マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)ボスニア内戦の爪後。(ボスニア連邦モスタル市内。2007年撮影。)
 
 5月26日の英国及びセルビアからの報道によると、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)から大量虐殺、戦争犯罪、人道に対する罪で国際手配されているラツコ・ムラディッチ(Ratko Mladic)元セルビア人共和国軍参謀総長(68歳)がセルビア警察によって逮捕され、セルビア特別戦犯裁判所に移送されました。同日、タディッチ(Boris Tadic)セルビア大統領が本人と確認した旨を公表しました。

(写真)内戦中に破壊され、その後再建されたモスタルの白い橋。(2007年撮影。)

 ムラディッチ元参謀総長が逮捕されたのは、セルビア北部のヴォイヴォディナ(Vojvodina)自治州(ハンガリー系住民が多数居住する地域)のラザレヴォ(Lazarevo)にある親戚宅で、「ミロラド・コモディッチ」(Milorad Komodic)という偽名(本名のアナグラム)で生活。16年の逃亡生活を経て、今回の逮捕に至ったとのことです。本人は、逃亡中に脳梗塞などを患い、逮捕されたときは拳銃2丁を持っていたものの、抵抗はしなかったそうです。逮捕についてタディッチ大統領は、「本日、我々は、我々の現代史の一つの章を閉じ、地域の完全な和解により一歩近づいた」「全ての国々が、それぞれの歴史の一章を閉じる責任を有している」「全ての犯罪は完全に捜査され、全ての戦犯は司法の裁きを受けなければならない」「我々は我々の歴史の困難な時期を終わらせ、セルビアとその国民の汚辱を雪いだ」等と演説しました。

(写真)ムラディッチ元参謀総長が移送される、オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所庁舎。
 
 ムラディッチ元参謀総長は旧ユーゴスラビア連邦人民軍の将校で、父親は第二次大戦中にナイチ・ドイツと連合したクロアチア人民兵組織によって虐殺されています。内戦中、旧連邦人民軍第2軍管区を母体に発足したボスニア・セルビア人共和国軍の参謀総長として、1992年からボスニア地域でのセルビア人勢力軍約8万人を指揮し、クロアチア系・ムスリム系ボスニア人の旧ユーゴスラビア連邦からの独立に反対すべく軍事行動を指揮、スレブレニツァ(Srebrenica)及びサラエボでムスリムを1万8000人以上虐殺したとされ、1995年7月、ICTY(1993年の国際連合安全保障理事会決議により設置された臨時裁判所で、オランダ・ハーグ市所在)から起訴されていました(その後、ムラディッチ元参謀総長は、1996年11月にプラヴシッチ(Biljana Plavsic)第2代セルビア人共和国大統領により解職。もっとも、そのプラヴシッチ元大統領もICTYに戦犯容疑で逮捕・起訴・収監されている。)。

(写真)ボスニア・ヘルツェゴビナの国境にある国名標識。ローマ字、キリル文字、そして英語で書かれている。

 なお、同様の容疑で国際手配されていた、セルビア人共和国のカラジッチ元初代大統領は、2008年7月にセルビア当局の手で逮捕、移送されています。特に、セルビア人共和国軍とセルビア系民兵組織「サソリ」が関与したとされるスレブレニツァ(Srebrenica)の虐殺は第二次世界大戦後に欧州で起きた最悪の虐殺とされ、これを防止することができなかったとして国連保護軍のオランダ部隊(安全地帯に指定されていたスレブレニツァを守備するために配置)が非難され(オランダ部隊指揮官がムラディッチ被告人と乾杯している映像が報道される等した。)、オランダ国内の政局に発展(コック首相の辞任)したため、今でもオランダは、セルビアのEU加盟にあたって、「ICTYへの全面協力」、即ちムラジッチ・カラジッチ両被告人の逮捕・送還を強く主張しています(欧州諸国の一部には、セルビア政府が、ムラジッチ被告人の捜索、逮捕を真剣にしてこなかったという批判もありました。)。今回、ムラディッチ元参謀総長が逮捕されたことで、これがオランダ・ハーグのICTYに移送されれば、セルビアのEU加盟に向けた動きが一層進むものと思われます。



コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



« 婦女暴行容疑... 仏公務員担当... »
 
コメント
 
 
 
ジャパンエクスポの記事の件 (通名トド子)
2011-06-01 00:38:18
現在、コメントを受け取らないよう設定されております。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。
言い捨てって卑怯ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=zt3fZc3ZqHQ&feature=player_embedded
きちんと内容を総括しなければトド子のブログで貴兄ブログを記事にさせていただきます。
ご了承くださいませ♪
 
 
 
通名トド子さん (管理人)
2011-06-01 22:12:02
 管理人です。
 通名トド子さん、コメント投稿、ありがとうございます。

 「ジャパン・エキスポ」に関する記事については、2006年当時の第7回エキスポについて書いた記事がもとでコメント投稿が多数あり、コメント欄内部での議論もあったところ、当初の記事の論旨を改めて明確にし総括すべく、2010年7月4日付記事「日本文化の発信と外国人」を再投稿した経緯があります。

 コメント欄に投稿があった意見は、コメントを受け付けなければ「言い捨てであり卑怯である」との批判もあろうと考え、記事の論旨に賛成・反対のものを問わず、必ず一読した後に原則として公開設定をして受け付けてきており、投稿数が100に達したところで一応の締め切りとしています。記事1本に対してのコメント数なので、管理人としては、賛成にしろ反対にしろ、100件掲載すれば概ね論点は出尽くし(100件が多いか少ないかは感覚の問題もあるでしょうが、少なくとも、著名人ブログでもない弊ブログとしては、それなりに多い投稿数だと考えています。)、意見を書いていただく期間も十分フェアにとったと考え、あとは読む方の判断にお任せしたいと思っています(そして、実際のところ、論旨に反対のご意見が多かったので、反論も十分掲載させていただいたと考えます。)。なお、こうした方針は、2010年の記事を掲載した際に、あらかじめお示ししているところです。

 以上が管理人(そして原記事投稿者)の考え方であり、通名トド子さんのコメントに対するリプライです。ご自身のブログで紹介・引用されることそのものを押しとどめるつもりはありませんが、貴ブログで議論をされるのであれば、(1)ジャパン・エキスポに関する元の記事は2006年の第7回ジャパン・エキスポのパリでの現場を見た感想を元にしていること(2011年の回では剣道の扱いが問題となっているようですが、2010年や2011年の「ジャパン・エキスポ」については、現場を訪れた訳でもなく、また積極的に情報を集めている訳でもないので、特段論評しておりませんし、2つの記事の議論対象でもありませんので、念のため。)、(2)私が書いた2つの記事の内容を十分踏まえたものとされること(2010年の記事でも書きましたが、私は、「日本文化の担い手に外国人が参入すること」と「日本文化を自国発祥だと外国人が僭称すること」を区別して論じていますし、無論、後者を容認している訳では全くありません。)、の2点を留意願います。
 
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。