波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

占領史観によって禁忌扱い中の作品

2005-07-11 01:29:59 | 雑感
 海外に長期滞在した者が大抵体験することの一つに,祖国の文化等に対する理解の浅さ,というものがある.過去と紐帯を切断することに存在意義を見出してきた感のある戦後生まれの平均的日本人は,海外で外国人から日本の歴史・文化についてあれこれ聞かれた際に,当然のことながら,冷や汗をかくことになる.特に,戦後の日本人が忘却を余儀なくされた,あるいは自ら温故の努力を怠ったために,近代世界において日本が非欧米諸国に与えた覚醒事件を現代の平均的日本人は全く知らないが,日本贔屓(ひいき)の外国人の方が妙に詳しいという事例の場合など,まさに赤面の至りである.また,廃仏毀釈を始めとする明治維新の暗部や,第二次大戦後の占領による「民主改革」の容共部分に見られる日本版「文化大革命」により,数々の文化財が海外に流出していった.戦勝国や旧宗主国の博物館の方に,戦敗国や旧朝貢国にとっての重要な歴史的遺産が収蔵されている,と良く言われるが,日本の場合も例外ではない.特に,近代日本の軍事的足跡についての作品・遺物は,戦後の「文化大革命」により,人目に触れない様に倉庫の奥に隠されるような形で収蔵されたり,二束三文的に売却されるか,破毀となった(藤田嗣治等が軍に乞われて描いた大東亜戦争系絵画は,皇居北の丸は竹橋にある東京近代美術館の奥に眠ったままになっている).
 このような占領史観が克服されるまで決して日の目をみるようなことのない作品と,何をあろうか,そのような作品の否定・破毀を迫った米国で対面する機会が数年前あった.波士敦美術館は,廃仏毀釈で流出した平治物語絵巻の「三条殿夜討の巻」が収蔵されていることで有名だが,左巻き系日本人が全く評価しない主題をめぐる収蔵品も保存していて,2001年にそれらの展覧会が開催された.

Japan at the Dawn of the Modern Age: Woodblock Prints from the Meiji Era
註:同展覧会の図録(英文)は,Amazon.co.jp等より購入可能(図録の標題は展覧会の題名と同じ).

明治期の錦絵の展覧会という一見人畜無害的な標題なのだが,展示品中一番目を引く華の部分が,何を隠そう,「文明開化」や「殖産興業」の部ではなく,「富国強兵」,即ち,日清・日露戦争の報道錦絵だった.浮世絵・錦絵の主題と言えば,戦後の日本人にとっては,人物・風景画ぐらいしか思い浮かばないが,戦場,戦闘,将兵達を描いたものも存在したのである.日本でこのような展覧会を開催しようとすると,今日現在,左巻き系の妨害に耐えられるところは靖国神社の遊就館(http://www.yasukuni.jp/%7Eyusyukan/index.html)くらいだろうか.今年は日露戦争戦捷百周年記念にあたる.国立公文書館のアジア歴史資料センターでは以下の特別展を開催している:

「日露戦争特別展 公文書に見る日露戦争」
http://www.jacar.go.jp/frame1.htm

波士敦美術館の日本分館的存在の名古屋ボストン美術館あたりで,前掲展覧会の里帰り展をやれば良いのであろうが,同館の記録をみると,そのような里帰り展は開催されていない.2004年に波士敦で開催された人畜無害的展覧会"Art of the Japanese Postcard: The Leonard A. Lauder Collection"は確り「美しき日本の絵はがき展」として今年の年頭に開催されているのに:

http://www.nagoya-boston.or.jp/tenran/tenran18.htm

嗚呼,此処にも占領史観の呪縛が!

© 2005 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:07/11/2005/ EST]