学生時代の思い出話。ろう学生の友人から、「スキーに行こう」と誘われた。
俺以外、全員ろう者。
スキー場でも、宿泊した民宿でも、いろいろあった・・・
それらは、過去のブログに書いた。
帰りは夜行バス。
夜、出発して、眠っている間に地元に帰ってくる算段である。
スキーも楽しんだし、夜は寝る間も惜しんで仲間たちと話していたから、疲れていた。
バスが発車した。
さあ寝よう、と思ったその時、なぜか、バスの中で映画が始まった。しかも、アダルト映画・・・
眠気がぶっとんだ。
ドキドキして見ていると、背中を突かれた。
振り返ると、聾の友人たちがニヤニヤしている。
「たいし、通訳してくれ」
は?
「俺たち、聞こえないから、台詞がわからない。通訳頼む」
色っぽい、大人のシーンである。
通訳するような、会話もない。
あのなあ、こんなん、通訳できるわけないやろ。
「何言ってるんだ! たいしは手話を学んで、聴覚障害者の情報保障のために活動してるんやろ? 一般の乗客は映画を楽しんでいる。ろう者だけ楽しめないなんて、差別やんか。情報保障、よろしく!」
じゃがまし!!
相手にするのが馬鹿馬鹿しくなった。
後ろで仲間たちがゲラゲラ笑っている。何が情報保障じゃ。最初からからかうつもりなんやろ。
アホらしくなって、眠ることにした。
しかし・・・
なぜか、真面目に考え始めた。
ろう者って、映画を楽しむこと、できるんか?
(当時、字幕がついているのは洋画だけだった)
確かに、一部、邦画でも字幕が付いている。でも、「文部省推薦」なんて、硬い内容のものしかない。
(今ではDVDなどでアニメなど様々なジャンルのものが字幕付きで楽しめるが、当時は全くなかった)
おかしい。
何かが、おかしい。
役所が「これは良い内容だから字幕をつけました。どうぞ、見てください」なんてのは、発想の根本が間違っているのではないか。
仮にくだらない内容だとしても、ろう者が見たいと思う映画に字幕をつけるべきではないか。
真面目な議論がしたくなり、振り返ると、全員、眠っている。
なんじゃ、こいつら・・・
あの時感じた違和感は、今でもある。
手話通訳者派遣制度だって、そうだ。
手話通訳者を派遣してもらえるのは病院、学校、公的施設など。
つまり、役所が、「ろう者はここに行ってもよい。それ以外はダメ」と決めていることになる。
こんなのは、人権侵害と言ってよい。
高松市の裁判の影響で、手話通訳者を派遣できる行先も内容も、ずいぶん広くなった。
喜ばしいことである。