結婚を別にして、人間は、男と女の
関係が始まったらあとは別れがある
だけだ。これは体験的要素。
問題は、別れがはやい時期におとず
れるか、あるいは少しでも先にひき
のばせるかだけ。
恋の初期があれだけ甘美でめくるめ
くような興奮で満たされるのは、つ
ねにどこかに、いつかこの恋で終わ
ることを恐れる気持ちがかならずか
くされているからである。
あなたは、『空虚』と『傷心』と、ど
ちらをとる?」
私は、「なにがなんでも
『傷心』に決まっている」と飛びつけ
ないのだ。
若いときの傷のなおりははやい。傷口
はすぐにふさがり、傷あとさえ残らない。
肉体的にもそうだ。ヤケドなどしても、
二~三日で消えてしまう。
ところが年をかさねるにつれて、傷は
なおりにくくなり、傷あともなかなか
消えない。へたをすると、傷口は永久
に残ってしまうこともある。
しかし冷静になって考えると、男と女
の関係、いいではないか。別れもまた
いいではないか。大事なのはどのよう
な別れをするか、その別れの質なのだ
から。
せめて、いい別れ方のできる恋愛であ
るよう、と心をくだくべきであって、
ティーンエイジャーのように尻込みす
るときではない。
いまは五月である。庭を吹く風に透明度
がくわわり、雨の日はひんやりと冷たい。
それにしても妙にさびしいものだ。