「数学はなぜ、エロいのか?」に寄せられたコメントに、ブラックジャックで使われる”カードカウンティング”の事があった。
キャンブルや賭け事なんて殆どしない私だが、不思議と興味を覚えた。
記事にも書いたが、映画「ラスベガスをぶっ潰せ」(2008)で、大まかな事は知ってはいたが、この映画の主役である”カードカウンティング”手法が、(思った以上に)シンプルで単純である?のには少し意外にも思えた。
”カードカウンティング”
コメントの言葉を借りれば、カウントするカードには、”21”に到達するに(その優位性に応じ)以下の点数が割り当てられる。
ハイカードと呼ばれる2〜6のカードには=+1点が、ノーマルの7〜9のカードには0点、そして10〜A(エース)のローカードには−1点。
つまり、これらの値に従い、テーブルの”場”に出てるカードを全て計算し、合計点が高ければプレイヤー側が有利で、合計点が低ければカジノ側が有利となる。
これら合計値は”ランニングカウント”と呼ばれ、多くのカジノがカードカウンティング対策として、複数のデッキを使う。
故に、ランニングカウントの的中率は複数のデッキでは低くなるが、単一デッキでは高くなるのだ。
プレイヤーが複数のデッキに対応するには、ランニングカウントを残りのデッキ数で割り、”トゥルーカウント”を求める必要がある。お陰で、テーブルの数が増えても、プレイヤー側は正確な判断が下せる。
この様に、カードカウンティングとは、プレイヤー側の勝率を統計学的計算を使って大幅に上げる戦略で、殆どのカジノでは禁止されてしまった。しかし、実質には複雑な計算を頭の中で行なうだけなので、行為自体は違法ではない。
が、カードカウンティングはあまりにも効果絶大な為に、”禁じ手”とみなされ、頻繁にカードカウンティングを露骨に組織的に行う客を、カジノ側は強制的に退去させる。
元々、ブラックジャックはプレイヤーに有利なギャンブルである事が確率論から証明されている。その上、この様な(統計学の理論に支えられた)高度な手法を使い、更に勝つ確率を高め、一気に勝負に出る。
(数学が)禁じ手になるのも肯けくもない。
因みに、このカードカウンティングはロジャー・ボールドウィンが”数学の理論をブラックジャックに応用できる”(1956)との提案を、数学者のエドワード・ソープが発展させた。
ソープは1962年に「Beat the Dealer(ディーラーをやっつけろ)」という本を出し、カードカウンティングを有名にした。
そこで今日は、本当に数学がディーラーを潰せるのか?数学はギャンブルを超えて、ツキや運を解析できるのか?
そういう事を、私なりにソープ氏の自伝を元に探ってみたいと思います。
数学者がディーラーをぶっ潰す
エドワード・ソープはブラックジャックで、コンピューターシミュレーションによる基本戦略と、それにカードカウンティングとベッティングシステムの3つの混合戦略により、プレイヤー側が優位に立てる事を発見した。
世の中は、大抵は胴元が有利になる様にできている。一人の白兵に過ぎない大衆は、不利な戦いを強いられ搾取される。
つまり、労働者に生まれた時点で資本家に搾取される対象にすぎないし、中央銀行の様に好き放題お金を刷る事も出来ない。
しかし、この様な非対称性をひっくり返す事ができるとすれば・・・
カジノビジネスは非常にシンプルで、カジノが儲かるのは、ゲームの背後にある数学のお陰である。つまり、カジノには”運などは存在しない”のだから。
以下、「胴元の優位を崩す数学」から一部抜粋です。
(幾つかの顕著な例外を除き)長い目で見れば、カジノがプレイヤーよりも数学的に有利になる為、ハウス(胴元)は常に勝つ事になる。
マリオ・プーゾの小説「愚者は死ぬ」では、カジノのボスが”パーセンテージは決して嘘をつかない。我々は%の上にホテルを建て、我々は%の上に金持ちであり続ける。宗教と神、女性と愛、善と悪、戦争と平和、どんなものでもパーセンテージは常に安定している”と語る。
まさに正論である。ハウスエッジ(胴元優位性=ピンハネ率)がなければ、カジノは存続不可能だ。
この”ピンハネ”があり、そして”大数の法則”(試行回数を無限に繰り返せば、数学的確率に近づく)があるので、カジノは(長期的には)必ず勝つ様に出来てはいる。
長期的に予想されるプレイヤーの報酬は”期待値”と呼ばれ、プレイヤーの賭け金期待値がマイナスの場合、長期的には損をする。
例えば、ルーレットで赤の色に5ドル賭けた場合の期待値は−0.263ドル。赤に5ドル賭ける毎に、平均で1/4強の損失をプレイヤーは被る。
ハウスアドバンテージ(胴元有利率)とは、カジノが保持する賭け金の長期的な割合を表す。ハウスエッジ(ピンハネ率)は、ルーレットなど幾つかのゲームでは簡単に計算できるが、他のゲームではより高度な数学的分析やコンピュータシミュレーションを必要とする。
大抵の場合、長期的にはプレイヤーは損をする事になり、ハウスエッジはどれだけ早くお金を失うかの指標となるが。ハウスエッジが4%のゲームでのプレイヤーは、同2%のゲームでは2倍の速さで資金を失う。
つまり、賢いカジノギャンブルのコツは(数学的期待値の観点ではだが)、ハウスアドバンテージが大きいゲームを避ける事である。
ブラックジャック必勝法
ブラックジャックは(カジノの中でも最高のオッズを提供する)テーブルゲームの中で最も人気のあるゲームである。
ハウスアドバンテージは、ルールやデッキの数によって若干異なるが、基本的な戦略を持つプレイヤーは、シングルデッキのゲームでは殆ど不利になる事はなく、一般的な6デッキのゲームでも僅か0.5%のハウスエッジにしかならない。にもかかわらず、平均的なプレイヤーはミスや基本戦略からの逸脱により、カジノに2%のエッジを与えてしまう。
”基本戦略”の完全な表は多くの本に掲載されてるし、多くのカジノホテルのギフトショップではクレカサイズの色分けされたものが販売されている(写真)。プレイヤーに有利なケースとして、デッキの数が少ない、ディーラーがソフトセブンティーン(0.2%)に立ってる、スプリット後にダブリングする(0.14%)、レイトサレンダー(0.06%)、アーリーサレンダー(0.24%)などが挙げられる。
ブラックジャックの戦略の起源は、第二次世界大戦が終結した5年後の1950年にまで遡る。メリーランド州の米国陸軍の研究者が暇つぶしで研究したものが始まりとされる。
1962年に数学者のソープは、デッキに残ってるカードを追跡する”カードカウンティング”を使用し、プレイヤーがブラックジャックで優位に立つ方法を概説した画期的な本「ディーラーをやっつけろ(Beat the Dealer)」を出版した。
同書にはゲームの基本的なルール、実績のある勝利戦略、カジノの対策を克服し不正行為を発見する方法が含まれ、ブラックジャックのプレイヤーの為のバイブルとなる。お陰で、ラスベガスからモンテカルロまで、テーブルの状況は変わり、ブラックジャックでの胴元の優位性はなくなった。
ソープの戦略
ソープが使用した戦略は、3つに分けられる。
第1にカードカウンティング。
この戦略は冒頭でも述べたが、”山”に積まれてる未使用のローカード(10、ジャック、クイーン、キングなど)が統計的にプレイヤーの勝率を向上させるという事実に基づく。プレーヤーは勝負から降りる事ができるが(但し、掛け金の半分は没収)、カジノ側はルール上、勝負を強制されてる為、プレイヤーは有利になる。
”山”の中にローカードが高い割合で残ってる場合、ディーラーはバースト(21を超える)する可能性が高くなる。これを何百万ものブラックジャックのハンド(手持ち)のコンピューターシムから計算された”基本戦略”と組み合わせた。これにより、考えられる各カードの組合せに応じ、プレーヤーに最適なアクションを伝える。
第2に、”基本戦略”(ベーシックストラテジー)。
ソープは、当時MITに導入されてたIBM704でブラックジャックの場合分けを計算し、(先行研究での)手計算で割り出した基本戦略を磨き上げた。余談だが、IBM704が置かれた教室は”ハッカー”なる言葉が生まれた場所でもある。つまり、現代のテクノロジー企業に繋がる”ハッカー文化”を生み出したのが、このマシンなのだ。
ソープが考えたのは、カードカウンティングと基本戦略を組み合わせる事で、プレーヤーは長期的なハウスエッジ(ピンハネ)の2.7%をプレイヤーエッジ(儲け)に転換でき、プレーヤーはハウスに対し約1%優位に立てる事ができる。
3つ目が、ベッティングシステムと呼ばれる戦略で、これは勝率や現在の所持金を元に、次に賭ける金額を決定する戦略。
因みに(後でも述べるが)、このシステムを作る時、ソープを手助けした”情報理論の父”クロード・シャノンが元同僚のジョン・ケリーの”ケリー基準”を用いるようアドバイスしたとされる。
因みにケリー規準とは、複利収益率が最も高くなる”最適な投資サイズ”を算出する方法で、古くからギャンブルの世界では知られてたが、株式投資の世界でも応用可能で、投資サイズの意思決定にも使える。
ソープの著書「ディーラーをやっつけろ」(1962)の反響は大きく、カジノ側はカードカウンティングを阻止する為に多くの手段を導入した。
まずカードカウンターを排除し、デッキの数を通常の1から6または8に増やす。一部のカジノでは、約75%のカードがプレイ後にシャッフルされ、または自動シャッフルを使用し、常にシャッフルするルールを新たに採用した。
多くのプレーヤーは、この様な手段に対抗し、”(確立された)スキル”を整える必要があった。単独のカードカウンターは比較的簡単に見つける事ができる為、MITの学生たちはチームで戦略を実行する。
それは、他の誰かがプレイヤーにカードを数えるという事だ。ゲームに参加してない彼らは、カウントが合意された値に達するとテーブルに参加し、別のプレーヤーにサインを送る。更に、一般客やウエイトレスに化けてサインを送れば、これらを検出するのははるかに困難になる。
という事で、長くなりすぎたので前半はここまでです。
要するに、掛け金と自分と胴元の状況を統計学と確率論を駆使し、コンピュータを使ってキメ細かく何度も何度も分析&計算し、最後にはハウスアドバンテージ(胴元優位)をひっくり返す。
つまりソープは、”ラスベガスをぶっ潰せ”を数学の力で実践してみせたんですね。
次回後半は、ブラックジャックからルーレットへ、そしてカジノから証券市場へ主戦場を変えるエドワード・ソープの躍動を紹介したいと思います。
ある意味、プロに近いんですかね。
単純な確率論ですが、やはり勝率は上がるんですよね。
実際にはカジノ側も様々な対策を練ってるでしょうから、こうした丁か半かのギャンブルは単純なようで単純じゃないのかもです。
言われるように、あくまで攻略法であり、必勝法ではないという事ですよね。
ここまで本格的なコメントが届くと、記事にしてよかったと思います。これからも宜しくです。
連敗をできるだけ抑えることです。
マーチンゲール法か成功したとしても、連敗のリスクを低くすることはできない。
そこで、”連敗を抑える”には、”同じ結果が出続ける確率”を利用する。つまり、”毎回勝負しない”こと。
同じ結果が連続して出た後からマーチンゲール法を仕掛ければ、連敗する確率を抑えることができる。
事実、二者択一で同じ目が出る確率は単純計算では、1回目が50%、2回目(25%)、3回目(12.5%)、4回目(6.25%)、・・・、10回目(0.1%)となる。
そこでオンラインカジノのルーレットで、単純にマーチンゲール法でプレイした時の結果を見ると、10回勝負をして4回勝利し、1ドルから賭けたとして収支は+4ドル、勝率は40%(丁か半かのギャンブルとしては悪くはない)。
次に、3回連続で同じ結果が出てからマーチンゲール法で勝負した結果は、50回のうち10回勝負ができた。そのうち7回勝利し、トータル収支は+7ドルで勝率は70%となり、単純にプレイした時に比べ、勝率が上がる。
しかし、ここで述べた攻略法はリスクや勝率をある程度は調整できても、必勝法ではない。
それにディーラーの腕もあるし、実際にはこのように単純に勝率が上がるはずもない。確率や統計で運やツキを計算する上でのあくまでも参考にという事ですね。
つまり、勝つまでは掛け金を倍々に積み上げる為、かなりの軍資金を必要とする。故に、お金持ちじゃないと無理ってことかな。
確かに1回でも勝てれば、負け分はチャラになりますが、その1回の勝利がいつくるか?誰にも分からない。
仮に100円からスタートして10連敗した場合、11回目のベット額は100×2¹⁰=102,400円になる。確かに勝てば(配当が2倍として)、それまでの掛け金(=100(2¹⁰−1)=102,300円)はチャラにはなりますが・・・
でも、20連敗でもしたなら、21回目のベット額は104,857,600円と1億を超える。
過去にモナコのルーレットで26回連続で黒が出たという記録があります。この時、赤に賭け続けていれば、27回目の掛け金とそれまでの損失金を合わせ、約134億円(=100×2²⁶×2)の軍資金が必要になりますが、結局はお金持ちの道楽なんでしょうか。
貧乏な私は大怪我しそうで、やっぱり怖いですね。
わざわざ調べてくれたんですね。
感謝感激ですよ。
ブラックジャックには専門用語が多いので、それを理解するだけでも勉強になります。
でも同じ目でも、HardとSoftでは結構ばらつくんですよね。
こちらこそ色々と勉強になります。
リスクを徹底して調べあげ、排除する。
これに尽きますよね。
単純に勝つ確率ではなく、ベットサイズに応じた勝率とリスク率を細かく調べ上げ、常にプレイヤー有利に持ち込む。つまり、ベーシック戦略だけでも、大ケガをしない安定したギャンブルが可能となります。
このベーシック戦略以外にもマーチンゲール法(勝つまでは掛け金を倍にし続ける)がありますが、FXなどの資産運用でも使われ、ずっと単純ですね。
”理論上負けない”とされるのは、どんなに負け続けても1度の勝ちで全てを取り戻せるのが根拠ですが、勝率5割&配当2倍のルーレットやバカラなどに多く使われるとされます。
そう考えると私でも勝てそうな気もしますが、どーでしょー?
ベーシックストラテジーチャートと呼ばれる表(カード)を使う事で、確率に基づいた戦略的なプレイが可能になるんでよね。
緑色のHがヒット、赤色のSがスタンド(ステイ)、黄色のDがダブルダウン。
まずプレイヤーに配られたカードの合計が10で、ディーラーのオープンカードが4であったとします。そこで転んだサンの表(イラスト)を見ましょう。
縦軸(HardTotal)が10で、横軸(DealerUpCard)が4ですから、次のアクションはD(ダブルダウン)、つまり掛け金を倍にしてカードをもう一枚引く。そうすれば確率が上がるという訳で。
Aを1と数える”Hard”とAを11と数える”Soft”では、勝率も結構変わるんですかね。
一応補足でした。
数学力でリスクを回避させ、
数学者の洞察力で、胴元優位性をひっくり返す。
ギャンブルを数学で記述するといった所ですね。
大きなリスクでもベットの対象にするには、掛け金を慎重に細かく設定する必要がある。
ケリー基準が大いに参考になったのも肯けるね。
胴元優位を数学でひっくり返せってとこかな。
数学者らしい戦略と言えばそれまでですが、些細なリスクをも数値化するソープの執念こそが、カジノを潰したんでしょうか。
運やツキも数学的記述で表現される時代が、すぐそこまで来てるような気もしますが。
それはそれで、悲しい気もします・・・
下手な紹介文でスミマセン。
カードカウンティングだけでなく、基本戦略(カードの組合せ)とベッティングシステム、それにケリー基準が組み合わさり、ブラックジャック必勝法が出来上がる。
どれ1つ欠けても、細かいミスさえも許されない。
”ディーラーをぶっ潰せ”とは言葉ほどに単純で簡単じゃないんですね。
こちらこそ勉強になります。