象が転んだ

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「男たちの旅路」に見る、山田太一の男のロマンと虚しい強がりと

2019年05月29日 04時41分19秒 | 映画&ドラマ

 今、NHKBSでは山田太一脚本の「男たちの旅路」(全13話)が再放送されてる。あまりにも有名な傑作TVドラマなので、結構若い世代でも知ってる人は多いだろうか。

 私が丁度、中学から高校の思春期の頃に作られたドラマだったから、非常に脳みその奥深くまでに焼き付いてて、こういったリバイバルを見る度に、未だに鮮やかに蘇る。

 私自身、このドラマの影響からか、山田太一氏の著作はそこそこ読み干してる。山田氏の生き様が複雑な様に、彼が創るドラマもやっぱり複雑で何処か重く暗く古めかしい。それでいて、もの凄く刺激的でファンタジーすら覚える。

 

第1部第1話=「非常階段」

 主人公は鶴田浩二(1924-87)演じる吉岡だ。鶴田自身の人生と同じ特攻隊崩れ(航空隊の整備士)の中年ガードマン役で、何かある毎に若者に説教を垂れる。
 この説教の垂れ方が実に重く深く、脳裏にまで響く。それでいて何処か哲学的で、高質な魅惑な響きさえ漂う。
 そういう私も高校の頃は、よく鶴田浩二のモノマネをして周りを笑わせたもんだ。

 このドラマに登場する若者たち(水谷豊、森田健作、桃井かおり)は、反感を覚えながらも吉岡の深く重い魅力に引きつけられてゆく。

 第1話の「非常階段」ではいきなり吉岡(鶴田浩二)の説教で始まる。延々と続く吉岡の苦労話。戦争で壮絶な”死”と向き合った悲惨な体験も、若いガードマンたちにはコミカルに映る。
 水谷豊の軽快で乾燥したツッパリも、森田健作のクソ真面目な反発も、桃井かおりの麗しい色気も、鶴田浩二の”頭骨にまで響く説教”にはまるで歯が立たない。

 しかし、そういう吉岡も頑固一徹の”説教マシン”でもない。現代若者の平坦で安直な価値観にも敏感で柔軟な対応を随所に見せる。
 ”若い奴は嫌いだ”とか、”そういう言葉使いや態度が嫌なんだ”と、はっきりと本音を口にする。そう、吉岡自身も乾いた感性の持ち主なのだ。
 つまり、吉岡は今の若者が嫌いなんじゃない。自分の中に巣を作りつつある、新たに湧き出る感性に戸惑ってるのだ。悲惨で壮絶な戦争体験で作り上げられた負の価値観が薄れ壊れていく恐怖と必死で戦ってる様に思える。いや、彼の説教は現代社会への救いのメッセージなのかもしれない。

 私が思うに、吉岡の重く深い説教は若者に対するというより、現代社会への警鐘とも思える。敗戦により善と悪が逆転し、日本人の価値観が180度変わった。欧米的な自由を謳歌する若者を見て、”俺たちの戦争はまだ終わっちゃいない”と叫びたかったのか。

 

第1部第2話=「路面電車」

 第2話「路面電車」では、吉岡が万引き犯を警察に突き出すシーンで、若者の反発をモロに喰らうシーンがある。
 ”どんな理屈であれ、どんな事情があれ、盗みは犯罪だ”と割り切る吉岡の絶対論は、アメリカの”テロは絶対に許さん”的な(作られた)正義の論理と相通ずるものがないではない。それでいて、何処かに昔ながらの正義と温もりがあるのもまた事実。

 個人的には、犯罪やテロを生み出すものが現代の権力であり、自由主義というシステムであり、正義という名の虚構であれば、吉岡の説教の論理が若者のグローバルで柔軟な論理と火花を散らすのも、至極当然の事ではある。
 しかし、鶴田浩二演じる吉岡にすっかり惹き付けられたお茶の間の大衆は、”やっぱり盗みは犯罪だ、そして犯罪は悪だ”と若者に説教したくなるのだろうか。つまり、国民の世論がTVドラマというメディアに翻弄され易い典型でもある。
 が現実には、こんな出来過ぎの説教を垂れれるスピーチライターは、何処を探してもいない。
 そう、鶴田浩二演じる吉岡は、山田太一が作り上げた虚像、いや幻想であり、彼が理想とする男のロマンなのだ。そこに虚しさと無理と脆弱さが同居する程に、中年は発狂し、若者は熱狂する。

 実は、このドラマが制作される前は、鶴田浩二とNHKは絶縁状態であったとされる。しかし、山田太一がドラマの脚本をプロデューサーを通して見せたお陰で、鶴田は出演に合意したという。つまり吉岡の説教は鶴田浩二の叫びでもあったのだ。
 

最後に

 山田太一が作り上げた吉岡の人物像は、鶴田浩二の本音でもある。そして、日本の理想の正義像であり、現代日本の理念でもあるのか。
 グローバル化により、人の思想や価値観が水彩画風に薄められ平坦化する中、吉岡の説教みたいな、モノクロ調の昔ながらの明確な理念や信念が必要とされる時代なのか。

 昨日も、チェイニーがまんまと仕掛けたイラク戦争について書いたが、”どんな事情があろうとも、どんな理屈があろうとも、オレはテロは好かん”と、策謀家チェイニーは巧みに説教を垂れたのだろうか?
 明日は第3話「猟銃」である。今から楽しみだ。



2 コメント

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Unknown (tomas)
2019-06-08 06:11:00
鶴田浩二とは懐かしい。
耳に手を当てて歌ってた姿を思い出します。

私の母は、サンドイッチマンというイメージが鶴田浩二にはあるみたいで、デビュー当時はどちらかと言えば、陳腐なアイドルに近かったらしいです。

私には超シブい役者さんというイメージしかないんですが。水谷豊さんと森田健作さんとのツーショットも豪華過ぎます。

今では古い傑作ドラマもネットで見れるので、古豪復活という所でしょうか。懐かしい記事面白かったです。
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tomasさんへ (lemonwater2017)
2019-06-08 08:43:11
サンドイッチマンですか。
今で言う、陳腐なイケメンアイドルだったんですかね。

でも歳をとって味が出る役者って良いですよね。
コメントどうもありがとうです。
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