マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)フランス・リヨンの街並み(ヴィットン通り)。ブルカ禁止法案が成立すれば、こうした公道上で顔全体を覆う衣装を着用することが一切禁止される。

 フランスの国民議院(下院。定数577)は、5月11日、「顔全体を覆うベールは、共和国の価値に反すると思料する」との内容の決議第459号を賛成434票の全会一致(但し、棄権者あり)で採択し、イスラム教徒の一部の女性が着用する「ブルカ」に反対する姿勢を明らかにしました。

 決議は前文と5つの段落からなり、与党「国民運動連合」(UMP)のコペ(Jean-Francois Cope)党国民議員会長が提出。与党UMP、「新しい中道」のほか、野党の中では、最大野党・社会党(PS、オブリ(Martine Aubry)首席書記)は党内議論の末賛成し、形としては反対ゼロとなりました。但し、フランス共産党、緑の党、その他の極左政党は退席、棄権しました(但し、仏共産党の国民議員兼ローヌ(Rhone)県ヴェニシュー(Venissieux)市町村長のジェラン(Andre Gerin)議員だけは賛成。ジェラン議員は、そもそも、後述するブルカ問題に関する仏国民議院調査委員会の設置を求める決議案の提出者。)。

(写真)フランス国民議院。採決当日には、内部の警備が強化された。

 フランス国民議院の公式サイトによると、決議文は次のようなものでした。

決議第459号(仮訳)

国民議院は、
憲法第34の1条を参照し、
(参照条文省略)
あらゆる形態の隷属と毀損から人間の尊厳を守ることは憲法上の価値を有する原則であり、フランス共和国の本質的な価値であり、欧州連合の基礎であると考え、
平等の原則、あらゆる形態の差別との闘い及び男性と女性との平等の推進は我々の法秩序及び社会づくりの核心に位置することを再確認し、
女性に対する暴力に対する闘いが2010年に国家的表彰を受けたことに留意し、

1.尊厳及び男性と女性との平等を侵害する過激な慣習、わけても顔全体を覆うベール(voile integral)は、共和国の価値に反すると思料する

2.表現及び信教の自由の実践は、社会の基礎となる価値、法及び義務を無視しつつ共通の規則を破る目的の如何なる者によっても、主張することができないものであると確認する。

3.人間の尊厳、自由、平等及び博愛との原則の尊重に対する愛着を厳粛に宣言する。

4.差別との闘い及び男性と女性との平等の推進が、機会の均等、特に国家教育において政策の優先課題となることを希望する。

5.暴力や抑圧を受けている女性、特に顔全体を覆うベールの着用を強制されている女性の効果的な保護を確保するために全ての有効な手段が動員されることが必要であると評価する。

 決議そのものには「ブルカ」といった言葉は使われていませんが、代わりに「顔全体を覆うべール」という表現で、ブルカやニカブを念頭におきつつも、なるべく宗教的・文化的に中立的な表現を使おうとはしています。

(写真)警備が強化されたパリの国民議院議事堂。なお、元老院(上院)は、これとは別の場所(リュクサンブール宮殿)に所在する。

 この問題はもともと、2009年6月22日のフランス議会の両院合同会議で、サルコジ(Nicolas SARKOZY)大統領が「ブルカはフランスでは歓迎されない、と公式に申し述べる」と発言し、これを受けて、与党UMPの発議により、国民議院にブルカ等の着用に関する調査委員会(mission d'information)が設置されたことに端を発しています。調査委員会の答申を受けて、政府はブルカの着用禁止法案を起草し、2010年1月、国家評議院(コンセイユ・デタ。我が国の内閣法制局に類似)に送付していましたが、国家評議院は2010年3月30日、かかる立法は憲法上疑義があるとの答申を行っています。

 それでも、フランス政府は5月19日にも法案を閣議決定の上議会に提出し、9月ごろまでかけて議会で審議した上、秋にも成立させたい意向で、今回の決議は、国家評議院の答申にもかかわらず、ブルカ禁止には与野党の幅広い支持があることを示す政治的デモンストレーションとなりました。もっとも、決議に賛成した仏社会党は、政府が準備している法案には反対の意向(着用禁止は学校や病院といった公的施設に限るべきで、広く道路上等の公共空間まで規制の対象としても、実効的な取り締まりができない、との立場)で、近く対案を出すとも報じられています。

 ブルカ規制を巡っては、ベルギーの代議院(下院)が4月29日、仏語系自由党「改革者運動」(MR、Mouvement Reformateur)が提出していた「ブルカ」や「ニカブ」等、顔の全体を覆う衣装を公共の場では着用禁止とする刑法改正法案(Proposition de loi visant a interdire le port de tout vetement cachant totalement ou de maniere principale le visage)を本会議で可決。上院でも可決される見通しとなっています。

 ブルカについては、イスラム教の過激思想の一つとも観念されており、国家評議院自身、2009年6月下旬、仏国籍を申請したイスラム教徒のモロッコ人女性について、ブルカの着用が「宗教の過激な実践」(pratique radicale de la religion)であるとして国籍付与の拒否決定を認める判断を示していますが、他方で、前述のように、政府提出法案の審査に際しては、公共の場所でのブルカ着用の全面的禁止には慎重な姿勢です。
 果たして、ブルカの着用が、女性に対する差別を表象する行為なのか、それとも文化的な多様性に過ぎない問題なのか(フランスの最新の報道によれば、ブルカを着用しているフランス人はおよそ2000人ほどだとか)。たしかに、目だし帽のようなブルカを着用している人を見て、欧州人がこれを奇異に思うという感情は理解できるのですが、こうした議論を突き詰めすぎれば、却って自由や文化的多様性が侵害され、ひいては19世紀欧州のような西欧優越的な思想へと発展してしまう事態になる気が、しないでもありません・・・。

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