象が転んだ

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”バーゼル問題”の素性を暴いたオイラーの偉業〜誰でも解る?バーゼル問題”その3”

2021年09月29日 04時34分04秒 | 数学のお話

 前々回の「その1」では、”バーゼル問題”の起源と歴史と、その難関に最初に挑んだヤコブとヨハンを始めとしたベルヌイ一家の苦難を紹介し、前回「その2」では、無限級数Q=1+1/2²+1/3²+・・・の精密な値を求める事で、バーゼルの分厚い壁に果敢に挑んだ3人の数学者(ダニエル、ゴールドバハ、スターリング)を紹介しました。
 そして今日は、バーゼル問題の素性を解き明かしたオイラーの偉業について書きたいと思います。
 前回同様に、「バーゼル問題とオイラー」(pdf版)を参考に噛み砕いて?紹介します。


バーゼル問題の本質

 バーゼル問題には二つの側面がある。
 1つは、Qを数値として出来る限り精密な値を求める事で、もう1つは、Qの素性を尋ねる事。
 周知の様に、Qはπ²/6に等しいが、これは後知恵であり、当時は全く未知数だった。
 ヤコプ・ベルヌイが欲したのは、Qの精密な数値だけではなく、Qそれ自身の素性でありました。
 当時は、1−1/3+1/5−1/7+・・・=π/4(ライプニッツ、1674)の様に、πを因数として含む積分値は幾つも知られていた。
 しかし、数値としての1.644934•••がπの平方を因数として含むとは、数値1.644934•••をどう弄っても出てこない。
 ヤコブのみならず、当時の偉大な数学者の誰もがQの素性を予想も出来かったのは当然の事である。つまり、知恵を絞って考えつくのは、π/2=1.57とπ/3=1.05の積が1.6485 となる事くらいだろうか。

 オイラー自身も後掲の第3論文で、”全く思いがけず・・・円積問題に関係するエレガントな公式が・・・”と感嘆の言葉を述べた程だが、彼の発見が注目されたのも当然である。
 事実、バーゼル問題を発見する2年前の1735年には、”この級数の正確な値を知ろうと実に多大な労力を傾けられてきたが、これ以上何も新たな事は判らないのではないか?私も繰り返し努力したにも拘らず、せいぜい近似値が得られたに過ぎない”と、半ば諦めの心境にあったのである。

 一方でスターリングは、確かにQの精密な値を得たが、慎ましくも著書の中の一つの例題として計算しただけで、余り知られる事はなかった。


オイラー=マクロリン級数

 以下でその1つを述べるが、オイラーは本質的に異なる4つの解答を与えた。
 オイラーはヤコプ・ベルヌイ(1654−1705)の弟ヨハン (1667−1748) の生徒であり、ヨハンの息子ダニエル(1700−82)の友人である。故に、彼が青年時代からこの問題に取り組んでた事は確かである。
 逆平方数級数Qの和は、まともに足したのでは収束が甚だ緩慢である事も解っていた。
 例えば10項までの和は1.54976•••、100 項までの和が1.63498•••、1000 項までの和は1.64393•••、10000 項までの和でさえ、1.64483•••、しか得られない。
 目標は、Q=1.64493•••である。

 既にヤコプは多様な”加速法”を示していた。恐らくオイラーも新たな加速法を模索したに違いない。論文としての発表は2番目になるが、”オイラー=マクローリンの級数”を見てみよう。
 E25論文の「増加する項を総和する一般的方法」(1732、発表は1738)と殆ど同じ内容が、オイラーとは独立にコリン・マクローリン(1698−1746、写真)の「流率法の論考」(1742)に示されている。

 オイラーは、整数nを変数とする関数 f(n)の和をF(n)とし、F(n)=f(1)+f(2)+f(3)+・・・+f(n)とおくと、実数xに対するテーラー展開が整数nの時にも成立すると見なし(かなり乱暴ではあるが)、f(n)=F(n)−F(n−1)=dF/dn−(1/1・2)d²F/dn²+(1/1・2・3)d³F/dn³−・・・ー①とおいた。
 これは、F(x)=F(x₀)+F’(x₀)(x−x₀)+F’’(x₀)(x−x₀)²/2!+F’’’(x₀)(x−x₀)³/3!+・・・とテイラー展開でき、x₀=n,x=n−1とおき、上の展開式に代入すると、F(n−1)=F(n)+F’(n)(−1)+F’’(n)(−1)²/2!+F’’’(n)(−1)³/3!+・・・となり、F(n)−F(n−1)=F’(n)−F’’(n)/2!+F’’’(n)/3!−・・・を得る事より導き出せますね。但し、f(n)−f(0)=F(n)−F(n−1)ですが、f(0)=0にしてる事に注意です。

 ここでF(n)を求める為に、未定係数法(未定係数微分方程式)を使う。
 因みに未定係数微分方程式とは、F(x)=aₙy⁽ⁿ⁾+aₙ₋₁y⁽ⁿ⁻¹⁾+・・・+a₁y’+yの事で、F(x)=0の一般解を求め、更にF(x)の特殊解yを求め、一般解と特殊解の和で示されるF(x)の解を求めるやり方です。計算もやり方も単純で、解が予め予測が出来る時に使われ、当時は有力な手段でもあったとされる。

 そこで、F(n)を未定係数法で解く為に、F(n)=α∫f(n)dn+βf(n)+γdf/dn+δd²f/dn²+εdf³/dn³+・・・ー②とおいた。但し簡略の為に、dⁿf/dnⁿ=f⁽ⁿ⁾(n)と記す。多分オイラーは、①の両辺を積分し、この形を予測したのだろうか。
dF/dn=αf(n)+βf’(n)+γf’’(n)+δf’’’(n)+εf’’’’(n)+・・・、d²F/dn²=αf’(n)+βf’’(n)+γf’’’(n)+δf’’’’(n)+εf’’’’’(n)+・・・、、、dFⁿ/dnⁿ=αf⁽ⁿ⁻¹⁾(n)+βf⁽ⁿ⁾(n)+γf⁽ⁿ⁻²⁾(n)+δf⁽ⁿ⁻³⁾(n)+εf⁽ⁿ⁻⁴⁾(n)+・・・となる。
 これらを①式に代入し、②式との係数を比較すると(少し面倒ですが)、α=1、β=1/2、γ=1/12、δ=0、ε=−1/720、ζ=0、η=1/30240、θ=0、ι=−1/1209600、、、が次々と定まる。
 故に、F(n)=∫f(n)dn+(1/2)f(n)+(1/12)df/dn−(1/720)df³/dn³+・・・ー③を得る。


オイラーの確信

 しかし、オイラーはまだこの段階で、③式の係数が1/(eᵘ−1)のテイラー展開係数と(ベルヌイ数に)関係する事に気付いてない。一方で、マクローリンもほぼこれと同じ展開を辿ったとされる。
 確かに、ベルヌイ数Bₙは、B₀=1,B₁=−1/2,B₂=1/6,B₃=0,B₄=−1/30,B₅=0,B₆=1/42,B₇=0,B₈=−1/30,...となるが、オイラー=マクロリン級数F(n)の係数Aₙは、A₀=1,A₁=1/2,A₂=1/12,A₃=0,A₄=−1/720,A₅=0,A₆=1/30240,A₇=0,...だから、流石のオイラーも関連性を見つけるのは困難だったかもですね(寄せられたコメより引用)。
 但しオイラーは、1740年の論文にて、1/(eᵘ−1)の展開式とベルヌイ数Bₙ(ヤコブ、1713)の関係(1/(eᵘ−1)=Σᵤ[0,∞]Bₙuⁿ⁻¹/n!)を定義式として示したとされる。

 話は逸れたが、③式をもう少し一般化し、kからm=k+n−1までの区間の和を考えると、F(m)−F(k)=f(k+1)+f(k+2)+・・・+f(m)=∫(k,m)f(n)dn+(1/2)[f(m)−f(k)]+(1/12)[df(m)−df(k)]/dn−(1/720)[df(m)³−df(k)³]/dn+・・・ー④を得る。
 オイラーは、恐らくこの公式④を用いて逆平方数級数Qの和を求めたと思われるが、論文にはその記載がない。
 しかし実際に計算し、最初の9項の和を正直に求めると、F(9)=1+1/4+1/9+1/16+1/25+・・・+1/81=1.539767731166541を得る。
 残りは公式④を用い、f(n)の和を10〜∞まで求めると、F(10)=1/10+(1/2)・(1/10²)+(1/6)・(1/10³)−(1/30)・(1/10⁵)+(1/40)・(1/10⁷)−(1/30)・(1/10⁹)・・・=0.105166335680953となる。
 つまり、両者の和Q=1.644934066847494は、π²/6=1.644934066848226と比べ、小数11位まで一致する。
 これこそが、”オイラーの確信”の根拠である。

 今回は、”オイラー=マクロリン級数”による加速法を紹介しましたが、オイラーは既に(テイラー)級数展開や微分方程式(未定係数法)に精通していました。
 次回でも述べますが、双曲線対数の級数展開を使い、非常に有効な加速式を模索し、具体的にバーゼル問題の値Qを求める方法を確立します。
 つまり、ヘビの様な獰猛で多彩な洞察と一気に獲物を仕留める強力な毒牙が、超天才オイラーには既に備わっていたんでしょうか。

 長くなるので、今日はこれでお終いです。
 次回”その4”では、オイラーが独自に独立して導き出したバーゼル問題の、残り3つの解法について述べたいと思います。



8 コメント

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補足アリガト (HooRoo)
2021-09-29 09:26:39
級数が発散するって
そういうことだったのね

テイラー展開って聞いただけで
毒ヘビにのみ込まれそうだけど
世紀の発見って偶然の産物ではなく
必然の贈り物なのかしら^_^;
それとも力技なのかな?
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Hooさん (象が転んだ)
2021-09-29 10:50:29
1つ1つ計算すれば判る事なんですが
計算しないで直感のみで判断するセンスも数学には必要なんですよ。

この記事で紹介したオイラー・マクロリン級数の手法は強引とも思える加速式ですが、テイラー展開と微分方程式(未定係数法)を結びつける事で、バーゼルの真相にぐっと近付いたんですかね。
クソ真面目な記事に、コメントどうもです。
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ベルヌーイ数Bₙ (UNICORN)
2021-09-29 14:27:19
B₀=1、B₁=−1/2、B₂=1/6、B₃=0、B₄=−1/30、B₅=0、B₆=−1/42、B₇=0、B₈=−1/30、、、
となるんですが。
さすがのオイラーもマクロリン級数の係数A₀=1、A₁=1/2、A₂=1/12、A₃=0、A₄=−1/720、A₅=0、A₆=1/30240、A₇=0、、、から、ベルヌーイ数に気づくのは無理だったような気もします。
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訂正です (UNICORN)
2021-09-29 14:30:33
B₆=−1/42は
B₆=1/42でした。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2021-09-30 02:09:30
そうですよね。
奇数番目が0で共通するくらいで、関連性を見つけるのはこの時点では不可能かな。
でも、バーゼル問題のお陰で、その難題に隠された色んなお宝を発見し証明してきたオイラーの偉業は神の領域を超えてますよね。
タイムリーなコメントありがとうです。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2021-09-30 02:57:17
早速ですが
頂いたコメント追記しました。
これからも宜しくです。
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オイラーマクロリン公式 (paulkuroneko)
2021-10-08 19:08:39
オイラーは1732年、バーゼル問題を解く3年前にこの級数を発見しました。
当時はまだ級数の収束性を知る加速式の1つに過ぎませんでしたが、バーゼル問題を解き明かした3年後の1738年には、ベルヌーイ数を含む”Σ=∫+α”の形をした公式として発表します。

これは数列の和Σを定積分∫と誤差αの形で表現した偉業とも言えますね。
Σは(紀元前3世紀)のギリシャ時代のアルキメデスにより、∫は17世紀のライプニッツにより発見されました。
当時は区分求積法を使い、∫の積分値を求めようとしました。関数で囲まれた面積を細かく区分する程に積分値の精度は高くなり、この区分求積法は∫をΣを使って計算したものと言えます。

逆に、オイラーマクロリン公式はΣを∫を使って計算したものと言えます。
特にα(補正値)はマクロリン級数(展開)で関数を近似したもので、関数の微分を用いた誤差補正とも言えますね。
これは、関数で囲まれた面積と区分求積法で得られた短冊状の面積の差を細かくする事による誤差補正です。
その誤差補正の項にはベルヌーイ数も含まれることから、級数の総和を正確に求める為に積分と微分とベルヌーイ数を用いた画期的な公式でした。

加速式→バーゼル問題→オイラーマクロリン公式の見事な流れは、見事としかいいようがないですね。
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paulさん (象が転んだ)
2021-10-09 11:37:48
いつもお世話になってます。
1732年の時は、発見でしたが、6年後の1738年にはオイラーの和公式として発表したんですよね。
ここら辺の一連の流れは、超天才オイラーの手腕ですが、マクロリンの偉業も凄いです。
当時は、オイラーだけでなく天才数学者が沢山輩出した時代なんでしょうね。
このコメントそのまま、バーゼル問題その4に引用させて頂きたく思います。
いつもいつも感謝です。
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