プロ野球も開幕し、何時もなら”普段の春”が始まる所だが、なかなか終息しないコロナ渦といい、ウクライナ危機といい、落ち着かない日々が続く。
そんな中、佐々木朗希(千葉ロッテ)の最速163K、8回3安打1失点で13奪三振の快投には、胸の透く思いがした。
落合氏も”まっすぐ一本だけに絞らないと、プロでも打てない”と脱帽した。
佐々木もメジャーに渡れば、”世界の”という枕詞がつくのだろうか?
事実、あれだけの楽で優雅なフォームで160K中盤の快速球を投げ続けれる投手は、メジャーにもいない(多分)。
”世界の”という言葉で思い出したが、日本では”世界のホームラン王”と言えば、王さんで決まりだが、アメリカでは単なる”アジアの王”に過ぎない(多分)。
ベーブ・ルースの714本はアメリカ中が知ってても、ハンク・アーロンの755本は何とか知ってても、王さんの856本は(余程の野球通じゃない限り)知らない人が殆どではないか(多分)。
これが野球をしないヨーロッパやロシアや(一部のラテン諸国を除く)南半球なら、王という名前が存在する事すら知らないかもしれない。
日本列島が王さんの世界記録で異常なまでに沸き立っていた頃、日本人で”世界の”という冠が付く人は、”ゴルフの青木功だけだ”と聞いた事がある。
世界の青木は、アメリカやヨーロッパでもそして南半球でも、”世界のアオキ”なのである。
因みに、ある日本人が外国の人に”(世界の)アオキ”と言ったら、逆に”アオキじゃなくてエオキと呼ぶんだよ”と、ご丁寧に説教されたという逸話?もある(多分、本当だろう)。
世界のイチロー
つまり、日本で常識とされてる事が海の向こうでは非常識とされ、その逆もまた真なりである。
かつて、野茂英雄がメジャーに渡り、日本列島を揺るがし、全米でも注目?された時、ドジャースの本拠地であるLAで彼を知ってる人は少なかったという。
当時は、ストライキで野球熱が極端に冷え込んでたから、余計に感心がなかったんだろうか。その野茂も本場NYではかなり野次られたという。
それでも、”ゴジラ”と騒がれた松井に比べれば注目度はずっと上だった筈だ。
松井がNYYで大活躍してた頃、イエローキャブの運転手に、”今、NYで一番有名な日本人は?”と聞いた所、開口一番”大食いの小林だ”と答えたという。
”おいおい、ゴジラは大食いにも負けるのかよ”と、松井ファンは嘆いたろう。
それに比べれば、特にNYでは”世界のイチロー”はそこそこの有名人ではある。
衝撃のデビューと記録を残したイチローだが、NYの現地人は”イチローがヤンキースの選手だ”と信じ込み、イチローTシャツを買い求めた所、NYYのロゴが入ってないので店員に文句を言った所、”イチローはNYではなくシアトルです”と笑われ、赤っ恥を掻いたという逸話もある(多分、これもホント)。
そういうイチローも、晩年には控えとしてNYでプレーしたが、殆ど記憶にはない。ただ濃紺のピンストライプが似合う最高の日本人は、松井だけだと自信を持って言える。
その松井さんも、今のメジャーの”飛ぶボール”の時代なら、40本はクリアしてたと思う。
王さんも(当時のレベルの高い)メジャーでプレーしてたら”25本は打てたろう”との予測だが、多分力負けして、レギュラーさえ難しいのではというのが、私の予想でもある。
そういう意味では、長距離砲としてヤンキースの4番に君臨し続けた松井は、NYで一番頑張った日本人メジャーなのかもしれない。
そこで今日は、王さんでも野茂さんでもイチローでも松井でもなく、アメリカ中を震撼させた”世界の真のホームラン王”ジョッシュ・ギブソン(1911-1947)の紹介です。
結構長くなるので、前半と後半の2回に分けて紹介します。
アジアのホームラン王
もし、生涯1000本のホームランを放った男が仮にいたとしたら?
いや、王さんの868本を超えるホームランを放った男が海の向こうにいたとしたら?それともシーズン90本を超える本塁打を放った男がいたとしたら?
そしてその男が、日本では殆ど知られていない、黒人リーグの選手だとしたら?
メンチで繊細な日本人が、それを等身大のままに受け容れる事が出来るのだろうか?
”世界の王”は(明らかに)日本で作られた言葉であり、日本のみで通用する言葉である。
つまり、アメリカで”セカイのオウ”と叫ぶ人は誰一人いない(多分)。
日本でも世界の王ではなく、”アジアの王”と揶揄する人は沢山いる。
私もその日本人の1人だが、これだけは王さんの口から言ってくれないと、説得力に欠ける。
しかし王さんの口からは、ベーブ・ルースやハンク・アーロンが残した偉大な記録の詳細をあまり語ろうとはしない。
”世界のイチロー”だって、最多安打記録を塗り替えた時、ジョージ・シスラーの詳細には触れなかった。もしそれが出来てたら、彼の遺族の反感や誤解を買う事もなかったろう。
記録を残す事は素晴らしい事だが、相手の記録を(敬意を表して調べ)認める事はもっと偉大な事である。
事実、韓国の李承燁(イ・スンヨプ)選手が2003年に、王さんのシーズン本塁打記録55本を塗り替えた時、日本のメディアは全くと言っていい程に騒がなかった。いや、無視したと言っていい。
新聞のスポーツ欄のごく片隅に、”李56号のアジア記録”とだけ載ってるのを見て、日本も(所詮は)アジアの小国だと悲しい思いがした。
これがもし、王がルースのシーズン本塁打記録の60本を抜いたとしたら、日本列島は”アジア記録”ではなく”世界記録”と狂喜乱舞した事であろう。
恨みを晴らした訳でもないが、WBCやオリンピックでも李の超絶な打棒に、スター軍団と持て囃されたオール日本は次々と粉砕され続けた。が、そんな彼もジャイアンツでの4年間は”斜陽の時代”の様にも映った。
王さんと同じ左打者だが、世界に通用するという次元では、李承燁が絶対に上だと思う。
個人的には、もっと評価してほしかった選手の1人でもある。彼に関しては、”アジアの本塁打王”というタイトルで記事にしたいと思う。
現役時代は”悪童”と言われたベーブ・ルースだが、若手をよく評価した。自分の打撃や成績や記録に関しては”来た球を打ってるだけさ”と無頓着だったが、若手の打撃だと評論家の如く弁舌を振るった。
ハンク・アーロンも来日した際は、王さんのフラミンゴ打法を高く評価し、日本野球に対するリスペクトも忘れなかった。
内心、”こんな箱庭みたいな球場でこのレベルなら、100本は余裕で打てる”と(かつてジョージ・ブレッドが言い放った)言葉を発したかったろうが、彼は最後まで紳士だった。
日本で行われたホームラン競争も王選手に合わせ、接戦をあえて演じ、実力の違いを見せつける事もなかった。
800本を打ったもう1人の男
日本で有名な黒人の野球選手は、バリー・ボンズか?ハンク・アーロンか?それともクロマティーか?という所だろうが、本当はもっと凄い黒人選手がいた。
その男こそが、”黒いベーブ・ルース”の異名をとったジョシュ・ギブソンであり、その類い稀なる破壊力と長打力と、それに”エコノミック”と称された正確無比な打撃センスを武器に、ニグロリーグで大活躍した選手だ。
しかし、黒人リーグ史上最高と称された強打者もメジャー入りを遮られ、35歳の若さで波乱の人生を閉じる。
当時は人種差別が根強く、どんなに実力があってもメジャー入団を認められない黒人選手で結成されたニグロリーグだが、観客は黒人よりも白人の方が多かった。プレーのレベルも大リーグよりも高く、下手な大リーグよりずっと観るに値する事を観客は既に見抜いていた。
「800号を打ったもう一人の男」(ウィリアムス・ブラッシュラー著)は、王さんが800号を打った翌年の1979年に出版されたが、この本を読んだ日本人は何人いるのだろうか(多分、殆どいない)。
黒人初の大リーガーになったジャッキー・ロビンソンよりもギブソンの能力はずっと優れており、”大リーグ一番乗りの黒人はギブソンでほぼ決まり”とされてたが故に、若いロビンソンに先を越された彼は(更に最愛の妻に先立たれた事もあり)酒と薬物に溺れ、急速に自分を見失っていく。
生涯17シーズンで残した本塁打は972本とも言われ、一部には1000本を超えたとも噂される。
我ら日本が知っていて損はない、偉大な黒人の一人である。
バリー・ボンズが2001年マクガイヤの70本(1998)を更新し、73本のシーズン本塁打記録を打ち立てたシーンは、私の目に今でも焼き付いている。
完璧なスイングから放たれたアーチは寸分の狂いもなく、場外へ消え去っていく。パーフェクトという言葉は、まさに彼の為にあった。
しかし、マクガイヤもソーサも、そしてこのボンズも結局は、ステロイドで偽造されたスラッガーたちである。
この禁止薬物で創り上げられた年間73発という記録は、実は世界記録ではない。
その昔、定説では1934年に年間84発のホームランをかっ飛ばした男がいた。
その男こそがジョッシュ・ギブソンなんですね。
という事で、今日はここまでです。
後半では、史上最強の本塁打王の実像に迫っていきたいと思います。
この二人をおいて
アメリカのベースボールは語れないでしょうね。
ベーブルースやテッドウィリアムスは白人の英雄ですが、ルースはともかくウィリアムスは黒人野球を高く評価していました。
ギブソンは妻に先立たれてたんですね。初めて知りました。
それで酒と薬に溺れ、自分よりも格下で年下のジャッキーロビンソンのメジャー入りが追い打ちとなり、死の引き金を引いたと
ギブソンが若い時からメジャーでプレーしてたら、どんな選手になっていたんでしょうか。
それこそ、ルースこそが”白いギブソン”と言われる時代が到来したかもしれません。
というのもその女の旦那が薬の売人という運の悪さも手伝ってから、ギブソンはどんどん悪い方向に向かっていきます。
それでも、メジャー入りが成功してれば、復活もあり得たでしょうが・・・
言われる通り、これが最後の引き金となりましたね。