(写真)問題となったビデオの画像
報道によると、フランスで9月上旬、オルトフー(Brice HORTEFEUX)内務大臣の発言が、人種差別的ではないかとして大きな議論になっているそうです。
問題となったのは、9月5日にフランス南西部ランド(Landes)県の保養地・セニョス(Seignosse)で開催された、与党・国民運動連合(UMP)の青年党員のための夏の研修会で、寛いだ様子の参加者らが屋外で立食パーティーらしきものを開いていたところ、「アミン」(Amine Benalia-Brouch)という名前のオーヴェルニュ(Auvergne)出身のマグレブ系フランス人青年男性が内相やコペ(Jean-Francois COPE)党国民議員会長らに近付き、記念撮影を希望。オルトフー内相とコペ会長は笑顔でこれに応じ、周囲の人々が「これこそが社会統合だ」(c'est l'integration)、「彼は、アラビア語を話す」(lui, il parle arabe)、「彼は豚肉も食べるし、ビールも飲む」(il mange du cochon, il boit de la biere)、「彼は我々の小さなアラブっ子です」(C'est notre petit Arabe)とアミンを紹介すると、オルトフー内相は「そうだとすると、彼は典型的な人とは全然違うな」(Il ne correspond pas du tout au prototype alors)と発言。それだけでもやや問題のあるやりとりなのですが、内相はそれに続けて「(そういう全然違う人が)常に必要なんだよ。1人のときは、まあいい。数が多いときに問題が起きるんだよ。」(Il en faut toujours un. Quand il y en a, un ca va. C'est quand il y en a beaucoup qu'il y a des problemes)と発言。これが問題視されています。
この発言の模様が、ビデオ映像としてインターネット上で公開されたこともあり、野党は一斉に反発。仏社会党(PS)をはじめとする左派政党は一斉に内相の辞任を求めたほか、人権擁護団体も批判。これに対して、オルトフー内相は、「数が多いときに問題が起きる」というのは、会場出発前にオーヴェルニュ代表団の党員が多数、写真を一緒に撮りたいと言っていたためだ、「典型的な人」とはオーヴェルニュ出身者のことを指したのであり、アミン氏は、背が低くてがっしりしている典型的なオーヴェルニュ出身者とは違うことを言いたかったのだ、と釈明。むしろ、ビデオの放映について、「メディアを使ったリンチだ」として、法的手段に訴える強気の意向ですが、やや苦しい説明にも思えます。こうした動きについて、ビデオに映っていた当の「アミン」氏は、「自分の出自についての会話があった訳ではない」「この論争はする意味がないし、このビデオは文脈から外れている」としてオルトフー内相を擁護しています。また、野党・社会党ながらラング(Jack Mathieu Emile LANG)元教育相は、「(内相は)誠実な人物であり、人種差別をしたことはない。」と述べているほか、パリ大モスクのブーバカー(Dalil BOUBAKEUR)管長も、「内相からは、フランスのイスラム教徒に対する敬意と親切心に溢れた言葉しか聞いたことが無い。」と述べています。
もっとも、内相の長年の友人であるサルコジ(Nicolas SARKOZY)大統領は、事件後、オルトフー内相に電話で「(内相の青年党員に対する)ぞんざいな態度」を注意し、業務に集中するよう求めたとの報道もあります。サルコジ大統領が長く市長を勤めたパリ近郊のヌイー・シュール・セーヌ市生まれで、サルコジ大統領の長く、最良の友人と言われるオルトフー内相は、サルコジ政権の発足時に移民・統合・国家像・共同開発大臣(Ministre de l'Immigration, de l'Integration, de l'Identite nationale et du codeveloppement)に指名され、次いで内務大臣となった人物。「実務優先」の大統領にとって、友人の「失言」は無視できない事件だったのでしょう。