言葉のかけら

エルヴィスのレパートリーを日本人の視点から読み取る訳詞プロジェクト「言葉のかけら」

かけら補足資料「I Just Can't Help Believin'」

2020-04-13 20:00:00 | かけら補足資料
【 smiles up soft and gentle 】
ライブでは「特別に好きな歌でもないけれど」と紹介したりして「I Just Can't Help Believin'」を歌うエルヴィスは、その言葉とは裏腹に非常に楽しそうです。1970年7月29日のリハーサル(→)も、嫌いな歌を歌う姿ではありません。
まあ、これは推測に過ぎませんが「エルヴィスが歌うのだから」と、ソングライターや著作権管理者から版権の一部を譲り受けようとした会社の「古い体質」がエルヴィスを苦しめ、歌いたい歌が歌えない時期を過ごしていた中で、1970年6月に発表された最新ヒット曲「I Just Can't Help Believin' (B.J.Thomas)」(YouTube)を歌えることになった「喜び」が、この笑顔になっていたのではないかと思うのです。

【 when she's whisperin' her magic 】
FTD Book「Writing For The King」p.276-277には作者「Barry Mann & Cynthia Weil」のコメントが載せられています。
「バリー・マンとシンシア・ワイル」の作品でエルヴィスが歌ったのは、「I Just Can't Help Believin'」と「You've Lost That Lovin' Feelin'」の2曲でしたが、シンシアの証言に

  「I Just Can't Help Believin'」は
  我々の作品としては珍しく詞先で作られた歌である

とあり、夫バリーが褒めるジェリー・ゴフィン作品に影響を受けて生まれた歌詞だと書かれていました。
そしてシンシアは「エルヴィスの解釈であれば、"great"になる自らの作品」として「We Gotta Get Out Of This Place (YouTube:The Animals)」を挙げており、 バリーは、「Only In America (YouTube:Jay & The Americans)」を挙げていました。
エルヴィスのファンからすると、この2曲は「微妙」な気がするんですけど、閲覧者の皆さんはどのように感じるでしょうか。

【 feels so small and helpless 】
日々是」で、エンディング部分に施された「Off-On」のアレンジを絶賛してみたものの、エルヴィス・バージョンよりも早くこのアレンジが発表されていたのではないかと、ちょいと心配になって YouTubeを探ってみましたが・・・
   Barry Mann (作者のオリジナル 1968)
   Bobby Vee (1969)
   Leonard Nimoy (スター・トレック スポック役 1969)
   B.J.Thomas (June 1970)
やはり「Off-On」アレンジは、おそらく「Suspicious Minds」のアレンジから来たものではなかったのかと

【 for more than just a day 】
5CD「Walk A Mile In My Shoes - The Essential 70's Masters」の日本語解説書が何と言おうと 映画「That's The Way It Is」のライブ・レコーディングは基本的に、1970年8月の10日OS、11日DS&MS、12日DS&MS、13日DSの6公演分が残されたものと考えられ、12日MS以外の5公演で「I Just Can't Help Believin'」が歌われたようです。

≪8月10日OS≫ (YouTube)
歌い出してすぐに「touch of misty morning」と歌い間違えたりしますが、 この歌がライブで歌われたのが初めてだったのに 「Off-On」アレンジでは、「for more than just a day」の再開時に 観客の拍手が、アレンジを評価した「絶好のタイミング」で聞かれます。
≪8月11日DS≫ (YouTube)
LPバージョンでは、歌の出だしに拍手がオーバーダブされ、 映画バージョンではエンディングに銅鑼(ドラ)の音が聞こえたりしますが 「Off-On」アレンジのポイントでは、拍手が聞こえません。 じっくりと聞こうとする観客が多いショーだったのでしょうか。
≪8月11日MS≫
「Off-On」アレンジのポイントで、観客が歌の終わりと勘違いしたのか、 拍手が早めに始まってしまいます。 歌をよく聞いていない誰か、エルヴィスの様子をしっかりと見ていない誰かに 誘導されたかのように拍手が増えていく、残念な感じがします。
≪8月12日DS≫ (YouTube)
上のYouTubeの音声は8CD+2DVD「That's The Way It Is - Deluxe Edition」を使用したと思うのですが 39秒目のエルヴィスの指示(louder)に従って??、オーケストラの音量を多めにミックスしたようです。 「Off-On」の後にエルヴィスが「for more than just a day」と歌いますが その後は歌わずにすぐにコーラスに指示をしてエンディングを迎えます。
≪8月13日DS≫ (YouTube)
12日MSで「I Just Can't Help Believin'」を歌わずに終わった後、 13日DSではとうとう「Off-On」アレンジが無くなってしまいました。 これは観客の拍手のタイミングが安定しなかったことを受けて 「Off-On」をやめてしまったのか? 映画の収録中に「アレンジ違い」を残そうとしたのか? ・・・これで「Off-On」アレンジは終わってしまったのでしょうか??
≪その後の「I Just Can't Help Believin'」≫
2020年4月現在に私がチェックできるライブバージョンを調べてみましたら 1970年8月14日以降(70年夏の続き、71年2月、71年-9月、73年8月)のすべてで 「Off-On」アレンジが付けられていました。 久々にリクエストに応える形で歌われた「76年12月2日OS」バージョンは 間奏の部分でエルヴィスが歌い続けたりしまして 唯一この時に「Off-On」アレンジが付けられなかったのは 統計に含めなくても良いでしょう。

この調査の結果、やはり1970年8月10日~13日に見られたアレンジの変遷は、映画の撮影が意識にあった結果ではなかったのかと。

    50年目の調査は今後も続く

5CD「Walk A Mile In My Shoes - The Essential 70's Masters」

8CD+2DVD「That's The Way It Is - Deluxe Edition」



「言葉のかけら」ページ

【 関連ページ 】
次回の「かけら」は、「君を信じたい (I Just Can't Help Believin')」
「君を信じたい (I Just Can't Help Believin')」 : 余分な解説

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3 コメント

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余分な話 第1回 (バークレー)
2020-04-23 23:06:22
LP「That's The Way It Is」の「かけら化」が始まったところですから
このアルバムのタイトルについてちょこっと。

「That's The Way It Is」の言葉を聞いたときに
ある年齢層よりも上のアメリカ人は
「CBSイブニングニュース」のアンカーマンを務めたウォルター・クロンカイトが
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%88
ニュースの締めくくりに

  「And that's the way it is.(では、今日はこんなところです)」

とコメントしたのを思い出すのではないでしょうか。

1970年の映画「エルヴィス・オン・ステージ (That's The Way It Is)」は
冒頭に「That's The Way It Is」のタイトルが表示され
「好きにならずにいられない」を歌い終わったエルヴィスが
カメラに向かって手を上げた後に表示されるのは「That's The Way It Was」でした。
本来であれば最後に「That's The Way It Is」と表示したかったのかなと。

邦題に「オン・ステージ」とあるので「遅れてきたファン」の私は
エルヴィスを聞き始めた当初、情報がごっちゃになってしまったのですが
LP「On Stage」に収録されたのは主に1970年2月の録音でした。

2018年発表のFTD「Off-On Stage」に収録されたのは
LP「On Stage」から漏れた("Off" の)録音曲でした。

映画「That's The Way It Is」には、舞台上(オン・ステージ)の楽曲だけでなく
リハーサルの場面(オフ・ステージ)が多用されたのですから
邦題を「エルヴィス・オフ&オン・ステージ」とした方が
原題の意味を汲み取った題名になっていたのかと思います。

まあ、ここまで書くと「考えオチ」的なとこにたどり着き、
私が「I Just Can't Help Believin'」に加えられたアレンジを
「Off-On」と呼んでいた理由がわかってもらえると思うのです。

【 余分な話の余分な話 】
1927年の映画「ジャズ・シンガー」の台詞に
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%BC
「Wait a minute, wait a minute. You ain't heard nothin' yet!」があって
「待ってくれ、お楽しみはこれからだ!」 との意訳が有名になりましたが
ジム・バークレー的に映画「That's The Way It Is」の意訳を許されるなら・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
       「That's The Way It Is」 = そんなわけで

と、眠るカエル付きの邦題になります
返信する
余分な話 第2回 (バークレー)
2020-04-29 00:51:48
イギリスでは、1971年11月にシングルカットされたのに
アメリカでは見送られたのは
「B.J.Thomas」バージョンに対する「気遣い」だったのか?
それを見越して歌う前に、
すぐにはシングルカットしない契約でもあったのか?

・・・想像するばかりで「エヴィデンス」は、なにもありませんが
「Blue Hawaii」でビング・クロスビーを圧倒し
「My Way」でフランク・シナトラを圧倒したエルヴィスですから
1970年に「I Just Can't Help Believin'」をシングルカットしていたら
歌の後半で歌詞を間違えて「てへへ」となっていても
それなりのヒットは間違いなかったように思います。
返信する
余分な話 第3回 (バークレー)
2020-05-06 22:58:21
現在知られているエルヴィスのライブ・バージョンは

1970年夏 ラスベガス・インターナショナル・ホテル
1971年2月21日MS ラスベガス・インターナショナル・ホテル
1971年7月24日MS サハラ・ホテル
1971年夏(3回) ラスベガス・インターナショナル・ホテル
1973年8月12日MS ラスベガス・ヒルトン
1976年12月2日OS ラスベガス・ヒルトン

と、すべてホテル公演で歌われた記録が残っています。

単なる偶然なのか?、
今後これを書き換えるような情報が出てくるのか?、
それとも、ツアーに比べて客層が落ち着いていたので
「大人の落ち着いた歌」のように受け取っていたエルヴィスが
「I Just Can't Help Believin'」をホテル公演でのみ歌ったのか?
・・・気づいたからこその疑問が残りました。

【 余分な話の無駄な話 】
1973年から1976年までの3年間を壮大な「Off-On」の効果に
受け取るのは、私ぐらいなものでしょう
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