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象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

”不愉快”なアメリカを皮肉った映画〜「オールド・リベンジ」

2025年02月17日 04時11分43秒 | 映画&ドラマ

 低予算のスリラー映画(英)で、原題は”OFENSIVE”と、直訳すれば”不愉快で目障りだ”となるが、まさにこの通りの展開であった。流石に、”オールド・リベンジ”ではB級映画っぽく、”OFENSIVE”との原題を知らなかったら、まず観る事はなかったろう。
 勿論、若者による”親父刈り”系の作品ではあるから、親父世代の私から見れば、他人事には思えなかった。


「オールド・リベンジ」(2016)

 初老のアメリカ人である、バーナードとヘレンのマーティン夫妻が弁護士から思いがけない相続話を聞かされる。それは、バーナードの父親の戦友が世を去り、彼が住んでたフランスの片田舎の一軒家を老夫妻に譲り与えるというのだ。賃貸生活を抜け出し、念願のマイホームに喜んだ夫妻は、田園風景が広がる現地で新たな人生をスタートする。
 だが、“理想のリタイヤ生活”はまもなく崩壊。近所を徘徊する若い(おバカな)ストリート集団が、夫妻の敷地内への不法侵入し、破壊行為を繰り返す。やがて、隣人の老人を死に至らしめるが、地元警察は捜査を行う気すらない・・(Filmarks)

 ここまで書けば、その後の展開は大方予想できるが、ブチ切れたバーナードはバカな若者を次々と殺し、”殺害は犯罪よ”と夫を責める妻のヘレンまでもが殺人に手を染める。ここで、ようやく地元警察が動き始めるが、バーナードは彼ら警官をも殺してしまう。
 初老のアメリカ夫妻が言葉の通じないフランスに移住し、地元の腐った警官やその腐った環境で育った若者に、最後はブチ切れて皆殺しにする。
 だが、逆の視点で言えば、フランスのド田舎の若者や警官からすれば、アメリカから来た老夫妻は”不愉快で目障り”な存在にしか映らなかったろう。つまり、互いを”OFENSIVE”な存在として、見下しているのだ。

 確かに、国際的な世論で言えば、今のアメリカは”不愉快で目障り”な老大国に過ぎず、トランプ政権が掲げる”アメリカ1st”なんてハゲ老人の傲慢な押し付けに過ぎない。故に、アメリカから来た老夫婦を徹底して排除しようとする、フランスのグレた若者やおバカな警官の気持ちも理解できなくはない。
 一方で、「収奪と買収のアメリカ」でも書いたが、2度の世界大戦でヨーロッパが戦場となり、多くをアメリカから搾取されたフランスからすれば、初老の夫婦と言えど、”厄介で不愉快”なアメリカの民には変わりはない。

 因みに、この映画は英国で製作され、フランスを舞台にしてはいるが、アメリカに対する潜在的で”OFENSIVE=不愉快”な思いが強く濃く描かれている。そういう意味では、隠れた秀作とも言える。
 最初は”親父刈り”の視点で展開の流れを追っていた私だが、最後はそういう思いを一層強くした。どうやら、トランプ再選により、アメリカを不愉快で目障りな老大国と思ってるのは、私だけではないらしい。
 レヴューでは、親父が苛つく若者やバカな警官どもを皆殺しにし、お陰で”スカッとした”との声も目立つが、意外にも根が深い作品にも思えた。
 という事で、星4つとしたい。


「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」(2019)

 次の作品は、実話を元にした映画で、2011年11月にNY州で起きたケネス・チェンバレン射殺事件に基づく。
 上映時間は83分と短いが、実際の事件をリアルタイムで追体験する構成をとってるが故に、最初から最後まで目が離せないリアルな展開が私を釘付けにした。

 心臓病を患う68歳の黒人ケネスは、貧しい一人暮らしのアパートで寝ぼけて医療用通報装置を作動させしてしまう。ライフセンターから確認の通信が入るも気づかないケネスだが、ライフセンターは地元警察に安否確認を依頼。やがて、駆けつけた3人の白人警官と、ドア越しに”間違いだ、オレは大丈夫だ”と話すケネス。だが、実際に顔を見て安否確認するまではと、安全と任務を理由に引き下がらない警官たちとの押し問答が始まり、やがて大きな騒ぎに発展する。
 と、ここまで来れば、後の展開は大方掴めそうだが、この老人は躁うつ病の病歴があり、かなり厄介で手強い。被害妄想が強すぎるのか、素直にドアを開ければいいものを・・それが出来ないのだ。
 一方で白人警官らは、黒人(の老人)が何かを隠してると一方的に疑い、室内を見るまではと諦めようとはしない。老人はライフガードに間違いの通報だったと話し、安否確認を取り消してもらうも、警官らは応援の緊急対応班を呼び、斧やハンマーでスチール製のドアを破壊し始めるのだ。

 もうここまで来れば、警官たちも老人も一歩も引かない。その後、アパートの住民をも巻き込み、更に、離れて暮らす家族らが次々と電話をかけるも、老人は”令状もないし、違法だ”と頑なにドアを開けるのを拒む。
 最後は、警官らがドアを突き破って突入し、老人はテーザー銃で撃たれ、組み伏せられるが、興奮した若い白人警官が老人を射殺してしまう。因みに、この事件で起訴され、有罪となった警官はいなかったとされる。

 全く後味の悪い映画ではあるが、警官の侵入を頑なに拒む老人の気持ちも判るし、(任務上)その老人を疑う警官の気持ちも理解できる。一方で、お互いに白人同士であれば、ここまで拗れる事もなかったろうが、”黒人VS白人”という根深い人種差別の壁が、押し問答的な小さな騒動を殺人事件に発展させた大きな要因となった。
 勿論、警察側にも老人にも非はある。任務や仕事とは言え、過ぎた捜査は明らかに違法だし、警察の尋問を頑なに跳ね返す老人にも問題がない訳でもない。
 理想的には家族が老人を説得し、警官らを部屋の中に入れ、老人の無実を証明すべきなのだが、病的で過ぎた頑固さが警官らの感情を逆なでしたのも事実である。

 総合的な批評として、35件の批評家レビューのうち支持率97%で平均点は7.9/10だが、総評として”現実の悲惨な出来事とフランキー・フェイソンの素晴らしい演技を基に組織の破綻に対する痛烈な非難を描いている”とある。
 確かに、警官の追及を頑なに拒む老人を見事に演じたフェイソンの鬼気迫る演技は頭が下がる思いだが、普通の老人であれば初期の段階でドアを開けるだろう。だが悲しいかな、双極性障害という病気が生んだ過ぎた悲劇とも言える。
 勿論、警察側からすれば、過ぎた捜査だったかもだが、最悪の事態になる事を想定しての任務と言えなくもない。だが、お互いに”過ぎた”行動という点では、一致していたのだが・・


最後に

 今日紹介した2つの秀作だが、視点を変える事で、評価や感想が大きく変わる作品とも言える。
 ただ、両作品とも”不愉快で目障り”な老人という共通の皮肉な視点で描かれてるのは明らかで、今のアメリカの、いやトランプ帝国の実情を色濃く表現している。
 という事で、目立たないけど、よく出来た映画の紹介でした。

 


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