波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

James Risen著State of Warを読んで 上

2006-01-03 22:16:19 | 読書感想

 元日の記入で触れたJames Risenの本が正月休み明けの今日発売になったので,早速手に入れ読み始めた.本文は二百二十頁程で,六割程度読んだ感想等を忘れないうちにまとめておくことにする.
 先月から米国で耳目を集めている国内盗聴の問題は,第二章The Program(39-60頁)で扱われている.国内盗聴はFBIの島,NSAはそれ以外という島の割り振りが崩れ,NSAによる内国野放図盗聴等が行われるようになった背景(大義名分)は,米国外の地域間の国際通信(電話・電子電子郵件(e-mail))も米国内を経由するという現在の通信の状況があり,破壊工作絡みの情報が米国経由で流れているのをむざむざ指を銜(くわ)えて見ているだけで良いのか,ということらしい.勿論,大義名分が如何なる物であろうとも,裁判所や議会の監視がなくては,脱線の目的外利用が発生してもおかしくはない.同書を途中まで読んでみて,既報どおりの情報というか,現米政権において安全保障政策を実質的に取り仕切っているのは副大統領と国防長官であり,前大統領補佐官(国家安全保障担当)で現国務長官は両者に対抗できる実力を持っていない,前CIA長官は国防長官との情報をめぐる政府内の縄張り争いを当初から諦めていた節があり,大統領には上手く取り入ることが出来たが,政権内で各機関発の情報の統合・取りまとめにおいて指導力を発揮できず,上記実力者二名の壟断を許してしまった,などが報じられている.前政権の伊朗(Iran)の核兵器開発の重視策により,第二次湾岸戦争前,CIAが伊拉克(Iraq)内に持っていた情報源はほんの僅かで,国防省が亡命者から得ていた信頼性に欠ける情報に抗することが出来ず,政権中枢が開戦の意思が固いことが明白になると,不偏の分析よりも保身による風見鶏的な迎合分析がCIA内の上から下まで幅を利かすようになり,一部例外的な努力もあったが,CIA内の縄張り争い等で効果を持たず,大量破壊兵器隠匿間違いなし=開戦という既定路線を方向転換できる組織的背骨をもっていなかった.因みに,前国務長官が国連で指摘した移動型生物兵器実験室は,独逸発の全く信頼できない一亡命者からの未確認情報で,CIAの欧州幹部が演説原稿に目を通して仰天,削除するよう本部に注進したにもかかわらず無視されたようだ.また,二十代半ばの駆け出し分析官の偏執的な主張がCIA幹部と平の全体会議で幹部に認められるというような下克上状態ではCIAの分析能力の低下の程が分かる(辻政信に振り回された旧日本陸軍が思い出されてならない).伊拉克が尼日爾(Niger)から核物質を入手しようとしたという(偽)文書を米政権は証拠として取沙汰したが,実のところ,伊拉克にはuranium鉱石を採掘できる鉱山があり,核物質をわざわざ他国に求める必要はなかったそうだ.
 
© 2006 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:1/3/2006/ EST]