(写真)多民族国家・フランスを象徴するパリのユダヤ人街
7月11日付け仏各紙の報道によると、フランスの国家評議会(最高行政裁判所に相当)は6月下旬、仏国籍を申請したイスラム教徒のモロッコ人女性について、ブルカの着用が「宗教の過激な実践」(pratique radicale de la religion)であるとして国籍付与の拒否決定を認める判断を示していたことがわかりました。
事件は、モロッコ人で仏人と結婚し、仏国籍の子供3人を養育する女性(イヴリンヌ県在住)が、「仏に同化できない人物」への国籍付与を禁じた2005年5月16日の政令の廃止などを求めて提訴していたもので、別の報道によれば、夫婦は厳格さで知られるイスラム教サラフィズムを信仰しており、夫の要望で妻もブルカを着用するようになったとか。国家評議会は、この女性がブルカを着用していることを踏まえ、「フランス語を使いこなしてはいるものの、他方で宗教の過激な実践を行っており、これはフランス社会の根源的価値、特に両性の平等の原則と両立しない。」「政令は信教の自由という憲法上の原則を無視したものではない。」と判断。女性の訴えを退けました。この判断について、一部の人権団体は歓迎している一方、在仏イスラム教徒団体は公式なコメントをしていません。
ブルカはアラビア半島、エジプト、シリアやアフガニスタンでイスラム教徒の女性が着用しているヘジャブ(ベール)の一種で、全身をすっぽり覆い、目のところだけ網目状になっていて外が見えるようになっています。全身を全く隠してしまうその外観が異様で、特にアフガニスタンではタリバン政権時代に女性に着用が義務付けられていた(共産主義時代は義務は無かった)ことから、西欧では普通のスカーフとならんで「女性への抑圧の象徴」と見られる傾向があります。更に言えば、現代のフランスでは、以前触れた離婚訴訟問題でもそうであったように、イスラム教の教えの一部を自由主義、民主主義に反するものとして批判する風潮があり、今回の判決もそうした流れを追認するものと言えます。とはいえ、こうした対応は信教の自由や文化的多元主義と緊張関係を孕んでおり、仏での議論の動向が注目されます。
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