Kバレエカンパニー(兵庫・兵庫県立芸術文化センター)
幕が開くとしばらくは音楽のみで、暗い舞台には例によって紗幕が下がっている。そこには大きな盾の紋章が描き出されており、〈百年の眠り〉を象徴するかのように蔓草がからみついている。なんだかそれを見ているだけで、これからの舞台の重厚さが予感される。
やがて、紗の向こうに悪の妖精カラボスの姿が映る。王女の誕生祝いに招かれなかったせいで怒り狂っている。けれど、その姿はマジックのようにすっと消える。
そしていよいよ紗幕も上がると、そこには、それはそれは美しい宮廷模様が広がっている。
全幕を通して舞台美術が素晴らしい。第3幕などは、書き割りとわかっていても、柱廊がずっと奥まで続いている気がしてならなかった。美術に調和した衣装も美しく品があって、かつ幻想的。開幕早々、ああ、来てよかったと大満足。
チャイコの三大バレエ。熊哲版「白鳥の湖」と「くるみ割り人形」は2度ずつ見たものの、「眠りの森の美女」だけチャンスがなくて、ようやく今日が初見。
お話自体は単純だ。
カラボスに呪いをかけられたオーロラ姫とともに国全体が百年の眠りにつき、それがフロムリント王子のキスによって目覚める。姫と王子は結ばれてめでたしめでたし。
ストーリーを追うよりも、次々と繰り出されるヴァラエティ豊かな個人技を楽しむ構成になっているようだ。
それでも、何も知らない姫が糸車の錘(つむ)を持って踊るあたりではぞわっと鳥肌が立った。
熊哲王子が登場するのは2幕目以降。高いジャンプや弾丸のような跳躍で会場を沸かせるのはお約束だけれども、本人も笑ってしまうくらい息が上がっている様子で、「ボクもそろそろきついのよ」とでも言っているようなその表情がまたキュートで、きっと永遠に女性客を離さないのだろう。
彼が若干控えめだった分、他の男性ダンサーたちの見せ場が多い。宝石のヴァリエーションの遅沢さんや、青い鳥の橋本さんがそれぞれの妙技で喝采を浴びていた。
彼らもだが、オーロラ姫、リラの精も含めて、一箇所に留まり、同じポーズでヴァランスをとり続けるといったような静止技が随所に配置されている。ちょっと揺れればやり直しがきかないだろうから、見ているほうも緊張する。もともとそれがこの曲の特徴みたいだ。
1階センター付近のかつてなく贅沢な場所で見ていたので、そんな個人個人の技がかなりよく観察できた。
しかし、何と言っても今回の舞台で一番印象的だったのはスチュアート・キャシディ演ずるカラボスだ。怖いほど迫力があるのにユーモラスでもあり、困ったことに美しくもあった。
そして、カラボスの名もない手下たち。
不気味な面と衣装をつけて、いとも不思議な動きをする。蠢くようなダンスが圧巻。プログラムに名前が出ないのは不当に思えるくらいだ。
オーロラ姫は主役のわりにはオーラが薄かったようにも感じたけれど、3幕で王子に抱えられて作る空中ポーズは完璧だった。そうそう、熊哲が女性のサポートという面でもお手本のような演技をここかしこで見せていたっけ。
カラボスがかけた呪いはオーロラ姫の〈死〉だったけれども、これを弱めて〈長い眠り〉としたのはリラの精の手柄。姫の眠りを覚ます王子を探して連れてくるのも彼女。優雅な存在感で全幕をリードしてくれました。
第3幕は姫と王子の結婚式で、同じペロー作のよしみで他の童話から登場人物が駆けつけてダンスを披露するという趣向。〈長靴を履いた猫〉や〈赤ずきんちゃん〉たち。
狼に追いかけられながら踊る赤ずきんちゃんは、どこかで見た銅版画の挿絵そっくりの驚愕の表情が面白かった。
熊哲ひとりの魅力ではなく、カンパニー全体の持てる力を結集して厚みのある舞台に仕上がっていると思う。今度チャンスがあったら、もう少し引いた位置から観賞してみたい。DVD版も見てみたいな。
追記)そういえば、梅若玄祥さんが数列前に坐っていて(もしかするとお孫さん連れだったかも)、なぜか休憩時間のたびにそのサスペンダー姿とすれ違うのだった。終演後は楽屋口に消えて行かれました。
*****
オーロラ-姫:東野泰子 フロムリント王子:熊川哲也
カラボス:スチュワート・キャシディ リラの精:浅川紫織 他
幕が開くとしばらくは音楽のみで、暗い舞台には例によって紗幕が下がっている。そこには大きな盾の紋章が描き出されており、〈百年の眠り〉を象徴するかのように蔓草がからみついている。なんだかそれを見ているだけで、これからの舞台の重厚さが予感される。
やがて、紗の向こうに悪の妖精カラボスの姿が映る。王女の誕生祝いに招かれなかったせいで怒り狂っている。けれど、その姿はマジックのようにすっと消える。
そしていよいよ紗幕も上がると、そこには、それはそれは美しい宮廷模様が広がっている。
全幕を通して舞台美術が素晴らしい。第3幕などは、書き割りとわかっていても、柱廊がずっと奥まで続いている気がしてならなかった。美術に調和した衣装も美しく品があって、かつ幻想的。開幕早々、ああ、来てよかったと大満足。
チャイコの三大バレエ。熊哲版「白鳥の湖」と「くるみ割り人形」は2度ずつ見たものの、「眠りの森の美女」だけチャンスがなくて、ようやく今日が初見。
お話自体は単純だ。
カラボスに呪いをかけられたオーロラ姫とともに国全体が百年の眠りにつき、それがフロムリント王子のキスによって目覚める。姫と王子は結ばれてめでたしめでたし。
ストーリーを追うよりも、次々と繰り出されるヴァラエティ豊かな個人技を楽しむ構成になっているようだ。
それでも、何も知らない姫が糸車の錘(つむ)を持って踊るあたりではぞわっと鳥肌が立った。
熊哲王子が登場するのは2幕目以降。高いジャンプや弾丸のような跳躍で会場を沸かせるのはお約束だけれども、本人も笑ってしまうくらい息が上がっている様子で、「ボクもそろそろきついのよ」とでも言っているようなその表情がまたキュートで、きっと永遠に女性客を離さないのだろう。
彼が若干控えめだった分、他の男性ダンサーたちの見せ場が多い。宝石のヴァリエーションの遅沢さんや、青い鳥の橋本さんがそれぞれの妙技で喝采を浴びていた。
彼らもだが、オーロラ姫、リラの精も含めて、一箇所に留まり、同じポーズでヴァランスをとり続けるといったような静止技が随所に配置されている。ちょっと揺れればやり直しがきかないだろうから、見ているほうも緊張する。もともとそれがこの曲の特徴みたいだ。
1階センター付近のかつてなく贅沢な場所で見ていたので、そんな個人個人の技がかなりよく観察できた。
しかし、何と言っても今回の舞台で一番印象的だったのはスチュアート・キャシディ演ずるカラボスだ。怖いほど迫力があるのにユーモラスでもあり、困ったことに美しくもあった。
そして、カラボスの名もない手下たち。
不気味な面と衣装をつけて、いとも不思議な動きをする。蠢くようなダンスが圧巻。プログラムに名前が出ないのは不当に思えるくらいだ。
オーロラ姫は主役のわりにはオーラが薄かったようにも感じたけれど、3幕で王子に抱えられて作る空中ポーズは完璧だった。そうそう、熊哲が女性のサポートという面でもお手本のような演技をここかしこで見せていたっけ。
カラボスがかけた呪いはオーロラ姫の〈死〉だったけれども、これを弱めて〈長い眠り〉としたのはリラの精の手柄。姫の眠りを覚ます王子を探して連れてくるのも彼女。優雅な存在感で全幕をリードしてくれました。
第3幕は姫と王子の結婚式で、同じペロー作のよしみで他の童話から登場人物が駆けつけてダンスを披露するという趣向。〈長靴を履いた猫〉や〈赤ずきんちゃん〉たち。
狼に追いかけられながら踊る赤ずきんちゃんは、どこかで見た銅版画の挿絵そっくりの驚愕の表情が面白かった。
熊哲ひとりの魅力ではなく、カンパニー全体の持てる力を結集して厚みのある舞台に仕上がっていると思う。今度チャンスがあったら、もう少し引いた位置から観賞してみたい。DVD版も見てみたいな。
追記)そういえば、梅若玄祥さんが数列前に坐っていて(もしかするとお孫さん連れだったかも)、なぜか休憩時間のたびにそのサスペンダー姿とすれ違うのだった。終演後は楽屋口に消えて行かれました。
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オーロラ-姫:東野泰子 フロムリント王子:熊川哲也
カラボス:スチュワート・キャシディ リラの精:浅川紫織 他
田舎では、子供達中心の発表会くらいしか、ナマは見られません。
大阪でも、もう劇場がないとか、宝塚ファンの友人(ちぐささん)も嘆いています。
たまたま先日TVで放映していた、「ロミオ&ジュリエット」にうっかりはまってしまって抜けられず、睡眠不足になりました^^;
バレーって大人のためのものだったのですね~
京都でもプロのバレエ公演は滅多にありません。神戸までは遠いです。
でもこの会場は西宮北口駅から直結していて、とても便利なのでラッキーでした。
TVでやってたロミジュリって、バレエ版だったのでしょうか? 見たかったなぁ。