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Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

新聞記者

2019-07-17 | 日本映画(さ行)
★★★★ 2019年/日本 監督/藤井道人 

(映画館)

視線の映画だ。杉原と吉岡。追いつめられてなお愚直に正義を貫こうとする彼らのまっすぐな横顔に引き込まれる。ラストは互いの正面を捉えるショット。2人の視線は交わるが、横断歩道に挟まれてしまう。視線の向こうを観客も共に凝視し続け、ラストまで高いテンションで鑑賞した。

現政権の暗部を描いたことでも話題だが、不正に向き合う人間の真摯な姿を描く作品としても見応え抜群。個人的には当事者本人の出演シーンで興をそがれたのが残念。役者の中に混じると違和感が生まれ、作品への没入感がサッと引いてしまった。あの討論番組は役者を使って撮影して欲しかったな。それでも、実際の事件が今なおその真相がくすぶっている中で本作を作った意気込みは評価に値する。

あとね、とにかく松坂桃李がすばらしい。ちょっとした仕草や表情で苦悩や躊躇、決意を表現していて驚いた。表情の演技がここまでうまいなんて。彼が出演することによって、若い映画ファンが来てくれることの意味はとても大きいと思う。

斬、

2018-12-11 | 日本映画(さ行)
★★★★ 2018年/日本 監督/塚本晋也

(梅田シネリーブル)
いきなり爆音上映が始まったのかと思われるような石川氏の音楽が圧巻。極限状況に達した人間のエロスとタナトスが交錯する実に濃密な80分。腕は立つのに人を斬れない浪人、池松壮亮の色気がスクリーン中に漂う見事な1本でした。そして、野火・沈黙を経た俳優・塚本晋也が貫禄の演技。上映前にパンフレットにサインする監督をお見かけしたけど、あの柔和な微笑みと作品世界とのギャップがまた魅力的。

娼年

2018-10-24 | 日本映画(さ行)
★★★ 2018年/日本 監督/三浦大輔

「愛の渦」もだったんだけど三浦監督の演出は私の波長とは合わない。例えば、幾度となくクローズアップされる性交中の果てる間際の男のお尻。狙った演出に感情が揺さぶられるとは逆にむしろ引いてしまう。笑い飛ばせばいいのか、ここは?わからん。松坂桃李は美しかった。江波杏子さんの凛とした着物姿も素敵だった。

個人的には元宝塚トップスターらしからぬ作品選びをしている真飛聖さんが気になる。ワケあり美女のアンニュイさが良き。 

切腹

2018-02-27 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 1962年/日本 監督/小林正樹

(U-NEXT)

蜘蛛巣城の三船に対抗できるのは、この仲代達矢か。
それくらい大立ち回りが始まってからの仲代がカッコいい。
美術が戸田重昌、音楽が武満徹の作品は全部傑作に違いないのだが、
惜しむらくは仲代の立ち回りに行くまでの身の上話のくだりがやや長いと感じられること。

武家屋敷や日本家屋をスタイリッシュに撮影するということ。
これは、邦画にとって殺陣同様、継承してくべきもの。
歴史的背景など深い知識のもとに美術をセレクトし、正しく配置すること。
そして、それらを美しく撮るテクニック。
アクション全盛の今、殺陣よりむしろこちらの方が危機的状況かもと思わされる。

それにしても、リマスターされたモノクロ映像が美しい。
どんどんこういうクラシックをリマスターして配信してほしい。

醜聞 スキャンダル

2018-01-31 | 日本映画(さ行)
★★★★ 1950年/日本 監督/黒澤明

(CS)

新進画家の三船が避暑地で偶然出会った声楽家の女性とのツーショットを記者に撮られ、一大スキャンダルに。
汚名を晴らすべく雑誌社を訴えることにするが…。
当時流行したカストリ雑誌なるエロ雑誌を背景にしているが、
ないことねつ造したり、大衆からのいわれなきバッシングなど、これって文春砲の話じゃん!
今も昔も、全く変わらんよねえ。

で、このお話2人がいかに裁判を乗り切るのかという展開かと思えばさにあらず。
肺病の娘を持つ貧乏弁護士(志村喬)の話へと変わってゆく。この転換が面白い。
また、弁護士のくせに話下手、情にもろいだめ人間を志村喬が好演。
このキャラクターは「生きる」に引き継がれているように感じた。


静かなる決闘

2018-01-25 | 日本映画(さ行)
★★★★ 1949年/日本 監督/黒澤明

(CS)

野戦病院で手術中に梅毒に感染した青年医師の苦悩を描く。
せっかく戦争が終わったのに病気のせいで婚約者との結婚を拒む三船に対して
梅毒を移した張本人が結婚もして自堕落に暮らしていることがコントラストとなって、
観客を一層エモーショナルにさせる。
見る側をやきもきさせながら、最後には倫理に反した人間は罰を受ける。
その明快さはやはり黒澤。気持ちがいい。
ストイックな三船がとてもいいのだが、それ以上に千石規子がいい!
やさぐれ女から三船の生き様に打たれ、心清き看護師に生まれ変わるラストの清々しい表情がすばらしい。
「道」のジュリエッタマシーナを思い出した。

サバイバルファミリー

2018-01-20 | 日本映画(さ行)
★★★★ 2017年/日本 監督/矢口史靖

(WOWOW)

日本でエンタメを撮る監督は「3.11」は避けては通れない。
矢口監督は腹をくくって真摯に向き合い、本作を生み出したことがうかがえる。
それは「東京で電気が使えなくなったら」をリアルに追求した生々しさ。
ペットボトルが1本2000円とか、ゲスいことホントにいっぱいありそうでぞっとする。
また、日本を縦断して九州まで向かうロードムービーでもあり、
そこでの様々な出会いと別れにより家族が成長していく物語としても非常によくできた作品と思う。
意識高い系の紀香様御一行(キャスティングが絶妙)を筆頭に
災害時の人々の意識や行動に対するアンチテーゼが様々なカタチで示され、考えさせられた。
「せっかくだからこの状況を楽しまなくちゃ」の紀香のセリフのしらじらしさには心底笑った。


素晴らしき日曜日

2017-12-17 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 1947年/日本 監督/黒澤明

(CS)

貧しいカップルが日曜を過ごす、ただそれだけの話。
これが黒澤なの?というミニマルさだが、それで1本のエンタメとして成立させているのは凄いことじゃないのか。
しかもラストはハウスオブカードのごとく、観客への呼びかけをして「第四の壁」を破る大胆さ。
無料展示場で夫婦ごっこをする、ダフ屋に殴られるなど、デート中に次々と起きるエピソードに泣ける。
それでも「前を向いて生きるしかない」というメッセージが強く表われているのが黒澤らしい。
金がないとグズグズ言う雄三を常に元気づける昌子。
観客はもちろん、黒澤が戦後の自分自身を鼓舞する作品のようにも思う。

聖の青春

2017-12-10 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 2016年/日本 監督/森義隆

(WOWOW)

原作ファンには納得できない改変部分もあるようだが、私はとても感動した。
体重を増やして熱演した松ケンもいいが、これは完全に東出が持っていってしまった感。
例えば対局が終わってぼそっと話し出す東出は演技というよりも
「作品の中に確かに存在する天才棋士」としか見えない。
モノマネ演技ではなく、余命わずかな聖が恋い焦がれ、
乗り越えたい壁として圧倒的な実在感で存在している。
ラストの長い対決シーンには永遠性を感じた。
それは命を懸ける者にしか生み出せない宇宙のよう。
映画を見て「永遠」という言葉が浮かんだのは久しぶり。
昨年見てたらベスト10に入ってたなー。

續姿三四郎

2017-12-05 | 日本映画(さ行)
★★★☆ 1945年/日本 監督/黒澤明

(CS)


前作「姿三四郎」に比べて、スピード感のあるカット割が増えアクション映画として面白くなっている。
しかも、柔道VSボクシング、柔道VS唐手という異種格闘技戦の面白さをこの時代にやってることがすごい。
ラストの大雪山での決闘に迫力が欠けるのが何とも残念。
前回が風ふきすさぶ草原だったから、今回の決闘は雪だ!って感じでハンパない大雪山なんだけど、
足元を雪にとられて全然アクションが成り立ってないw。
これはもう、黒澤が雪山設定に気合い入れたけど、
役者が全然動けんかったってことなのか。無茶させてるのがよおくわかる。
しかし、戦時中なのにアメリカ人キャストはたくさん出てるし、これだけの娯楽作をよく作れたものだ。

姿三四郎

2017-11-09 | 日本映画(さ行)
★★★★ 1943年/日本 監督/黒澤明

(CS)

黒澤コンプリート始める。

黒澤のデビュー作でさすがに映像が古い。
でも、背負い投げをしたあとのジャンプカットとか、
エンタメとして面白くしようという意気込みがすごい感じられる。
風吹きすさぶすすき野での月形龍之介との決闘も迫力。
でもやっぱ、映像が古くて画質がつらいなあ。

セトウツミ

2017-10-27 | 日本映画(さ行)
★★★☆ 2016年/日本 監督/大森立嗣

(Amazonプライム)

河川敷で延々と続く大阪の高校生のボヤキ漫才。
ふたりの背景に移る通行人など、大森立嗣の演出も細部まで行き届いていて良い。
何より関西弁ってええなあと思わされ、関西人としてはほっこりした気分にさせてもらえる。
そして、菅田将暉は何をやらせてもそつなくこなす。すばらしい。

三度目の殺人

2017-10-18 | 日本映画(さ行)
★★★★ 2017年/日本 監督/是枝裕和

(映画館)

「裁く」とは何かを問いかける哲学的作品。
いつもの是枝風とは一線を画しており、まるでフランス映画のよう。
十字架のモチーフや苦しむ人の思いを忖度して罪を犯すということから、役所は神なのかと思わされる。
神に触れ罪に気づいた福山は最後は十字架に架けられるのか。
どうしても犯人は誰か、動機は何かというところに観客の思いは行ってしまうが、
本作はそれは関係ないのだと気づかされるターニングポイント、及び、物語の誘導が弱いように感じる。
それはつまり、役所の存在そのものにもっと光をあてないといけないわけだが、
そうなるには「スター福山の起用」が邪魔をしている。
福山の役割は「凶悪」における山田孝之が近い。
悪(本作では役所の不条理な行動)を際立たせる狂言回しであるが、
確実に自分も狂わされていく様子を内面から演技で見せなければならなかったが、福山には荷が重かったか。
例えば、ジャック・オーディアールなんかがリメイクすればもっとわかりやすい作品になるかもしれない 。

散歩する侵略者

2017-10-03 | 日本映画(さ行)
★★★☆ 2017年/日本 監督/黒沢清

(映画館)

いかにも元が舞台というのがわかりノレず。黒沢清なのに!
そもそも「概念」という非常に複雑なものをその辺の人間が「言葉」にすることで本当に理解したことになるのか。
舞台ではなく映画なんだから「概念をもらう」というのを映像的に見せて欲しかった。そして、黒沢印が少ないのが物足りない。
長澤まさみは良かった。

早春

2017-08-09 | 日本映画(さ行)
★★★ 1957年/日本 監督/小津安二郎

(DVD)
小津作品は(個人的に)すばらしい作品、許せる作品、許せない作品の3種に分かれるのだが、
これは、残念ながら許せない作品だ。

許せる許せないという感情的な見方になるのは、
どうしても「そりゃねーよ」というトホホなセリフが頻発するからである。
特にジェンダー論的に。

本作では主人公の友人が妻が妊娠してしまい、
子供を育てていくだけのサラリーがないと嘆くシーンがあるのだが、
なんとまあそこで「土手でカミさんを突き飛ばしちゃったんだけど、腹は大丈夫だよな?」とかなんとか言うシーンがあり、
いつもの小津調繰り返しセリフで「大丈夫だよ」「うん、大丈夫だよな」とか、
「それでダメになったらしょーがねーよな」「うん、しょうがないよ」とか、もうおいおい、とうなだれるばかりである。

キスシーン、そして不倫翌日の朝のシーンと、小津にしてはやけに生々しいシーンがあるのは
岸恵子という女優起用のなせる技か。
サラリーマンはつらいよって、ことがテーマだが、
現代人の目から見ても、ジェンダー目線から見ても、
おめーらのんびり喜楽に会社員してるじゃねーか。としか思えないのでR。