昭和１７年４月１８日

１８日　晴れ　暑し

昨日の注射の利目か今日は大分元気が出る。歩い
てもあまりフラフラせず。この分なら二三日で本部へ
帰れるだらう。
久しく溜まった日記を整理する。
コレヒドル島の攻撃は２２日に開始だとか。上陸は２３日
の夜とか言ってゐる。コレヒドル島から時々大口径砲が射
撃して来るが殆ど皆不発弾許り。飛行機のやうに
ゴーゴーと音をたてゝ飛んで来るが破裂はまだ殆どない。
敵野要塞砲は軍艦等を撃つ弾丸で柔かい所へ当って
は信管が作用しないのだらう。又コレヒドル島の大砲も
此方を向いてゐるのはあまりないらしい。海の方を向いてゐるも
の許りで此方の方は撃てないのではないかと思はれる。
一昨日はコレヒドル島の一番高い所にあげてあった星条旗
を第一中隊が射撃してどうしても命中せず、ＲΔと方位
交会法をやって九十何発目かにやっとその星条旗を吹き
とばしたと。旗一本を飛ばすのに１００発近くの弾丸を使っ
たのではあまり感心した話ではない。敵も馬鹿にして
ゐるだらう。又別の星条旗をすぐに上げたとか。
夕方本部から使ひが来て今日砲兵司令部から兵器の
現況につき明日の情報会報時迄に報告せよと言
って来たから今からすぐ聯隊段列に連絡して明日
の七時迄に報告して呉れと言って来る。随分忙しい仕事
だ。此方はまだ元気もまだ出ないのに聯段まで行って
来なければならない。夕食后早速出かける。乗用車が
皆使用中で九三式六輪乗用車で行く。ボロ車で力は
なく速力はでない。聯段へ七時頃着く。藤原少尉に
連絡し兵器の現況はすぐ分る。書類に書いて貰っ
て置く。聯段では、今日東京が空爆された等と言って
ゐたが眞疑不明だったのでラヂオニュースを聞いて帰る。
七時のニュースでは全然発表がなかったが九時のニュース
でやはり事実だった事が分った。本十八日午后０時三十分
頃各方面より帝都に侵入せる敵機は京浜方面を
爆撃した后、我が防空陣に追はれて退散したと。
皇室は安泰。敵機の撃墜せるもの九機とか。又午后
二時頃には名古屋方面にも数機来襲したが防空
陣の働きにより被害は少なかったと。未だ侵されざる囗
日本も遂に敵機の侵す所となったか。九機撃墜
と言へば来襲したものは相当の数に上るだらう。尠くと
も四、五十機は下るまい。此れだけの敵機が白昼堂々
帝都を襲ったのに東部防ヱ司令部は何をしてゐたんだらう。
何か防空について手落ちがあったのに違ひない。被害の
程度は相当あったものと思はれる。東部
防ヱ司令官は只ではすまされまい。此の分では敵航空
母艦が日本近海に来てゐるのだらう。何としても此の母艦
をつかまへて海の藻屑としてやらねば日本海軍の名折れだ。
東京市民も戦捷に酔って防備に怠りがあたのだらう。
九時半頃聯段を出る。行李に十時過ぎに着く。書類の報
告は明日にして寝る。少し疲れた。

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