象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

チープな笑顔の中に潜む狂気〜「スーツケース・マーダー」

2023年02月21日 13時54分40秒 | 映画&ドラマ

 前半の40分ほどは登場人物や展開を含め、あまりにもチープすぎて見るのを一旦は辞めてしまった。
 しかし、星3.5のレヴューを確認する中で、実話を元にした映画である事を知った。
 私はドキュメントやルポルタージュやノンフィクションに弱い所がある。更に、映画を登場人物の見た目だけで判断するという悪い癖がある。
 気を取り直し、こみ上げてくる不満を何とか抑え込んだ。運良く、中盤から後半にかけては、検察VS弁護人という興味深い展開になってくれたお陰で、何とか最後まで見る事が出来た。
 

メラニーのスーツケース

 夫を殺害し、遺体をスーツケースに入れて遺棄したとの疑惑がかかる女性の事件を映画化したクライムスリラーだが、2004年に実際に起こった「ビル・マグワイア殺人事件」を基に制作された。
 バイト先の同僚ビルと情熱的な出会いをしたメラニーだが、二人はやがて結婚し、幸せな家庭を築いていくかに思えた。が、夫のギャンブルや浮気、更にメラニー自身の不倫を機に夫婦関係が一気に壊れ始める。そしてある日、海岸に打ち上げられたスーツケースの中からビルのバラバラ遺体が発見される。
 容疑者となった妻メラニーだが、次々上がる(状況)証拠に対し、女は不敵な笑みすら浮かべ犯行を否認。検察側も徹底的な調査により彼女の秘密と発言の矛盾を浮き彫りにさせるが、女はそれでも”自分は何もしていない”と潔白を主張し続ける・・(WEEKEND CINEMA)

 と、ここまでは、よくある法廷モノだが、メラニーを有罪として検挙する為に検察側が彼女の犯行を論理的に組み立て、有罪に仕立て上げていくシーンはエレガントにも映る。(レビューでは)強引かつ一方的すぎるとの声もあるが、実にスマートにも感じた。
 事実、①夫が殺される2週間前メラニーは意識を混濁させる方法を検索。②事件の2日前には銃を購入。③前日には睡眠剤を不当に入手。以上の3つの状況証拠から検察側は彼女が犯人である事を確信する。
 一方で女は、一貫して犯行を否認するが、根拠も論理も状況証拠も何もない。あるのは、中年男を惑わすチープで冷酷にも思える笑顔だけである。
 正直、最初は2人の子供を持つ女に同情した。いくら離婚がほぼ確定のサイテーの旦那とは言え、疑惑と不幸が一遍に重なれば、”カワイそー”ってなるのが日本人の情けってもんだ。

 それでも、女は堂々と(あらゆる疑惑に対し)無実の神様の如く振る舞い続ける。が、私にはインチキ臭く思えた。
 勿論、状況証拠とは言え、条件が揃いすぎた。
 検察の言い分を整理すると、”子供が家を空けている2日間の間に旦那に睡眠薬を飲ませて眠らせ、夫を銃で殺害。バスルームで遺体をバラバラにし、スーツケースに押し込み、車で7時間離れた海に遺体を遺棄した”となる。
 少々強引な推理かもだが、メラニーの車の中から夫の皮膚片”人間オカクズ”が検出された事で、女ーの犯行はほぼ決定的なものとなる。この表現は唯一の傑作であった。
 最後には法廷の場で追い詰められ、動揺し混乱する彼女の諦めと驚きの表情が、これまた安っぽく見えた。


疑惑の白人女とチープな笑顔

 論理的に状況証拠を完璧無比なまでに組み立てる検察側が正義なのか?それとも一貫して無罪を主張するしか逃げ道のない女を正義とみなすか?は、議論の分かれる所だろう。
 だが、メラニーのチープだが(中年男を惑わす)透く様な笑顔を見る度に、彼女を疑う自分がいる。
 このメラニーという”疑惑の女”を演じるのはキャンディス・キングという女優さんだが、私には少しミスマッチにも思えた。ギャンブル狂の夫ビルを演じたマイケル・ロークも俳優としては??に思えた。
 折角、実話を元にした作品なのに、やり方次第では(傑作は無理だとしても)秀作になるチャンスもあった筈だ。それにタイトルもマーダー(殺人)は余計で”スーツケース”だけで良かったと思う。
 彼女は果たして有罪なのか?無罪なのか?
 という二元論がテーマの作品だが、(レヴューにもある様に)後半に行く程に不思議とのめり込んでしまう。一方で、善か悪かという面で考えれば、何も考えずパッと見だけで(既に狂っていた)男を選択した女は愚かすぎた。

 アメリカ白人には、(誤解を生むかもだが)こうしたチープな人種が多い様な気がする。ビル夫妻も(冷静に見ればだが)家庭を築くには、場違いなヒッピーな人種にも思えた。
 どんな狂人でも好きになったら、男の毒性の全てを許してしまう。だが、一旦気に食わなくなれば(薬を飲ませ)銃で殺してしまう。
 そういう意味でも、昨今のハリウッド作品は(俳優だけじゃなく)テーマや展開的に見ても、チープすぎるものが多いように思える。

 人を俳優を作品を、見た目では判断するのは危険すぎるが、僅か88分という短い時間で作品の良し悪しを判断するには、やはり見かけが頼りではある。
 人は見た目で決まる。
 改めて、そう思い知らされた典型の映画だった。が、もう少し彼女が不器用に振る舞ってたら、浮気相手の医師が勇気を持って女を庇ってくれたなら・・・陪審員の気持ちも揺らいだであろうか。
 結局は、女の(頭の狂った中年男からすればだが)目も眩む?様な笑顔が彼女の有罪を暗に物語ってる様に、いや決定付けてる様にも思えた。
 つまり、疑惑の女を演じた女優は、それだけ薄っぺらな女に映っていたのは確かである。


最後に

 (ネタバレになるが)事実、陪審員は有罪(終身刑)を言い渡す。
 実話を題材にしてるだけに、全体的にチープには思えたサスペンスも、後半はスリリングでシリアスでもあった。但し、殺されたギャンブル狂の旦那も浮気で仕返しする女房も序盤で既に狂っていた。
 スリラーとして割り切ればだが、やり方によっては、そこそこのサスペンスになり得ただけに、少し残念に思う。
 そういう私は、こうしたチープ感がプンプンと匂うB級映画が大好きで、飽きずにも見続ける。この前日にも「JUKAI・樹海」という映画を見た。
 星3つの典型の映画だったが、特に女優が、その見てくれが薄っぺらすぎた。

 勿論、女優をその見てくれで判断するのは愚かだが、僅か2時間弱の2次元の映像だけでは、雰囲気や匂いや知性や人格性というのは伝わらない。
 つまり、映画も見た目である。
 同じ様に、かつては”夢の新大陸”と言われたアメリカもその本質は、(今に思えばだが)見た目で簡単に評価できるチープな実験的国家に過ぎなかった。
 所詮、我々大衆は、国家も人もペットもブログも、そして、学問も動物も植物もモノも見た目で判断する傾向にある。それは今までもこれからも変わらない。
 そんな中で、映画は今の人類の愚かで脆い本質を映し出す鏡である。

 私がそんなB級映画に不思議と見入ってしまうのは、薄い紙の様なペラペラな存在に成り下がった人種のアラ探しをして、チープな自己満足に浸ってるからだろうか。



6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (1948219suisen)
2023-02-23 12:24:50
この映画とは関係ない話ですが、最近は教育を受けた賢い黒人が増えて、そういう黒人と比べるとこういう賢くない白人は以前よりチープに見えるようになった気がします。人は見た目だというのも一面の真実ですが、私は、それより人は教育だと言いたいです。ひょっとして白人種はだんだん劣化してきているのではないでしょうか?黒人種がだんだん賢くなってきているのと反比例して。
返信する
ビコさん (象が転んだ)
2023-02-23 13:22:08
確かに・・・
私はアメリカの劣化が急速に進んでると思うんです。
その最もたるものが白人女性。
この映画に出てる女優さんも、一昔前ならポルノ女優にさえなれない?レヴェルです(と言ったらポルノに失礼か)。
お陰で、中南米やオーストラリアからの移民に主役を奪われる悲しい状況です。

監督やスタッフや映画ネタは悪くないんですが、俳優や脚本や編集部を含むキャスト陣に劣化が見られる様です。
それでも、映画やドラマは”下手な鉄砲百打ちゃ当たる”が如く腐るほど作られてます。
ハズレるのが当り前なんですが・・・

コメントいつも有り難うです。
返信する
Unknown (hitman)
2023-02-23 20:35:58
ポルノ以下?ってのは
あんまりじゃないですか^_^
でもポスターみる限り
パッとしない女優ですねぇ〜
どうせ無罪を勝ちとる為だけに作られた映画だから
実話がベースとは言え
製作側も最初からダラケだらけてたんでしょうね^^;
返信する
hitmanさん (象が転んだ)
2023-02-24 01:56:10
この女優さん
笑うと、それ程は悪くもないんですよ。
非常にチープだけど不思議な魅力を持ってます。
最初は不倫相手の医師と共同で殺すのかなと思ったんですが、キャリアを敢えて汚すほどの女でもないし、展開的にも薄っぺら感はアリアリでした。

でも、メディア受けを狙う検察側の巧みな駆け引きも見てて興味深かったです。
前半のチープさがなければ、結構楽しめるB級映画でもありますね。
返信する
原題は (paulkuroneko)
2023-02-24 13:34:43
スーツケースキラーなんですよね。
検察側の言い分はともかく、女性の言い分は”私は潔白よ”の一点張りです。
欧米なら、やってないのなら証拠を見せろってなりますが、拳銃を買ってしまったのが最後まで致命傷になった気もします。

前半を除いてはですが
最初から検察側の描写に重きをおいた作品だったようにも思います。 
返信する
paulさん (象が転んだ)
2023-02-24 19:35:20
キラー(キル)とマーダーのちがいですが
私少し調べました。

キル(kill)は単に”殺す”事だから、そこに価値判断は介入せず、人や動植物の命を奪う時に用いる。 不条理ですが、戦争での殺戮もキルなんですよね。
マーダー(murder)とは悪意をもった”不法な殺人”をいい、普通は”謀殺”とも 訳され、第1級謀殺は最高刑かそれに準ずる刑が科されます。
一方で、マンスローター(manslaughter)は”故殺”と訳され、日本では”過失致死”というのもありますが、微妙に異なります。

故に、ここ言うキラーとは、単純に殺人者という事で、殺人犯とはみなしてないんでしょうね。
結局は映画を見た人が判断してくれって事でしょうか。
コメントいつも勉強になります。
返信する

コメントを投稿