波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

竹山道雄『昭和の精神史』と三田村武夫『戦争と共産主義』

2005-07-27 00:56:04 | 読書感想
 7月16日付の記入で触れた新田均氏の著作の中で,竹山道雄の『昭和の精神史』が数箇所言及されていたので(例えば,96頁),図書館で借りて読んでみた.主権回復後4年程経った昭和31(1956)年に刊行された本で,批判の直接の対象は主に戦前期であるが,その準備段階として,当時学界・論壇を支配していた所謂「進歩主義」系論者による戦前批判の誤謬について2章(「二章 進歩主義の論理」,「三章 上からの演繹―唯物史観」)を割いている.新田氏の言及にあるように(253頁),当該2章及び第四章「事実からの出発」は,当書出版後,半世紀近く経た今日においても十分通用する内容となっている.換言すれば,本書による喚起が50年近く前になされていたにも拘らず,未だに日本人は「事実からの出発」が出来ていない,即ち,「上からの演繹―唯物史観」の呪縛から解脱出来ていない,扶桑社の歴史教科書に対する一読も無しでの条件反射的拒絶反応に凝縮されているように.

註:
本書第八章「国体精神」の第4節にあたる「赤の謀略説」で,三田村武夫の『戦争と共産主義』が検討されていて,国際共産主義の調略の事実をそれなりに認めるが,この要因のみで戦前日本の運命的な選択を全て説明できないであろうという立場をとっている.同書は出版後,占領軍の事後検閲で発行禁止になったとされるが,竹山道雄を含めて当時の知識人が当書の存在を含めて或る程度知っていたことになる.
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