手話通訳者のブログ

田舎の登録手話通訳者のブログです。

ヤングたいし/手話通訳ボランティアの貴重な経験

2014-12-27 23:57:58 | 日記
むかし昔そのまた昔の学生時代に、手話を学び始めた。
しかし、当時は今とは違い、手話を教えてくれる人がいなかったし、手話サークルが珍しい時代だったから、ろう者に会うことさえ、難しかった。

ろう者と話ができなければ、手話を学ぶ意味はない。

よし、自分自身を、手話世界に放り込んでしまおう。そう考えて、「手話通訳ボランティア」を始めた。
手話通訳ボランティアは、資格ではない。役所に登録すれば、誰でもなれた。

今では「聴覚障害者○○大会」とか、「デフ××」なんてイベントがたくさんあるけど、当時は「身体障害者」という一括りだった。そのため、ろう者だけではなく、地元の身体障害者の方々と出会うことができた。

ある日、身体障害者団体の会議に手話通訳に行った。
終了後、帰ろうとしていると、突然、地元盲人会の会長さんから声をかけられて、驚いた。

「たいしさん、こんにちは」
あ・・・Yさん、こんにちは。お疲れ様です。
「たいしさんこそ、手話通訳お疲れ様」
あの・・・私の名前、どうしてご存じなんですか?
「たいしさんは、有名人だからね」
有名人???
「ははは。まあ、半分冗談だけどね」
・・・
「僕ら盲人は、一度聞いた声は忘れない。3か月ぐらい前だったかなあ、たいしさんの声を初めて聞いたのは」
私たち手話通訳者は黒子役です。名前は出さないのが原則です。声を聞いたとしても、どうして名前を・・・
「だから、たいしさんは有名なんだよ、ある意味。手話通訳者は女性ばかり。男性だというだけで目立つ。しかも、こんなに若い男性なら、自然に注目されるんだよ」
あ、なるほど・・・
「たいしさんは頑固でしょう?」
えっ・・・ま、まあ、そうですね・・・
「手話通訳者であるたいしさんなら知ってるだろうけど、ろう者の視線は鋭いでしょう? 同じように、僕ら盲人の耳は、晴眼者には想像がつかないぐらい優れている」
声を聞いて性格までわかるんですか?
「わかるよ。それぐらい、耳を、聞く能力を鍛えていなければ、盲人は社会の中で生きていくことができない」
・・・
「たいしさんの声を初めて聞いた時から、話してみたいと思っていたんだ。“頑固”と言えば失礼かもしれないが、若者には似つかわしくない“信念”のようなものを感じたからね」
なにか、ちょっと、怖い感じがします。心を覗かれているようで・・・
「その通りだよ」Yさんは笑った。「僕ら盲人がいる場所で読み取り通訳をする時は、覚悟しておくことだ」


随分長い時間話をしていた。
途中は忘れてしまったが、帰りがけのYさんの言葉は、心に焼きついた。


「障害の受容、って言葉、知っているでしょう? かつて見えていた人間が見えなくなる。この恐怖や絶望は言葉に表せないほどのものだ。でもね、“見えない”自分を受け入れることができた時、気が付くんだよ。見えなくなったことで、見えるようになったものがあるってことをね。見えるようになったもの、それは、人の心だ」



かっこいいなあ、と思った。