弁理士近藤充紀のちまちま中間手続88
拒絶理由 新規性・進歩性
引用例3,4には、本願所定の構造を有する窒素酸化物の除去用物質及びその使用が記載されている(各引用例の特許請求の範囲等参照:なお引用例3について、本願請求項の記載はSnの存在を許容するものであること、並びに本願明細書の記載(特に実施例)からは、Snの有無によって効果に顕著な差異が生じるとは認められないことに十分留意されたい)。
また、窒素酸化物の除去用物質に貴金属を担持させて窒素酸化物を還元する技術や、加熱やパージ等種々の方法を用いて除去用物質から窒素酸化物を脱着させる技術も周知である(引用例5~7等参照)。
意見書
引用文献3には、スズ(テトラ-iso-プロポキシスズが溶液中において用いられる)を含むホランダイトタイプの複合酸化物が開示されている。一方、本願発明の請求項1の物質は、スズを含まない。引用文献3には、八面体中にスズを欠いているホランダイトタイプの複合酸化物をベースとする物質は全く開示されていないので、本願発明の請求項1は引用文献3に対して新規性を有している。
さらに、本願明細書の実施例13および14(それぞれ比較例を示す)には、それぞれ、小さい比表面積を有するホランダイトK-Sn-Znおよび大きい表面積を有するホランダイトK-Sn-Znに関する物質が記載されており、段落[0075]の表3には、八面体中にスズを含有する物質のほうが、八面体中にスズを含有しないホランダイトにより得られた物質よりもはるかに低いNOx吸着能につながることが示されている。
したがって、スズを含まないことにより得られるNOx吸着能についての効果は、スズを含む物質と比較して顕著な差異があることが明白であり、スズを含まない本願請求項1の発明は、引用文献3に対して進歩性を有している。
引用文献4には、NOxトラップとして用いられる組成物であって、担体と、マンガンおよび、アルカリまたはアルカリ土類から選択される少なくとも1種の元素をベースとする活性相とを含む組成物が開示されている。
引用文献4の開示内容は、引用文献2の開示内容に近く、上記の拒絶理由3についての説明の全部が、引用文献4についても当てはまる。特に、K2MnO8およびBaMnO3が、引用文献4においても開示されている(4頁1~3行)。引用文献4はまた、マンガンの含有量が、アルカリまたはアルカリ土類の含有量と同一であるかまたは近いことを開示している(5頁30~32行並びに10頁1~22行(実施例)が参照される;そこでは、MnおよびK/Ba/Naの含有量は同一である、すなわち、10原子%である)。
したがって、本願発明の請求項1の物質は引用文献4に記載された物質とは全く異なっている点で、本願発明の請求項1は引用文献4に対して新規性を有しており、また、引用文献4に対して進歩性を有している。
引用文献5および6には、NOxトラップとして用いられる組成物が開示されている。引用文献5および6には、双方共に、前記組成物が用いられる形態における構造のタイプは全く記載されていない。引用文献5および6には、MO6八面体が一緒に接続されて構造が孔路の形態であるOMS2×2、OMS2×3またはOMS3×3構造を有する組成物は開示されていない。また、引用文献5および6には、組成物の基本化学式について記載されておらず、これらの組成物が酸化物タイプのものであるかが全く開示されていない。また、これらの文献の組成物が酸化物タイプのものであることが開示されていないだけでなく、それらは、OMS2×2等以外の多くの他の構造の形態であり得る(これについては、特に、引用文献2および4のK2MnO8およびBaMnO3参照)。したがって、本願発明の請求項1は、引用文献5および6に対して新規性を有し、また進歩性も有している。
引用文献7には、排気ガスを精製する方法であって、マンガン酸化物活性化アルミナタイプの吸着剤を用いる方法が開示されている。引用文献7には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、遷移金属および第IIIAおよび第IVA族からの元素からなる群から選択される元素の吸着剤の存在については全く記載されていない。引用文献7にはまた、前記吸着剤が用いられる形態における構造のタイプについては全く記載されていない。したがって、本願発明の請求項1は、引用文献7に対して新規性を有し、また、進歩性を有している。
以上に説明したように、本願発明の請求項1は、引用文献3~7に対して新規性を有しており、また、進歩性を有している。また、請求項1が新規性および進歩性の登録要件を満たしているので、請求項1の従属項である請求項2~27も当然に新規性および進歩性を有している。
拒絶査定
引用例3の請求項等参酌すれば、引用例3記載の発明がSnを含むものに限定されないことは明らかである。
また、出願人は本願明細書【0075】の記載から、Snを含まないものが含むものに比して顕著な効果を奏する旨主張するが、(出願人が言うところの「顕著な差異」が具体的に如何なる事項を示すのかは不明ではあるが)例えば上記【0075】の実施例5と実施例14(比較例)とを対比すれば、少なくともTads=200~300℃の範囲では、スズを含むものの方が窒素酸化物の吸着に優れていることが明記されている上に、そもそも本願発明に含まれる実施例1~7各々の対比から導かれる差異を考慮すれば、Snの有無による差異が「顕著」であると認めることはできない(加えて、上記(理由1について)にも示したように、実施例で使用される以外の金属すべてがSnに比して「顕著な差異」を生じさせる根拠もない)。
したがって、本願発明が引用例3記載の発明に対して選択発明に相当するとは認めることはできない。
引用例4については、上記2)を参照。
したがって、上記拒絶理由通知書に記載した(理由3)及び(理由4,5)は、依然として解消していない。
なお、出願人は意見書において、添付書類2を掲示し、本願所定の構造を有するか否かを該添付書類2の記載に基づいて判断されていると解されるが、該添付書類2においてはその化学式が特定されており、仮に本願所定の構造を有するものが該化学式に限定されるのであれば、本願実施例における金属組成も該添付書類2記載の化学式を満たすものではないこと、並びに本願実施例を含む請求項記載の任意の金属に関して、該添付書類2記載の化学式を満たすものと同等の構造のものが存在し、それが実際に製造されたことが明細書中で何ら検証されていないことから、本願明細書は本願発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載されたものではないと認められる。
また、酸化物の結晶構造は構成元素の電荷バランスによって決定されるものと解されるところ、請求項における「重量%」の規定では、例えば同じアルカリ(土類)金属であってもその原子量の相違から、同一の「重量%」を満足しても結晶中の電荷バランスは大きく異なるものと解され、また本願明細書の記載では該「重量%」による規定の技術的根拠は何ら見いだせないので、該「重量%」の規定は、本願における課題解決のための手段を反映したものであると認めることはできない。
さらに、例えば実施例1において表1では「K1-Mn8」と表記されている一方、【0073】では該実施例を「Mn元素単位当たり1つのK+のみを含む物質」と表現しており、上記「K1-Mn8」なる記載を含む明細書中の金属組成に関する記載における数字の技術的意義を理解できない。