月扇堂手帖

観能備忘録
あの頃は、番組の読み方さえ知らなかったのに…。
今じゃいっぱしのお能中毒。怖。

顔見世 昼の部

2008年12月21日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
當る丑歳吉例顔見世興行東西合同大歌舞伎(京都・南座)

今日は友人と示し合わせて和装で鑑賞。お能だと、この長丁場を着物では耐えられないのだけれども歌舞伎だと平気なのはなぜなのだろう。

「正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)」
男女の力比べという風変わりな主題を愛之助と孝太郎がコミカルに演じる。かつて孝夫と秀太郎が演じたおりの写真がプログラムに載っていて、なんとも美しい。片岡家のさらなる繁栄を祈りつつ。

「八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう) 湖水御座船の場」
どどーんと大きな船のスケール感がよい。劇場に来ました!という満足感が得られます。書き割りの水面が綺麗で、どこまでが床でどこから壁なのかわからないだまし絵のようになっている。

加藤清正暗殺伝説をもとにしたお話。我當扮する砂糖肥田守正清が毒を盛られて死ぬまで。脇腹を向けていた船が、最後にはぐるりと正面を向く。

この船に乗っているのが、これまた我當、秀太郎、進之介、愛之助と、全員片岡一門。なので、初番に続きここでも掛け声は「よっ、松嶋屋!」のみ。

どうやら昼の部は、片岡一門の担当のようだ。

「藤娘」
なんとなくもっさりした印象。早替わりがあまり早くなくお囃子を待たせたりもして。しかしながら、通の方には別の感慨があるらしい。

「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり) 鶴ヶ岡八幡社頭の場」
ここでも我當さん、活躍。大忙しです。その分、夜は遊べるのだろうか。
黙って座っていただけの梶原方大名役、中村種太郎君が綺麗だった。

「ぢいさんばあさん」
本日のメイン、仁左玉のお芝居。やっぱり新作や能風歌舞伎よりも、このような世話物というか人情物というか、歌舞伎らしい歌舞伎がいいなと思う。

とはいうものの、実はこれも昭和26年初演の新作には違いなく、原作は森鷗外の短編なのだそうだ。作・演出は宇野信夫。
東京、大阪で同時に初演され、東京方は二代目猿之助&三代目時蔵、大阪は十三代目仁左衛門&二代目鴈治郎(と書かれてもわたしにはさっぱりわかりません)。

友人曰く、仁左衛門がおじいさんになって出てきたとき、「十三代目かと思った」。そっくりだったらしい。

先が予想され、わかっている結末に向けて話は進んでいくのに、それでもほろりと涙が出てしまう。とってもとってもよかった。

お能の公演はたいてい一日限りのもので、歌舞伎は何日間も同じ公演をする。お能の集中力も大変なものだと思うけれども、何日も同じことをやっていてきちんと気持ちを入れるというのも生半可なことではないだろう。プロってすごいな、これで夜の部では鬼になったり六条になったりするのだし。

夜の部では貴公子の海老蔵が、ここでは完璧に悪役。似合います。ぴったりです。上手です。

じいさんばあさんの再会に際して、相似形のように若く仲睦まじい甥夫婦を愛之助と孝太郎が演じる。いろいろな世代のひとが、それぞれに自分を重ねて楽しめる演目。特に既婚者には思いあたる箇所が数々あり。

「これからのわたしたちの人生は余生ではない」という台詞は、年配の方にはぐっときそう。みんな頑張って生きていこう、みたいな。



今年の顔見世、昼の部は関西勢主体の歌舞伎らしい歌舞伎、夜の部には源氏物語千年紀も意識しての新作や玉三郎好みの新しい試みをまとめ、いろいろ考え尽くされた番組構成になっていた模様。個人的には、昼の部のほうが満足度高し。

★今日の当惑:歌舞伎の番組表、下の名前だけで書かれても、見慣れていないので誰が誰やらわからない(T-T)

*****

『正札附根元草摺』
 曽我五郎:片岡愛之助 舞鶴:片岡孝太郎
『八陣守護城 湖水御座船の場』
 正清:片岡我當 雛衣(ひなぎぬ):片岡秀太郎
 家臣斑鳩平次:片岡進之介 家臣正木大介:片岡愛之助 他
『藤娘』
 藤の精:坂田藤十郎
『梶原平三誉石切 鶴ヶ岡八幡社頭の場』
 梶原平三:中村吉右衛門 六郎太夫:中村歌六 梢:中村芝雀
 大場三郎景親:片岡我當 俣野五郎景久:中村歌昇 他
『ぢいさんばあさん』
 美濃部伊織:片岡仁左衛門 るん:坂東玉三郎 弟:中村翫雀
 甥宮島久弥:片岡愛之助 久弥妻きく:片岡孝太郎
 下嶋甚右衛門:市川海老蔵 他


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