良(New Orleans)市への連邦政府等による救援の出遅れだった.
© 2005 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:09/04/2005/ EST]

1 コメント

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目から鱗。 (ようちゃん)
2005-09-07 04:36:40
米国の選挙が不公正とは・・・俄かには信じられ無い出来事ですが,'具体例を列挙して書かれてる事で納得出来ました。しかし、考えると異民族や

人種の坩堝の国ですから有り得る話でした。

しかし、公正な選挙を実施する事が良識的で正しいとは言い切れないかもしれないとも思いました。中所得以上のランクの納税者の多数の意見を通すほうが国益と考えてるならそういう手段も取り得る。無収入の生活保護所帯にも選挙権を与え、外国から移民で国籍取得しても米国の国益より出身国の国益を重視する政党候補者だけを選ぶ

人達にも公平に建前を守るのが果たして売国の未来への発展になる保障が無いと判断したら、米国の中核部分を担う階層の人種は相するより自衛の手段が無いでしょう。一概に公平な選挙権の行使が米国の国益にならないと思いますよ。異人種の混合国家なの悲喜劇でしょう。他国の政治体形にあれこれ良い、悪いとか正悪は論じれないとも思います。飲み込まれて自国文化が消滅するのを座して黙視できる民族は無いでしょう。
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