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知ってるようで知らない〜多項式と方程式と関数の違い

2024年06月09日 07時22分45秒 | 数学のお話

 数学は(数や計算ではなく)概念や観念の学問とされる。が故に、抽象的になりがちなのだが、一方で、こうした概念さえ見抜けば、数学に対する理解はずっと近くなる。
 因みに、”概念”とは共通な性質を取り出してつくられた表象とあるが、物事の本質に過ぎない。深い考察(観念)により、その本質を見抜くのが数学なのだが、注意深く取り出さないと、痛い目にあう。
 そういう私も、当り前に考えてた事が当り前でなく、大きな勘違いをする事がよくある。故に、当り前の様に使われてる言葉を使う時は、一度その意味の本質(概念)を調べる事にしている。
 つまり、物事を正確に知るという事は、自分と自分の周りの世界を豊かにする。
 それは数学でも同じで、数学を正しく理解できれば、難しいだけの抽象的な学問であっても、その背後には無限に広がる美しい光景が広がってる様に見えるから不思議である。


多項式と方程式と関数の違い

 さてと、今回例を挙げるのは、多項式と方程式と関数の違いである。この3つはよく似ているが、それぞれ異なる概念である。
 つまり、それぞれに概念が違うので、当然扱い方も変わってくる。例えば、焼き肉や煮魚にチョコシロップを掛けても食えたもんじゃないし、スポンジケーキに醤油を垂らしても同様である。つまり、モノには属性がある様に、数学には概念がある。

 高校の数学Ⅰで、方程式と関数を学習し、方程式と関数の関係が分かった様な気になる。が、両者の関係を考える前に、まず、その違いを明確に理解し、認識する必要がある。
 つまり、学習するとはそういう事であり、単に丸覚えで流れ作業的に問題を解くのとは全く異なる。言い換えれば、暗記一辺倒の受験型数学は思考を混乱させ、最悪は脳を腐らすだけとも言える。
 例えば、中学で初めて算数から数学となるが、それぞれの数式が何を意味するのか?何をする為のものか?を正しく捉える必要がある。この時期に、数式の中に存在する等号の意味を理解する事はとても大切である。
 以下、「多項式と方程式と関数」やその他のサイト群から大まかにまとめます。

 等号を理解しない生徒は、数式に無頓着で、例えば、多項式と方程式と関数を混同している。というか、この3つの違いがわからない。
 何を隠そう、私もその1人だった。だからこそ、今回のテーマにしたのだが(恥ずかしいかな)この3つは兄弟みたいなものだと勘違いしていた。
 例えば、(x−1)/3−(3x+2)/4―①と、(x−1)/3−(3x+2)/4=0―②と、y=(x−1)/3−(3x+2)/4―③の3つの式の違いが判る人は、大人も含め、日本には何人程いるだろうか。
 パッと見では、①式に”=0”を加えたものが②式で、②式の0とyを入れ替えたのが③式になる事だけはわかる。
 だが、それだけでは理解してるとは言えない。それぞれの式には意味がある。

 答えから言えば、①式は”多項式”で計算する為の式。②式は”方程式”といい、変数xを求める為の式で、③式は”関数”といい、変数xとyの関係を表す関数式である。
  

整式と分数式、有理式と無理式

 まずは①の多項式だが、計算すると、(x−1)/3−(3x+2)/4=(4(x−1)−3(3x+2))/12=(−5x−10)/12と通分できる。
 因みに”多項式”とは、その名の通り、項が多数ある式の事だが、”項”とは式を+や−の符号で区切った時に出来る数字や文字(変数)の塊の事で、数と変数を元に和と積によって作られる式となる。
 因みに、”項”とは英語で”poly­-nomial”と呼ぶが、直訳すれば”複数の文字(変数)列”となる。

 例えば、4x−3y+7という式は、4xと−3yと7の3つの項からなる。この式にはxやyという変数があるが、変数に掛かる数を係数と呼び、xの係数は4でyの係数は−3となる。また、7と数字は(変数に対し)定数と呼ばれ、この定数を含む項を定数項と呼ぶ。
 一方で、項が1つの式を”単項式”と呼び、”係数と変数の積のみで表される式”を言う。例えば、−3xや5y³やxyなどは項が1つのみで単項式となる。また、−3xや5y³を1変数単項式、xyを2変数単項式と呼ぶ事もあり、これは多項式も同様で、1変数多項式、2変数多項式と呼ぶ事もあるが、一般的には単に単項式、多項式と呼んでいる。
 ここで重要な事は、教科書に書かれてる定義は間違いではないが、実際には文脈の中で判断する必要がある。

 例えば、単項式は単に項とも呼ばれ、”多項式は複数の項の和”と定義する事もあるが、単項式と多項式を区別するメリットは殆どない。故に、通常は(単項式も含め)単に多項式と呼ぶ。

 そこで、多項式と有理式の違いがよく混同されるが、その理由を以下で説明する。
 一般に、(単項式も含めた)多項式は”整式”と同じ意味で使われる。では、なぜ整式との別の呼び方があるのか?それは多項式が整数に似てるからだ。
 整式は整数に似た性質があり、有理式は分数(有理数)に似た性質がある。また、有理数を分数と言う様に、”有理式の事を分数式”と言う事もある。つまり、ある式の性質(概念)を強調する為に呼び方を変えてるだけで、”有理式=整式+分数式”と理解しとけば、間違いはない。
 故に、多項式を項の個数が1つである事を強調したい場合は単項式と呼び、整数と対比したい時には整式と呼ぶ事で、文脈が読み取り易くなる。

 そこで、多項式と有理式の関係だが、”多項式を変数の整数次の多数の項で表される式”とすれば、 有理式とは”分母と分子が多項式で表現される式”と言える。
 厳密に言えば、”代数式のうち根号(√)の中に変数(文字)を含まないものが有理式で、有理式には整式と分数式がある”となる。但し、√の中に変数を含めば”無理式”となる。  
 ここまで来ると高校以上の数学になるが、”代数式が四則と√で表される式”と見れば、”代数式=有理式+無理式”と直感的に判断出来るが、”無理数=無理式”とは言えない。
 つまり、以下で述べる様に数学は単純じゃない。 

 具体例を挙げれば、(2x+3)/5xの様に”多項式(整式)/多項式(整式)”の形になってる式を有理式(分数式)と呼ぶ。
 一方で、有理式に√3の様な無理数が含まれても有理式となるが、√(3x)の様に文字(変数)を含むものは無理式となり、有理式とは区別する。  

 その理由は、y=√(3x)とすれば、y²=3xでy=±√(3x)となり、±の符号を含むから項とは呼べない。即ち、√3の様な符号を含まない無理数は項であり有理式となるが、項にはなり得ない√(3x)の様な無理数は無理式となる。
 但し、y=√(3x)の様な√内に変数を含む関数を”無理関数”と呼ぶ。

 また、”有理式以外の式は全て無理式”と定義できるので、”代数式=有理式+無理式”との直感は正しいのだ。
 結局、こうした式の判別をする時は、出来るだけその文脈から簡単な具体例を挙げて、勘違いをなくす事は可能である。つまり、直感で判断するとバカを見るが、数学が抽象的なのは、こうした直感による間違いをなくす為でもある。

 以下でも述べるが、”写像の事を関数、関数の事を式”と言う人もいるが、簡単な具体例で確認すれば混乱は防げる。つまり、ぞれぞれの用語を区別する人もいれば、同じ意味とする人もいる。数学者とて生身の人間なのである。

 
方程式と関数

 最初に戻るが、②式の(x−1)/3−(3x+2)/4=0は方程式となるが、この式を満たすxを求めると、有理式で計算した通分が役に立ち、(−5x−10)/12=0から−5x=−10となり、x=2を得る。
 但し、中学校の数学では、多項式(有理式)と方程式の2つの概念を同時には学習しないので、高校になってもその違いに気づかず、以下の様な勘違いをし、多項式を方程式の様に解く生徒も少なくない。
 つまり、(x−1)/3−(3x+2)/4=4(x−1)+3(3x+2)という”笑えない”ミスを犯してしまう。勿論、等号が成り立たないのは明らかで、数式(文字列)と等式が異なる事を理解する必要がある。

 数学の定義で言えば、”方程式”(equation)とは、未知数である変数を含む”等式”(equality)であり、方程式を成り立たせる未知数の値を方程式の解と言い、解を求める事を”方程式を解く”という。 
 因みに、代数学では多項式の方程式を扱うが、Pを多項式とすれば、P(x)=0の形になる。また、両辺を多項式とする等式により表された方程式を”代数方程式”と呼ぶ。
 そこで、この多項式Pにより与えられる変数(x,y,z,...)を未知数とする方程式はP(x,y,z,…)=0の形になる。更に、1次,2次方程式の様に、多項式の次数nによりn次方程式に分類される。

 ③式のy=(x−1)/3−(3x+2)/4は変数xとyからなる関数で、この式をxについて整理すると、これも多項式の通分が役に立ち、y=(−5x−10)/12=−5x/12−5/6を簡単に得る事が出来る。
 こうした等式を”yがxの関数(function)”といい、オイラーは頭文字をとり、y=f(x)と書き、変数x,yや定数の組み合わせできた数式を関数と定義した。だがコーシーは、入力xに対し出力yの値が決まる時、”変数yをxの関数”と定義した。
 また、”yがxの関数”である事の別表現として、変数yは独立変数xに従属するとし、yを従属変数と呼んだ。独立変数xがとりうる値の全体(変域)を定義域といい、従属変数yがとりうる値を値域という。
 因みに、現代数学では、ディリクレの様に”関数を変数xから変数yへの対応fの事である”と解釈し、その意味で関数は写像の同義語となる。が、厳密には(実数体Rや複素数体Cなどの)数の集合への写像に限る場合もある。例えば、合成や全単射(1対1対応)や逆(関数)などの写像に用いる言葉はそのまま関数にも用いる事が出来る。

 他方で、数の等式ではなく、関数の等式で与えられる方程式を”関数方程式”(functional equation)と呼ぶ。単一の(又は複数の)関数のある点での値の関係を示す方程式で、通常は前述した”代数方程式”に帰着できない方程式を指す。特に、ゼータ関数やL関数など特殊な関数方程式は関数等式と呼ばれる事が多い。


最後に

 以上で説明した様に、”等号”(equal)”等式”(equality)というものを正しく理解してないと、(数式も含め)数学には全くの無頓着になる。
 因みに、等号の記号”=”を最初に使用したのは、ウェールズの数学者ロバート・レコードで、1557年に自著「知恵の砥石」にて”・・・に等しい”という言葉を何度も使う事を避ける為に、2本の平行線を用いた。

 勿論、受験数学ではこういう事を教える筈もなく、ひたすら解法を覚える事のみを徹底的に叩き込む。つまり、受験生は多項式や方程式や関数の違いが解らないまま、数学と対峙する事になる。
 結論から言えば、多項式は等号のない文字列を含む数式だが、方程式や関数は等号という記号が付加された等式である。故に、これらを混同する傾向にあるのは当然でもある。

 数学の世界では、当り前の様に登場する等号だが、その概念(性質)を知らなければ、簡単な方程式すら解けない。それでも、中高生が数学の問題が解けるのは、答えから逆算して問題が作られ、その解き方のパターンを単に丸暗記してるからに過ぎない。
 だが、元々数学には答えが存在するとは限らない。存在しない答えを考察し、検証するのもまた、数学なのである。 
 一方で、数学とは簡単に導き出せる”当り前”を追求する抽象的な学問でもあり、当り前を理解してるか否かで、数学の持つ景色の見え方が大きく変わってくる。
 多分、数学が苦手な人はこうした当り前の事が理解できていないと思う。
 今日こうして、多項式と方程式と関数の違いを簡単に纏めたつもりだが、結構な量となってしまった。だがこれも、復習という名の大切な学習なのである。



2 コメント

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当り前と思ってることって (HooRoo)
2024-06-09 14:45:13
当り前じゃないってこと?
整式や有理式まではナーンとか理解できたけど
無理式となると???
ルートを含んでも有理式になるものと
無理式になるものがある??
その境界の決め手となるのが
項であるか項でないかってこと? 
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Hooさんへ (象が転んだ)
2024-06-09 21:34:03
まず”項”とは、式を+や−の符号で区切った時に出来る数字や文字(変数)の塊の事を指します。
例えば(赤字でも書いてますが)、√3は符号を含まないから”項”と言えます。が、変数を根号内に含む√3xは、y=√3xとすれば、y=±√3xとなり、+や−の符号を含むから項とは言えません。

ここら辺が、直感では当り前な事が、数学では当り前ではない。
つまり、簡単な具体例を使い、定義に従えば、直感による混乱を防ぐ事は出来ます。
でも、定義に拘り過ぎると抽象的になり、やはり混乱する。

言い換えれば、直感と抽象性を上手く行き来するのが、数学の摩訶不思議さとも言えますね。
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