象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

THE”無限大ホテル”での奇妙な出来事〜ショートストーリ”ーその2”

2019年09月10日 04時13分44秒 | ショートショート

 20世紀を代表する数学者の一人、ダーフィト•ヒルベルト(1862-1943)は、ある変わった想像上のホテルを考えた。 

 ある旅行客が、”THE無限大ホテル”の受付カウンターに到着した。
 このホテルには無限の数の部屋があるが、どの部屋も塞がってたのだ。

 受付嬢は困惑した。
 ”スミマせ〜ん、ホテルは満室で〜す”

 しかし、支配人は平気な顔をしてる。
 ”1号室の客を2号室へ、2号室の客を3号室へという風に、何処までも移動してもらえばいいじゃないか!少しは頭を使え!”

 この客は翌週には、無限大の数の友人を連れてやってきた。この時もホテルは満員だったが、それでも支配人は平気な顔をしていた。
 ”1号室の客を2号室へ、2号室の客を4号室へ、3号室の客を6号室へ、という風に何処までも移ってもらう。
 これで奇数番号の部屋が全て空く。新しい客が来てもそこに入れればいい”

 しかし、ここで大きな問題起きた。

 このホテル以外の”無限”にあるチェーン傘下の”無限大ホテル”が閉店なったのだ。
 困った事に、閉店した全てのホテルの無限大の数の客を全員、このホテルに移さなければならなくなったのだ。
 つまり、無限大の数のホテルのそれも無限大の数の客を収容する羽目になったのだ。しかし、空いてる奇数番号の部屋に入れても、すぐに満杯になる。

 そこで誰かが言った。”素数を使ってはどうか?素数は無限にあるし、どんな自然数もただ一通りの素数の積で表せる”
 理屈はこうだ。「ホテル1」からは、無限の客を2、4(=2²)、8(=2³)、16(=2⁴)、、、2ⁿ、、、号室に入れる。
 同様に、「ホテル2」から無限の客を3、9(=3²)、27(=3³)、81(=3⁴)、、3ⁿ、、、号室に入れ、「ホテル3」から無限の客を5、25(=5²)、125(=5³)、625(=5⁴)、、5ⁿ、、、号室に入れ、「ホテル4」からは無限の客を7、49(=7²)、343(=7³)、、7ⁿ、、、号室に入れる。
 以下同様に、pとqが異なる素数で、mとnが整数なら、pᵐとqⁿは等しくなり得ないので、客が部屋にダブる事はない。

 支配人は叫んだ。”もっと簡単な方法はないのかぁ〜!”

 そこで受付嬢が一つの提案をする。”電卓を使えばもっと簡単で〜す”
 つまり、n番目のホテルのm号室から来た客は、2ᵐ×3ⁿの部屋に入ればいい。どの部屋もダブる事はない。

 支配人はまだ不満そうだ。
 ”その方法だと、膨大な数の空き部屋が出来てしまう。10、15、12の様な番号の部屋は、2ᵐ×3ⁿの様に表せないので、空き室のままだ。もっといいアイデアはないのかぁ”


 ある掃除夫がポツリと呟いた。
 ”格子状の表を作ればいいでの〜”
 理屈はこうだ。
 やって来た客が元いた部屋の番号を”行”に、元いたホテルの番号を”列”に入れた表を作る。
 m行n列の項目はホテルnのm号室にいた客だ。こうして全ての格子を埋めていく。
 (1,1)の客は1号室に、(1,2)の客は2号室に、(2,2)の客は3号室に、(2,1)の客は4号室に。これで最初の2×2の格子が埋まる。
 次は3×3の区画だ。(1,3)の客は5号室に、(2,3)の客は6号室に、(3,3)の客は7号室に、(3,2)の客は8号室に、(3,1)の客は9号室に。これで、3×3の区画が埋まる。後は同様に、m×nの区画まで埋めていく。 
 故に、ホテルnのm号室にいた客が、全て無駄なく効率よく割り振られるという訳だ。

 支配人は大喜びした。”ヨーシ!これで空き室は一つも出ない”

 つまり、ホテルnのm号室から客が来た場合、m≧nであれば、”(m−1)²+n”号室の鍵を貰い、逆にm≦nであれば、”(n−1)²+m”号室の鍵を貰えばいい。数学的な堅くイヤな言い方をすればですが(笑)。
 つまり、集合論で無限集合を認めると、有限集合の場合と全く違った奇妙な事態が起こる事を示すパラドックスの例で、前述のヒルベルトによって示された。
 これは論理的•数学的には正しいが、直観に反するという意味ですね。

 リーマンと並ぶ、19世紀最高の数学者の一人ゲオルク•カントール(1845-1918)は、”無限個”という概念を1次元の数直線上ではなく、格子という2次元の平面で考えたんです。
 ”カントールの対角線論法”も参照です。
 という事で、無限大ホテルの支配人がヒルベルトで、掃除夫がカントールという事で、これにてジ・エンドです。



6 コメント

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ヒルベルトという人 (paulkuroneko)
2019-09-10 11:37:39
無限大ホテルのパラドックスですね。

集合論に無限集合を認め、集合論を確立したのはカントールでした。つまりヒルベルトは軽い気持ちでカントールを皮肉ったんでしょうか。

でもそのヒルベルトはフォンノイマンを世に送り出しました。洒落も超天才が語ると次元が違う?
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映画「ホテル無限大」 (象が転んだ)
2019-09-10 15:58:37
実はこのパラドクスは、J•D•バロウの本で初めて知りました。読んでる内にカントールの対角線論法と瓜二つだったので、さっそく記事にしました。

自分でも納得の行く出来ですが。

このホテル無限大は、芝居としてミラノで上演されてんですね。まるで映画に出来そうな脚本ですもん。
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パラダクス (HooRoo)
2019-09-11 05:38:32
これって集合論のオチなのね〜
でもウマク書けてるよ。映画に出来るくらいにウマク出来てる。

最後の掃除夫の一言がイイな。この掃除夫がカントールなんでしょ?(@_@)
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お褒め頂いて(^_^) (象が転んだ)
2019-09-11 07:14:36
でもどうも長くなりますな

何とか千字以内にはと思ってたんですが。これで1500字。有名な傑作ネタだっただけに、もう少し短くしたかったな。

でも、2回目にしては悪くないか。

という事で、お褒め頂いて励みになりま〜す(^^)
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原作/カントール (hitman)
2019-09-11 13:07:17
これ映画にしたら面白そう。

でも部屋が無限にあるので、無限の客が来ても問題はないと思ったんですが。
カントール読みましたよ、カントール。

無限にもピンキリあるんですねえ。シシ知らなかった。

原作/カントール、脚本/転んだ、出演/カントール&転んださんで、どーだぁ〜(?_?)
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編集/制作/ヒルベルト (象が転んだ)
2019-09-11 17:44:29
カントールは無限個という概念を数直線上ではなく、格子という2次元の平面で考えたんですね。まさにアッパレです。

カントールからすればパラドクスでもないんですけどね。
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