パリ暴動：政府が緊急事態宣言（その１）（Ｔ）

（写真）リヨン郊外ヴェニシューで放火された自動車

　先月28日にパリ近郊で発生した若者らによる騒擾は、発生から10日以上がたった９日もパリ及びフランス各地で続き、これまでに車両6000両が放火され、1500人以上が逮捕されています。事態を受けてフランス政府は、８日の臨時閣議で2005年政令第1386号を決定し、1955年４月３日制定の「緊急事態の制度を創設しこれをアルジェリアへの適用を宣言する法律」（1955年４月３日法律第385号）第２条に基づく緊急事態を仏本土全域に宣告。同時に、同法第２条第２項の定めるところにより、政令第1387号を以って同法第６条、第８条、第９条、第11条第１項の適用区域（zone）として仏本土96県中25県を指定しました。緊急事態法によると、緊急事態の宣告地域（今回の場合、仏本土全て）の各県知事（フランスにおいて日本の県知事に該当するのは県議会議長で、県知事は中央政府が任命する地方官）は、必要と認めるときはいわゆる「外出禁止令（couvre-feu）」を布告できる（第５条第１項）他、住居から街路に投石・放火する場合等について通常の刑事司法手続きによらず昼夜を問わず家宅捜索を行い（第11条第１項）、劇場・映画館・バー等の公共空間の一時的閉鎖を命じることができる（第８条第１項）等の非常権限が付与されます（更に、民間人が保有する特定武器を警察・国家憲兵が一時領置することもできる＝第９条）。緊急事態宣言は最長12日間まで適用され、延長する場合は改めて政令を国会の議決を経た法律に格上げする必要があります（第２条第３項）。外出禁止令等に違反した場合、当局は最長２ヶ月の懲役刑または3750ユーロの罰金刑を課すことができます（第13条）。

　この緊急事態法は、1954年～62年のアルジェリア独立戦争当時、フランス国内が内戦状態一歩手前になった際制定されたもので、実際に仏本土では58年、61年と適用された他、1984年にはニューカレドニアのヌーメアに６ヶ月にわたり施行された実績がありますが、アルジェリア戦争後に本土で大規模に適用されたのは今回がはじめてで、それでも国民の73％がこの措置に賛成しているそうです（この他、仏憲法第16条に基づく大統領の非常事態措置が1961年４月25日から９月29日まで発動されたことがある。この非常事態措置が発動されると、共和国大統領は司法、立法、行政の三権に渡って人権制限を含む必要な措置をとることができる）。なお、この法律の条文と仮訳をここに掲載しましたので、詳しい条文まで読みたい方はクリックしてみて下さい。

　政令第1387号に基づく緊急事態法第２条第２項の指定区域の指定は、リヨンの位置するローヌ県ではリヨン市とこれに隣接するヴェニシュー市一帯に９日午前０時から実施されている他、９日朝の報道によれば、ローヌ県庁はリヨン市及びヴェニシュー市の一部に外出禁止令を官報で布告したそうです（但し、右事実について午後２時ごろ在リヨン日本国領事事務所に照会したところ、先方が県庁に確認した段階では禁止令はまだ発令されていないとか）。実際、ここリヨンでも、ヴェニシュー、リリュー・ラ・パップ、ヴォー・アン・ヴラン、サン・プリエストといった郊外地区でここ数日放火事件が多発しており（私の友人の従姉妹も、サン・プリエストの自宅前で車４台が放火されているところを目撃）、またロシアの取材陣が街頭で襲われたり、火災の消火にあたっている消防隊が危険に晒されたりしています。８日には地下鉄車両（午後10時頃）やバス（ヴォー・アン・ヴラン地区。一群の若者たちによって女性運転手を含む乗客が下車させられて放火された他、その他合計約15両が焼損）に対する放火も発生し、このためリヨン公共交通（ＴＣＬ）は当分の間（週末まで）、午後６時以降の地下鉄、トラム、バスの全路線の運転を全面的に取り止めました。ここ数日の傾向としては、自動車以外に公的施設や商業施設、ことに学校や駅を狙った放火が多発していることで、ヴェニシューやベイノスト（リヨン北東）では実際に幼稚園や小学校が被害に逢っています。幸い、我が家の周囲はいまのところ依然として平穏ですが、それでも近くにあるガラス瓶回収ボックスが放火され、また軽自動車１両が焼損しているのをみかけました。

（その２に続く）