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象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

備蓄米放出でもコメ価格は高騰〜農水省の愚策と農協救済の奇妙なカラクリ

2025年04月22日 13時35分53秒 | 腐った政治

 新米が出回ってもコメの価格は高止まりのままだ。日本政府は備蓄米の放出を決めたが、大方の予想通り、コメ価格の高騰は収まりそうにもない。
 事実、江藤農林水産相は22日の会見で”責任を重く感じているし、申し訳ないと思っている”と謝罪し、価格が下がらない原因を流通の混乱に押し付けた。
 ここに来ても、農水省はコメ価格高騰の初歩的な大失態をバカな言い訳でごまかす。全く、どんな詭弁で応じるかと思いきや、このザマである。

 キヤノングローバル研究所の山下一仁氏は、”将来的に国が買い戻す条件付きでJAなどに販売している。放出してもいずれ市場から引き揚げるのであれば、コメの供給量は増えないし、国民は高いコメを買い続ける事になる”と、昨年から警鐘を鳴らしていた。
 「減反を廃止し、コメの自給率を上げよ」でも書いたが、減反を廃止し、供給と需要が増え、米価が安くなり、流通が潤えば、コメ卸業者も国民もコメ農家も潤う。
 一方、無駄に税金を使って巨大化した農水省の愚策により米の流通が滞れば、米農家や米卸業者は死滅し、その土壌の上に立つ(農協を含めた)農政も死滅する。だが、(農水省も含め)石破総理には農政改革を行うだけの力も知能も、更に覚悟と勇気もなかったとなる。


5kg2100円に半減する筈なのに・・

 事実、備蓄米が放出されたが、本来なら政府備蓄米で21万トン供給されるのなら、価格は5kgで2100~2200円程度に安くなる。が、農水省が備蓄米を売り渡すのは農協であり、農協がコメを売り控えると価格は下がらない。
 更に、もし農水省がその存在を主張する投機目的で買い占められてる“消えたコメ”が、価格低下を恐れて慌てて売り出されるなら、生産者米価は今の3割の水準(7500円)にまで暴落し、小売価格は5kg1200円程度に低下する筈だ。
 この山下氏の仮説には合点である。つまり、コメの高騰はいつかは収束し、数年前の一番易い時期の頃に戻ると私も予想する。
 以下、「コメの値段を下げようとしない農水省の罪深さ」より一部抜粋です。

 これらを説明する前に、農水省は備蓄米放出にどの様に対応してきたのか?昨年夏からの同省の思惑とその虚偽の説明にマスコミがどうして騙されたのかを、以下に説明する。
 例えば、a+b=Xとの等式があるとすれば、マスコミを含め殆どの国民が、この式を左から右に読む。左辺の原因があり、右辺の結果が存在すると多くは考える。だが、政策については最初からXという結論ありきで進められる事が多い。
 役所の都合や利権者の利益の為に、予め結論Xが設定され、それを導く為にaやbという理由や原因が探し出され、国民に説明される。つまり、結果がありきで、それを導く為に左辺が白々しく作られる。勿論、多くの人は役所の意図や動機に気付く事はない。
 従って、aやbという理由があるからXという政策が作られたと国民は信じ込むし、産業や政策に疎いマスコミの記者もそうした役所の巧みな説明に簡単に騙される。いい加減な記事や曖昧な報道をしても、役所が言ってるのだからと言えば免責される。

 今回もその存在すら確認してないのに、農水省が主張する“消えたコメ”の存在を無批判に報道。一方で、突っ込んだ記事や批判的で精緻な分析を書いたりすれば、政府の圧力に簡単に潰される。
 では、備蓄米の放出について農水省がどの様に考えて行動したのだろうか?
 まずは、本当に国民や消費者の利益を考えるなら、多くの人がコメ不足や価格高騰に苦しんでる(左辺の原因)のだから、昨夏段階で備蓄米放出という政策(右辺の結論)を出すべきだった。だが、農水省の思考は逆で、備蓄米を放出すると米価は下がる。
 しかし、高米価で兼業農家を温存させ、その兼業収入等を預金として運用し、巨額の利益を出すJA農協としては困るのだ。
 従って、各自治体から強く要請されても備蓄米放出は行わないとの政策決定をし、”コメは不足していない、卸売業者がため込んでるだけだ”と農水省は強弁。つまり、不足してないから備蓄米を放出しないとの理屈だ。
 その後、官邸から強要され、しぶしぶ備蓄米放出に応じた今も”コメはあるし不足していない。どこかの業者が投機目的で売り惜しんでいるだけだ”との大ウソをつき続ける。

 しかし、現実にコメは不足している。
 事実、23年産米が減反と猛暑等で40万トン強不足。それを端境期の昨年8~9月に24年産米を先食いしたので、24年産米が供給される昨年10月から今年の9月までの供給量は端から40万トン不足していた。コメの値段は需要と供給で決まるから、生産者米価が昨年7月の1万6000円から今年1月に2万6000円に上がったのは(農水省の主張に反し)供給が減った為という単純な経済原則からである。
 

追い詰められる農水省

 コメは不足していないという(右辺の結論)をサポートする為に農水省は苦しい説明を続ける。供給不足の主張に対し、”昨年8月、南海トラフ地震の発表により、一時的にコメの需要が急増し、供給が追い付かない状況が発生。しかし、以降は需要が落ち着き・・・一時的な需要増がその後の需要減によって相殺された。現時点では<先食い>による供給不足の状況にはなっていない”と苦し紛れに反論。
 そこで山下氏は、南海トラフ地震に備えた買い占めのウソを見抜き、更にデータを使って民間在庫の減少量を説明。一向に埋まらない年間40万~45万トン程度の供給減少を指摘する。
 一方、時が経っても前年同月比で同量が不足してる事はコメ不足が深刻化してる事を意味する。昨年10月時点の今後1年間の消費量550万㌧に対する40万㌧と、今年1月時点の残り10カ月370万㌧に対する40万㌧では、後者の不足の方がより深刻であり、が故に、コメの値段が値上がりし続けるのだ。

 決定的なのは、農水省が昨年8月からの米価の上昇を説明できてない事だ。備蓄米放出により供給不足は筈もないし、需要も変化してないのに、なぜ米価が上がるのか?
 農水省は根拠もなく、”誰かが投機目的でコメを隠してる”との主張を繰り返すが、何もない所で価格を吊り上げて売り抜こうとすれば、その業者はJA全農の様に市場に影響を及ぼす大量の在庫を持つ独占的な存在の必要がある。つまり、明らかなデタラメである。
 一方で、農水省は”消えた”と主張する21万㌧に近い数字を公表するとしてるが、”調査できない雑多な小規模業者がいるので・・”と弁明する。但し、農水省が農協の集荷減少分の21万㌧だけ”消えた”と言ってるのは、備蓄米の売却先を農協とする事で、農協救済の為と(米価の低下を好まない)農協に市場への供給量を増やさせないとの目的からだろう。

 ともあれ、農水省は次の3点を立証する責任がある。1つに、その小規模業者が前年に比べ在庫量を増やしてる事を証明する必要があるし、昨年の在庫量も調査する事になる。
 2つに、その在庫量の増加は21万㌧では足りない。事実、農水省は24年産米の生産(供給量)は18万㌧増えたとし、他方で農水省が把握した農協や卸売業者等の民間在庫量は前年同月比で今年1月44万㌧減少してるので、62万㌧(18万㌧+44万㌧)のコメを小規模流通業者が新たに隠してる事を挙証する必要がある。
 3つ目に、これら小規模流通業者が“投機目的”で在庫を抱えてる事を証明すべきだ。
 多分、これらを証明する事は不可能で(実際にそうなったが)、大臣など幹部の大ウソを取り繕う為、夜を徹して不必要な作業をするのは、悲しいかな末端の職員たちだ。

 因みに”需要”について、昨夏のインバウンド消費の他、コメがパンに比べ安くなったとか、南海トラフ地震への恐怖から備蓄の為に買いに走ってるとかの説明がなされた。だが、毎月300万人の旅行者が日本に7日間滞在して日本人並みにコメを食べたとしても、消費量の0.5%増にすぎず、せいぜい3万トン程度である。
 そもそも農水省は需要量や消費量を直接的に把握してるでもなく、”生産量+前期末在庫−消費量=当期末在庫”を変形し、”消費量=生産量+前期末在庫−当期末在庫”の式から推計してるに過ぎない。
 つまり、生産量が増加すれば、その分消費量も増加。即ち、23年産の猛暑の影響を十分考慮しないで生産量を大きく見積もれば、消費量を大きく推計する。が農水省としては、生産はコントロールできるが需要はできない。需給見通しが間違った時に”需要が変化した”と主張すれば、それ以上の責任を追及されない。


来年も高米価は続くのか?

 多くの論者が見落としてる事だが、24年産米の供給年度は昨年10月から今年の9月で、現時点の3月はちょうど中間だ。その時期に21万㌧を放出する事は年間で42万㌧を放出する事と同じ効果を持つ。
 これを踏まえ、(冒頭で述べた)今後のコメ価格の予想を詳しく解説する。

 まず、コメの主食用生産のうち農家の自家消費と先食い分の40万㌧を除いた500万㌧を年間供給量、この時の価格を60kg当たり2万5000円とする。また、価格弾性値(価格が1%変化する事で需要量が何%変化するか)−0.13の需要曲線を想定し、この下で供給量が42万㌧で、84万㌧(農水省が隠してると主張するコメも供給される)に増加した時の価格を算定。
 次に、備蓄米の放出分がそのまま市場の供給増加に繋った場合には、生産者米価は60kg当たり1万3443円(▲46%)、農水省が隠してると主張するコメも米価低下を恐れ、慌てて供給されると7571円(▲70%)になる。今の5kg当たり4000円の小売価格は、それぞれ2150円と1211円となる。
 従って、農協が市場への供給量を全く増やさないとの対応をした時は価格は変化しないし、今回の放出でコメの値段は0~46%の低下で、消えたコメが業者から放出される時には0~70%低下する。備蓄米の放出で実際に供給量が増えれば米価は下がる。
 故に、農水省はコメ不足を認めようとしないのだ。

 但し、興味深いのは今年10月以降のコメの値段である。まず、24年産の集荷競争で負けた農協は25年産に高い概算金を提示するだろう。既に、JA全農新潟は農家への概算金(しかも最低価格保証)を2万3000円としたが、通常年の1万7000円と比べると大幅な上昇だ。
 これで生産者は主食用のコメの作付けを大幅に増やせるし、農水省は4万ha、コメに換算すると22万㌧の生産増を見込む。これは農水省が買い戻そうとする備蓄米放出量21万㌧とほぼ同じ。つまり、農水省は25年産の供給量の増加を相殺しようとしてる。
 しかし、これは米価維持の為で、米価低落を回避する為に生産を抑制的に指導したいとする数値である。だが、農家はこれ以上に生産を増やすだろう。

 確かに、コメは容易に生産量を増加できる。現在、主食用以外の輸出用、加工用(あられ・せんべい)、米粉用、家畜飼料用のコメを主食用のコメの転作作物として、主食用として想定する米価1万5000円と、これら用途向けの価格との差を転作(減反)補助金として交付されるが、これが22万haほどある。用途(品種)を変更するだけで簡単に主食用に転換できるのだ。

 因みに、減反(転作)の経済的な条件は”主食用米価≦転作作物価格(他用途米、麦、大豆)+減反(転作)補助金”の式が成立する事である。
 現在、この主食用米価として60kg当たり1万5000円を想定し、2万6000円(今年1月の生産者米価)では減反補助金を大幅に増額しない限り、この条件が成立しない。この為、農林水産省等は生産を抑制しようと指導するが、コメ生産の増加は避けられない。事実、29県で増産意向にある。もし、他用途米22万ha全てが主食用に転換されると、121万㌧の生産増加になるが、ここまでは至らないとしても、米価の大幅な低下は避けられない。
 但し、現在日本米を海外で購入する方が国内より安くなってると報道されるのは、1万5000円から5000円の減反(転作)補助金を差し引いた1万円(60kg)で輸出してるからで、国内の2万6000円の半額以下のダンピング輸出であり、皮肉な事に消費者は2万6000円も払ってるのに、家畜は僅か1500円でコメを食べてる事になる。
 

最後に〜いつかは終わりが来る

 だが、ここで困るのはJA農協である。
 高額の概算金を農家に支払ってる農協だが、米価が下がったからとて農家からその分取り戻すと、これ以降農家は農協に出荷しなくなる。過去にその様な例は多くあるが故に、JA全農新潟は概算金は最低価格保証とした。
 従って、農協は米価を下げない方法を考えざるをえないが、手段は在庫調節であり、市場へのコメ供給を抑え、余剰分を自身で抱えるのだ。が、これには巨額の金利倉敷料がかかるし、農水省による備蓄米21万トンの回収ではとても足りない。
 でも心配する必要はない。
 JA農協の最大の経営資産は政治力だ。永田町の自民党本部に押しかけ、農林族議員にJA過剰在庫の政府備蓄米としての買い上げをお願いするだけでいい。
 以上、PRESIDENT Onlineからでした。

 山下一仁氏のコラム群は非常に精密で的確で、もっと紹介したいのだが、今回はその1つを詳しく紹介しました。
 元農水省幹部だった事もあり、裏事情の全てを知り尽くしている。
 今回のコメ高騰騒動も農水省の大ウソと愚策が過ぎた結果だが、農水省とても所詮は仲卸という調整役に過ぎず、実質の力関係で言えば、”農水省<農協<コメ農家”となる。
 つまり、コメ農家が減反や転作に背を向け、主食用のコメをメインに生産し始めれば、農協も農水省もそれに従うしかない。”南海トラフによる備蓄”とか”インバウンドによる需要増”とか”投機目的でコメが消えた”とかの農水省の大ウソは最初から見え見えでもあった。
 だが、一連の農水省の愚策が逆にコメ農家にとって起爆剤となり、全国の農家で主食用のコメ生産が加速し、やがては減反が廃止され、自然な流れで農政改革が進む。
 つまり、減反は自然消滅し、山下氏が唱える”無償の備蓄”を加速させ、日本のコメ自給率を飛躍的に上げる事を可能にする。
 勿論、その為には少し時間が掛かるだろうが、何でもそうだが、物事には始まりと終わりがある。
 つまり今は、その転換期にある様にも思える。



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