象が転んだ

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蘇る天才アーベルのアイデア”その3”〜対称群と交代群と可解性の、その先に・・

2024年06月16日 04時24分08秒 | 数学のお話

 前回「その2」では、ガウスの代数的非可解性の”例外”を一般化しようとしたアーベルですが、ガウスの円周等分方程式をヒントに、”アーベル方程式”を発見しました。
 アーベル方程式とは、重根を持たないn次方程式の解x₁,x₂,x₃,…,ₙにて、xₖ=Φₖ(x₁)、k=2,3,…,nと、xの有理式で書けるとし、任意のi,jにて、Φⱼ(Φᵢ(x₁))=Φᵢ(Φⱼ(x₁))となる時の、元のn次方程式の事を言う。故に、円周等分方程式はアーベル方程式であり、故に可解となる。
 つまり、解全体が円周等分方程式の様な巡回的な対称性を持つ時、その方程式は”巡回方程式”と呼ばれ、べき根で解け、可解となる。

 こうしたアーベルのアイデアは、可解性と可換性を結び付け、代数的非可解性の道は大きく前進する。アーベルは”可換な解の対称性こそが重要だ”と主張したが、そこで命が尽きた。このアーベルの主張の続きを、完璧にかつ簡潔に完成させたのが、若き天才ガロアである。
 1828年、アーベルもガロアも”解の対称性と置換”という共通の議論を有してたが、ガロアこそが解の置換を方程式の群として論じた最初の人物であった。ガロアは”代数的可解性は可換な解の対称性に依存する”事に着目し、”対称性を崩せば、べき根で解ける”事を突き止める。
 勿論、ガウスも”解の相互関係”(解の置換の対称性)が代数的可解性に依存する事までは気付いていたが、可解性と可換性を結びつける事が出来たのかどうかは疑わしい。 


対称群と正規部分群と可解性 

 こうしてアーベルは、可解な方程式の特徴として可換な対称性という可換性を発見した。例えば、2つの解は2次対称群S₂と同じく巡回的(可換)である。これは、S₂の2つの置換の元を{e,(12)}とすると、2つの元同士の組4つ全てが可換となる事から明らかだ。
 故に、2次対称群と2次方程式を解くプロセスの類似性に注目する必要がある。 
 結論から言えば、S₂の中に恒等置換eを含む”不変部分群”を含めば、2次方程式はべき根で解ける。因みに、群Gの部分群Hが共役変換にて不変な時、つまり任意のg∈GにてgH=Hgとなる時、HをGの不変部分群、今で言う”正規部分群”と呼ぶ。 

 3次や4次方程式の解が、その係数の組にて可換(アーベル)であるのは、「その1」で述べた”基本対称式”により明らかだが、3次対称群S₃や4次対称群S₄が可換か否かは、置換表を使い、一々調べる必要がある。
 例えば、S₃はS₂よりも複雑で可換ではない。例えば、回転(123)と互換(13)を合成すると、(123)(13)=(12)、(13)(123)=(23)となり、組合せの順序により結果が異なるからだ。但し、(123)は1→2→3→1→…と延々と回転する巡回置換で、(12)は1↔2となる互換とする。
 また、S₃は3!=6個の元{e,(123),(132),(12),(13),(23)}を持つが、6×6=36通りの置換の組合せ中に、偶置換A₃(3次交代群)={e,(123),(132)}の3つの元を持ち、置換の組で3×3=9個となるが、表で見れば対角線にて対称であり、A₃は可換である事が判る。
 但し、偶置換とは偶数個の互換の組で表せる置換で、奇置換は奇数個の互換の組で表せ、A₃では3つの互換をさす。更に、A₃は不変部分群{e}を含む。
 この連鎖(配列)は、最大の対称性から始まり、次に大きな不変的な部分対称性に進み、最後には最小の対称性である恒等置換eのみからなる対称性で終わる事を意味する。
 故に、3次方程式を解くとは、解の対称性S₃の中に不変的な部分対称性A₃を、つまり不変部分群(=正規部分群)見つける事に対応する。
 以上を記号で書けば、S₃▷A₃▷{e}となる。

 4次方程式となるともっと複雑になる。S₄の元は4!=24個で24×24=576通りもの置換の組が存在する。更に、S₄は可換ではない。これは、S₄の互換や回転は(S₃で述べた様に)一般に可換ではないからだ。
 また、S₄の部分群である偶置換A₄の元は12個あり、12×12=144個の置換の組を調べる必要がある。勿論、A₄はS₄の部分群より可換ではない。
 これも結論から言えば、A₄の中に4つの元{e,(12)(34),(13)(24),(14)(23)}からなる可換な部分対称性Vが含まれ、更に、Vは{e}を含む不変部分群であるから、A₄の中にVの様な不変な可換的部分群(正規部分群)を見つける事で、4次方程式も分解され、フェラーリが証明した様に解く事が可能になる。記号で書けば、S₄⊃A₄▷V▷{e}となる。 
 但し、Vは4×4の置換の組で見れば(対角線にて対称であり)可換だが、巡回的ではない。これは、2重の互換は合成する順序には依らないが、どの元も順に2乗、3乗、4乗しても残り全てを生成できないからだ。


5次対称群と5次方程式の可解性

 多くのサイトでは、S₄は立方体や正8面体をモデルにし、前者はそれぞれの頂点に向かう4つの対角線を、後者は向かい合う面の中心を結ぶ4本の線を考える事で回転対称性を説明する。が、S₅の回転対称性を持つ正多面体は存在しない。
 事実、5次対称群S₅の元は5!=120個あり、偶置換のA₅(5次交代群)をとっても60個。ルフィニが実際にやった様に、置換表で60×60=3600通りを一々調べる必要がある。勿論、S₅もA₅も可換でない事は明白だ。だが、A₅は正12面体と正20面体の両方の、同じ対称性を表現する。
 つまり、正12面体と正20面体について、その対称性の中に1つでも不変部分群を見つける事ができれば、5次方程式がべき根で解ける事が可能となる。逆を言えば、恒等置換{e}以外に不変部分群(正規部分群)を見つける事が出来なければ、5次方程式は解けない。
 実際に、この様な部分群を探す時、正20面体の1本の軸の周りだけでなく、異なるタイプの対称性について、全ての軸についての回転を考える必要がある。
 因みに「アーベルの証明」(山下純一訳)では、対称性を視覚化する為に、n次方程式はn人のダンサーの入れ替え(置換)をモデルにして説明する。が、ダンサーを例にしても置換の議論の難しさは変わらないので、そのままで説明した。

 これも結論から言えば、正20面体の対称性は他の様々な対称性と相互に干渉する。これを5人のダンサーの偶ステップの組A₅に例えれば、60×60=3600ものステップの組合せの内で、同値可能な全ての軸に拡張する時、それ自身で閉じたステップを作る様な不変部分群は存在しない。
 つまり、美しく入り込んだA₅のパターンは分離した部分に分解するにはあまりにも複雑すぎる。言い換えれば、完全に織り交ぜられいる。
 従って、この非可換なダンスそれ自身全体よりも小さな(恒等置換e以外の)不変部分群は存在しない。これにより、5次方程式がべき根で解けない事が判る。記号で書けば、S₅⊃A₅▷{e}となる。
 一方で、正12面体の内側に、正20面体の20個の頂点全体を等距離にある4個ずつの5組の集まりに分けると、こうして出来た点の集まりをそれぞれ結べば、交差する5個の正4面体を得る。これらは正12面体や正20面体や”5人のダンス”A₅=60=12×5通りと同じ、5重の対称性を持つ事が判る。

 「アーベルの証明」では、以上の様に、正20面体の回転対称性を使って証明を与えているが、「天才数学者はこう解いた・・」(木村俊一著)に書かれてる正12面体を使った証明の方が、少し簡単で理解し易いかも知れない。

 
正12面体と5次交代群

 まず、正5角形を12枚作り、正12面体を用意する。全ての辺は(5×12÷2で)30本あるが、1つの面を取り、5つの辺に1〜5までの数字を書き入れる。この時、正12面体の中に5組の3次元の直交座標が隠れ、それぞれの直交軸には辺が6本属してる事に注意する(上図参照)。
 そこで、同じ直交座標に属する辺には同じ番号をつけ、このルールにより、正12面体の全ての辺30本(=6×5)に1〜5までの番号をつける事が出来る。
 一方で、正12面体の回転対称性は、正12面体を自分自身重ね合わせる回転で表される。
 これを回転軸によって分類すれば、面の中心を通る”5回対称軸”を持つ回転が24通り(軸が6本で、それぞれの軸について、2π/5,4π/5,6π/5,8π/5の4通り)、頂点を通る”3回対称軸”を持つ回転が20通り(軸が10本、それぞれの軸に2π/3,4π/3の2通り)、辺の中点を通る”2回対称軸”を中心とする回転が15通り(軸が15通り、それぞれの軸についてπの1通り)がある。最後に”何も動かさない”という回転を1つ加え、合計(24+20+15+1=)60個の回転が見つかる筈だ。
 因みに、面の中心を通る対称軸の数は反対側の面の中心に出るので、面2つで1本となり、12面÷2で6本。同様に、頂点を通る対称軸の数は反対側の頂点に出るので、頂点2つで1本となり、20頂点÷2で10本。辺の中点を通る対称軸の数は反対側の辺の中点に出るので、辺2つで1本となり、30辺÷2で15本となる。
 更に、”n回対称軸”とは”n回転したら元に戻る”回転操作の軸という意味で、nは位数(群の元の数)を指し、正12面体の60個の回転対称操作は置換群(対称群)としてみれば、位数は60となる。

 ここで、それぞれの回転により1〜5の数を一斉に入れ替える。例えば、1の番号の辺が3の番号の辺に移動したなら、それに伴い、1の番号がついた他の辺が全て3の番号がついた辺に移動する。こうして回転操作により、1〜5までの番号が全て入れ替わる事になる。
 1〜5までの番号を全て入れ替えるやり方は、5×4×3×2×1=120通りあるが、そのうち半数の60通りが正12面体の回転により表される事が分かる。
 そこで、1〜5までの番号を5次方程式の5つの解x₁,x₂,x₃,x₄,x₅の置換とみなすと、120個の入れ替えのうち、偶置換に当たる60個が正12面体の回転で表される事も分かる。逆に(ここが肝心な事だが)、任意の偶置換にて、これを実現する様な回転がただ1つ決まり、更に、群としての演算も保存される事も判る。
 こうして、正12面体群Gと5次交代群A₅は同一視出来る事が判る。


正12面体による証明

 そこで、単位元(恒等置換e)以外の元を含むGの不変部分群(正規部分群)Hが存在したと仮定する。
 まず、h∈Hが正12面体の頂点を通る”3回対称軸”を持つ回転だとすると、任意のg∈Gに対しgHg⁻¹∈Hとなる。つまり(上で見た様に)、頂点を通る対称軸を回る回転が1つ決まれば、任意の頂点を通る対称軸を回る回転も含まれる。
 次に、h∈Hが正12面体の面の中心を通る”5回対称軸”を持つ回転とすると、任意のg∈Gに対し、gHg⁻¹∈Hとなる。つまり、面の中心を通る対称軸を回る回転が1つ決まれば、任意の面の中心を通る対称軸を回る回転も含まれる。
 同様に、h∈Hが辺の中点を通る”2回対称軸”を持つ回転とすると、任意のg∈Gに対しgHg⁻¹∈Hとなる。つまり、辺の中点を通る対称軸を回る回転が1つ決まれば、任意の辺の中点を通る対称軸を回る回転も含まれる。
 最後の”何も動かさない”回転は恒等置換で、自明の正規部分群となる。

 ここで、解の置換をgによる入れ替え全体の集合を置換群Gとすれば、g∈Gを不変に保つ入れ替え全体の集合Hは不変部分群、つまり今で言う”正規部分群”と言える。 
 この様に、単位元e以外を含むGの正規部分群Hが存在したとすれば、H=Gとなる事が判り、Gが自明でない正規部分群を含まない事が証明できる(証明終)。

 そこで補足ですが、5次方程式の解の置換となる5次対称群S₅の偶置換である60個の正12面体の任意の回転操作をh∈Hとする。そこで、hがただ1つ決まれば、任意のg∈Gに対し、gHg⁻¹∈H(⇔gH=Hg)となる様なGは群を成し、60個の元の正12面体群となるので、H=Gとなる。
 つまり、解の任意の置換をgとすれば、g∈Gを不変に保つ入れ替え全体の元の集合HはgH=Hgを満たし、HはGの正規部分群と言える。但し、gとHを入れ替えても不変だから”不変部分群”との表現は実に嵌っています。
 即ち、正12面体群Gと5次交代群A₅は同じ事で、正規部分群の記号▷で書けば、S₅⊃G=A₅▷{e}となり、恒等置換e以外を含む正規(不変)部分群は存在しない。故に、5次方程式がべき根で解けない事が判る。
 但し、最後の証明は「正多面体を解く」(一松信著)からの引用でした。


最後に〜群の概念とその時代

 時代と共に群の概念は一般化していったが、元は置換のみを取り扱ってた群だが、基本的な定義を満たす任意の集合へと広がっていく。
 一方で、抽象的な形で群の基本的定義が打ち出されたのは1854年(A・ケーリー)の事に過ぎない。彼は有限群が置換群と同型である事も証明した。
 今では群論は、図形的なものや直感的な枠組みを乗り越え、それ自身の抽象性の中に新たなパワーを見出す。
 既に見てきた様に、S₂,S₃,S₄,S₅の対称群はそれぞれ様々な個数の元を持ち、それぞれの群は部分群を持つ。例えばS₄は、対称性の1階下の部分対称性の相互関係を示す部分群A₄を含んでいた。また、群には可換群(アーベル群)と非可換群(非アーベル群)がある。
 ガロアは”S₃がA₃を正規部分群として含む”事をS₃▷A₃▷{e}と書き、これは”可解鎖”とも呼ばれ、方程式が可解であるか否かを判定するもので、ガロアがアーベルを超えた所にある。

 1889年に、K・ジョルダンとO・ヘルダーはこれを可換性を強調する形で表現した。つまり、方程式が可解であるのは、この鎖が隣り合うそれぞれの対の”商群”(剰余群)がアーベル(可換)的となる時だ。即ち、可解である為には隣り合う結びつきがアーベル的になる必要がある。但し、”隣り合う”結びつきだけが問題で、結びつき全体がアーベル的である必要はなく、剰余群の概念がこれに正確な説明を与えてくれる。
 一方で、自明でない({e}以外の)正規部分群を持たない群は(正20面体又は正12面体のその対称性の群A₅の様に)決して”単純”ではなく、驚く程複雑なのに”単純群”と呼ばれ、A₅は(その複雑さに拘らず)最小の非アーベル的単純群と呼ばれる。但し、最小とは群の元が最も少ないとの意味だ。
 20世紀数学の最大の離れ業の1つは、有限単純群の徹底的な分類に成功した事で、それは5次交代群A₅から出発し、196883次元空間内のある立体の対称性に対応する”モンスター”と呼ぶ群を含むものとなる。
 つまり、直感によっては何もイメージできないし、捕まえる事も出来ないのだが、抽象的な理論には、直感が圧倒され、手がかりを失った時に、それを助ける準備が出来ているのだ。
 ここにおいて、アーベルが数学史上初めて提示した”可換性”の問題は導きの糸となる。



4 コメント

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不変部分群と正規部分群 (UNICORN)
2024-06-16 09:57:51
”任意の偶置換にて、これを実現する様な回転がただ1つ決まり、更に、群としての演算も保存される”とあるが
h∈Hが偶置換に当たる60個の正12面体の回転だとすると、hが1つ決まれば、任意のg∈Gに対しgHg⁻¹∈H(⇔gH=Hg)となる様なGは群を成し、そのGは60個の正12面体の回転操作の集合そのものとなるので、H=Gとなる。
つまり、解の置換をgによる入れ替え全体の集合を置換群Gとすれば、g∈Gを不変に保つ入れ替え全体の集合HはgH=Hgを満たし、HはGの正規部分群と言える。
との解釈でいいのだろうか。

でも相変わらず、置換をテーマにした議論は難しいですね。 
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UNICORNさん (象が転んだ)
2024-06-16 11:59:50
正12面体群Cと5次交代群A₅は同じ事なので、正規部分群の記号▷で書けば、S₅⊃G=A₅▷{e}、つまり、S₅⊃A₅▷{e}となり、恒等置換e以外の)正規(不変)部分群は存在しない。故に、5次方程式がべき根で解けない事が判ります。
例えば、gとHを入れ替えても不変だから”不変部分群”という表現も実に嵌ってますよね。

私も、全て完璧に理解して書いてる筈もないので、こうした貴重な指摘はとても有り難いです。
お陰で、漠然としてたモヤモヤ感がなくなりました。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2024-06-16 12:03:45
訂正です。
正12面体群Cではなく
正12面体群Gでした。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2024-06-16 14:24:55
それと
寄せられたコメントですが
追記させてもらいました。
どうもです。
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