秋の七草の一つ「クズ」が空き地や川沿いの土手などを覆い尽くしている。繁殖力がきわめて旺盛な植物である。その性質が買われて土壌浸食防止の目的で諸外国に導入されたが、1930年代にアメリカ南部に移入されたものは、気候と土壌が合ったのかコントロールできないほどの雑草になって大騒ぎになったことがある。
日本では荒地や利用されていない河川敷などを占拠しているだけで、良質のデンプンが得られる植物として利用されている。太く長い塊根は1本で30kgを超すものもあり、約20%のデンプンを含んでいる。
デンプンをとるのは蔓が枯れた冬の作業である。掘り起こした塊根を叩き潰して何度も水に曝す作業を繰り返すと真っ白なデンプンが沈殿する。それを乾燥させて砕いたものが本葛粉である。ジャガイモから大量に生産されるデンプンに比べて高価であるが、高級料理や和菓子での需要が多い。
とかく邪魔者扱いされるクズであるが、他にも利用されている。長く伸びた蔓を刈り取って大釜で茹でてから地中に埋めて発酵させ、それを水で揉み洗いして得られた繊維で織った布が「葛布」でかつては袴などに加工されたりしたが、今では衣料として使われることはほとんどなくなった。しかし、丈夫で野趣に富んでいるので襖や壁に貼ったり装本用の布として珍重されている。
もっと馴染み深いのは漢方の葛根(かっこん)であろう。血行を良くし、血糖値を下げ、解熱作用もあるなど利用範囲が広い。
花の季節は今である。葉腋から出た総状花序に紫紅色の花をたくさんつける。この花が芳香を放つことをご存知だろうか。