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ちまちま中間手続58

2025-04-12 21:03:06 | 仕事日記
弁理士近藤充紀のちまちま中間手続58

拒絶理由 進歩性
 引用文献1には、トリルテニウム・ドデカカルボニル等のルテニウム化合物と、ビス(1,3-ジフェニルホスフィノ)プロパン等の第4ホスフィン促進剤とを、テトラブチルホスホニウムブロマイド等の低融点の第4ホスホニウム塩基またはアンモニウム塩基に分散した触媒組成物の存在下に、1-オクテン等のオレフィンのヒドロホルミル化反応を、少なくとも7.5バール、少なくとも50℃で行う方法(特許請求の範囲、実施例91)、一酸化炭素対水素のモル比は5:1~1:5であること(第8頁左上欄第11~15行)が記載されている。
 本願発明は、低融点の第4ホスホニウム塩基またはアンモニウム塩基の融点が90℃未満と特定する点で、引用文献1に記載の方法と相違するが、引用文献1に記載の第4ホスホニウム塩基またはアンモニウム塩基は、ルテニウム化合物を分散させるための媒体の役割を果たすから、液体として安定なように融点が低いほど好ましいことは当業者が容易に想到し得たことである。
 また、引用文献1には、低融点の第4ホスホニウム塩基またはアンモニウム塩基のアニオンとして、テトラフルオロボレートも示唆されているから、これをアニオンとして採用することも当業者が容易に想到し得たことである。

意見書
 引用文献1には、溶融第四アンモニウムまたはリン塩中にルテニウム触媒を分散させ、促進剤の存在下に混合物を少なくとも50℃に加熱することによりアルコールおよびアルデヒドを製造する方法が開示されている。
 また、引用文献1では、その第3頁第9行~第9頁最終行において、ヒドロホルミル化反応がルテニウム触媒等の特定の触媒を用いてオレフィンからアルコールおよびアルデヒドを合成する方法であることが規定されている。
 しかしながら、例えば、東京化学同人の「化学大辞典」(第1版)では、ヒドロホルミル化反応について「オレフィンに一酸化炭素と水素を反応させ、もとのオレフィンよりも炭素数の一つ多い直鎖のアルデヒドを製造する方法をいう」と規定されている通り、引用文献1におけるアルコールの生成までをその範囲内とするヒドロホルミル化反応の定義は一般的な技術常識から逸脱したものである。ヒドロホルミル化反応は、アルデヒドを製造する反応であり、たとえ生成物が一定程度にアルコールを副生成物として含んでいたとしても、生成物の主成分はアルデヒドであるべきである。引用文献1の具体的な実施例を参照すると、実施例1には、アルコール類の収率が69.7%であるのに対して、アルデヒド類の収率はわずかに5.4%に止まっている。実施例3に至ってはアルデヒド類は得られていない。したがって、引用文献1に開示された反応は、本来、「ヒドロホルミル化反応を経た、アルコールおよびアルデヒドの製造方法」というべきものである。
 これに対して、本願発明は、その明細書の実施例に示す結果等から明らかなように、本来のヒドロホルミル化反応の定義に沿って、アルデヒド類のみを高転換率で得ることに成功している(例えば、実施例1では、1-ペンテンから99%の転換率で、ヘキサナール75%、2-メチルペンタナールを得ている)。
 また、引用文献1では、アルコール類を主成分とする結果のみに止まっており、いかにすればアルデヒドを高収率にて得ることができるかについては一切記載がなく示唆するような記載もない。
 したがって、引用文献1は本願発明の進歩性を否定する公知文献には該当せず、たとえ、引用文献1の開示内容を当業者が把握したとしても、それに基づいて本願発明のような高転換率でアルデヒドを得ることに想到することはできない。
 本願発明では、新請求項1に列挙されたようなアニオンを含む、90℃未満で液体である塩を用い、かつ、90℃未満で反応を行えば、副生成物をほとんど発生させることなく、首尾良くアルデヒドに転換することができることを見出し、本発明に至ったものである。新請求項1に列挙されたアニオンは引用文献1に具体的に列挙されたアニオンとは全く異なっており、引用文献1の塩では90℃未満において液体塩として用いることはできない。
 以下、90℃未満で液体である液体塩を用いた本願発明と、90℃未満の温度で固体である引用文献1との差異についてさらに詳細に説明する。
 引用文献1に記載された第4ホスホニウム塩は90℃未満の温度では固体であり、この固体の塩を分散させることによる触媒組成物の調製は室温で行われる。そして、調製された触媒組成物に一酸化炭素および水素が導入され、温度および圧力が180℃および82.7バールに増加させられて反応が行われる。したがって、引用文献1に記載された塩は固体であるので、90℃未満の温度ではルテニウム触媒の溶媒としては振る舞わない。
 これに対して、本願発明では、新請求項1に列挙されたようなアニオンを含む、90℃未満で液体である塩を用いており、これにより、本願では、反応開始前から反応終了時まで90℃未満の温度で液体として上記の第4アンモニウム等の塩を用いることができる。
 また、引用文献1の方法では、処理操作の点でも本願発明と比較して不利な点を有している。
 引用文献1では、反応が行われた後に、生成物(アルデヒドおよびアルコール)は、蒸留によって触媒混合物から分離される。副生成物は、生成物(次いで、従来の方法によって分離される)および触媒混合物(次いでリサイクルされる)の双方において見出され得る。触媒混合物は、蒸留のために加熱されるが、ここでの加熱によっても、場合によっては、生成物および触媒は分解し得る。
 これに対して、本発明では、反応終了後の反応媒体は冷却され、その結果、生成物、未反応反応体、副生成物を含有する有機相と、遷移金属化合物および液体塩からなる触媒媒体相との2相に分離する。このため、デカンテーションによってのみ両者を分離することができるので、操作途中で分解が生じることがなく、きれいな触媒媒体がリサイクルされ得、また、ヒドロホルミル化反応に起因する副生成物を含まない。触媒を含む液体塩媒体は、液体として回収される。これに対して、引用文献1の触媒混合物は、固体混合物であり、したがって、容易には抽出されない。
 引用文献1では、アンモニウムおよび/またはリン塩のアニオンとしてテトラフルオロボラートも挙げているが、引用文献1では、それを例証していない。さらに、例えば、テトラブチルリン・テトラフルオロボラートは、96~99℃の融点を有しており、これは、90℃より高い。
 本発明では、用いられる塩は、90℃以下の温度で液体であるように特定のアニオンを有するように選ばれる。

 以上に示すように、本願発明に関わるヒドロホルミル化は、第四級アンモニウム塩および/または第四級ホスホニウムの塩が溶媒として機能することおよび90℃未満で反応を行うことの双方がアルデヒドを選択的に生成させる上で重要であり、本願発明では、このような要件を達成すべく、特定のアニオンを有する塩を用いれば、首尾良くアルデヒドに転換されることを見出したものである。引用文献1には、このような示唆もなく、アルコールを主成分として生成させるものである。したがって、本願発明は進歩性を有している。

拒絶理由
36条6項2号

補正書提出

特許査定

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