父の日記 昭和17年

昭和17年の日記 
ようやく召集解除 神武屯を発ち東京へ向う

昭和17年10月31日

2005-10-31 | 昭和 (父の日記 昭和17年) 
31日 (土) 晴れ 暖し

十時頃起床。近くの追浜海軍航空隊の飛行
機が早くから唸ってゐるのでウルサイ事、朝昼一緒の
食事を御馳走になる。大したご馳走だ。昼頃
大河原氏蔵の門外不出の各国のY書籍を
見せて貰ふ。大したものだ。午后二時頃おいとまを
する。すっかり歓待された。佐藤、木村と三人で
有楽町へ出て映画をみる。日本劇場。内地へ
帰って始めてみる映画だ。田中絹代の「或女」
櫻井潔の音楽、これはなかなかよかった。久しぶり
に生の音楽を聞く、夜食は佐藤君の案内で
銀座裏でコロッケを喰ふ。木村と二人で佐藤
に別れ省線で帰る。帰家八時頃。
昨日、大野、木村は隊へ行って来たのださうだ。
我々の召集解除は五日と内定したとか。四日に
は田所大尉以下100余柱の告別式があ
る。遺族も来られる筈だ。盛大に行はれる事
だらふ。


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昭和17年10月30日

2005-10-30 | 昭和 (父の日記 昭和17年) 
30日 (金) 晴れ 暖し

朝は皆と一緒に起きる。皆出勤するが僕だけは残る。
今日は横浜の大河原さんの宅へ行く日だ。午前中、レコード
等を聞いてゐてうっかり時間を過してしまふ。一時に新宿
駅で下山中尉と待ち合せるのに十分過ぎてしまふ。待合
室に下山中尉をみつける。約束の木村中尉、30分も待っ
たが来ないので出かける。下山中尉は今日は和服に
袴、何故今日はこんな和服なぞ着て来たのか。横浜なん
ぞへ行くと言ふので奥さんが心配して魔除けのためか。
僕は軍服はやめて洋服、この方が心持がゆったりしていゝ。
横浜駅から杉田行バスで聖天橋下車。一寸右へ入った
所で此の附近では一番の立派なお邸だ。
既に佐藤一郎、大野、木村、中村中尉等は来てゐる。
新宿駅で約束をスッポカしてひどい奴だ。大きな邸
内に大河原三兄弟の家がそれぞれ分立してゐて大したもの
だ。大河原さんの家は和洋折衷の六、七間ある立派な
もの。皆、お金持ちの接待に驚く。我々貧民とは異る。
此の時世に物資も豊富だ。夕食は横浜の南京
町へ出て支那料理を喰ふ。川代大八は此処で待っ
てゐた。再び大河原邸へ帰り麻雀等をやり歓を盡す。
下山、中村両氏は南京町より先に帰る。僕も今夜は
泊るつもりではなかったがすゝめられて大河原邸に一泊
同泊四名、大野、木村、佐藤。立派な夜具にクルマ
ッテ寝る。ブルジョア生活ウラヤマシ。世が世であれば
僕だってと、ツマラヌ感情を起す。ヒガム勿れ。

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昭和17年10月29日

2005-10-29 | 昭和 (父の日記 昭和17年) 
29日 (木) 晴れ 暖し

十時頃起きる。
徴発した敵のラヂオをやってみたが電波が異ふので
駄目だ。六ボルトのバッテリーでなければだめなのだ。
午后理髪へ行く。床屋へ行くなんて何年ぶりだらふ。
物資不足のだめか、石鹸もクリームも随分粗悪なもの
を使ってゐるやうだ。
夜レコードを聞く。
もう帰還して十日になる。未だに気が落ち着かぬ。
全く嫌になってしまふ。今更希望とて、野心とても
ないが、いつになったらのんびりと暮せるのか。
十時頃寝る。

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