国語屋稼業の戯言

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中高生のための内田樹(さま) その38

2019-08-27 15:38:50 | 中高生のための内田樹(さま)
●ついに「東京大学」の問題に手を出すことにしました。

●解答例にご不満な方もいらっしゃるとは思いますが、「中高生のための内田樹」でございます。

 ある程度背伸びした中学生にも通じる解答例にした次第です。

●したがって、解説もあっさり目に





次の文章を読んで後の問いに答えなさい。

 ホーフスタッターはこう書いている。
 反知性主義は、思想に対して無条件の敵意をいだく人びとによって創作されたものではない。まったく逆である。教育ある者にとって、もっとも有効な敵は中途半端な教育を受けた者であるのと同様に、指折りの反知性主義者は通常、思想に深くかかわっている人びとであり、それもしばしば、陳腐な思想や認知されない思想にとり憑かれている。反知性主義に陥る危険のない知識人はほとんどいない。一方、ひたむきな知的情熱に欠ける反知識人もほとんどいない。
(リチャード・ホーフスタッター『アメリカの反知性主義』田村哲夫訳、強調は引用者)
 この指摘は私たちが日本における反知性主義について考察する場合でも、つねに念頭に置いておかなければならないものである。反知性主義を駆動しているのは、単なる怠惰や無知ではなく、ほとんどの場合「ひたむきな知的情熱」だからである。
 この言葉はロラン・バルトが「無知」について述べた卓見を思い出させる。バルトによれば、無知とは知識の欠如ではなく、知識に飽和されているせいで未知のものを受け容れることができなくなった状態を言う。実感として、よくわかる。「自分はそれについてはよく知らない」と涼しく認める人は「自説に固執する」ということがない。他人の言うことをとりあえず黙って聴く。聴いて「得心がいったか」「腑に落ちたか」「気持ちが片付いたか」どうかを自分の内側をみつめて判断する。ァそのような身体反応を以てさしあたり理非の判断に代えることができる人を私は「知性的な人」だとみなすことにしている。その人においては知性が活発に機能しているように私には思われる。そのような人たちは単に新たな知識や情報を加算しているのではなく、自分の知的な枠組みそのものをそのつど作り替えているからである。知性とはそういう知の自己刷新のことを言うのだろうと私は思っている。個人的な定義だが、しばらくこの仮説に基づいて話を進めたい。
(内田樹「日本の反知性主義者たちの肖像」)



問い 傍線部ア「そのような身体反応を以てさしあたり理非の判断に代えることができる人」(傍線部ア)とはどういう人のことか、説明せよ。








【分析・対応】現代文の解法レジュメ論述問題演習など参照のこと。

要素①そのような身体反応
  「指示語+身体」と、まあ、現代文的にはおいしいが難しい部分。身体の説明が難しい。こういうときは本文に身体表現が前方(指示語があるからね)にあるかをチェック。すると「腑に落ちたか」の「腑」がにくづきで身体の一部。ここを生かすと易しい答えができる。

要素②さしあたり
  「さしあたり」は「現在のところ」といった意味。なので、ここより前の範囲で(せめて同じ段落で)解答してねという意味とした。

要素③対比の視点
  この段落は「ロラン・バルトが『無知』について」書いた部分を前提としている段落。普通の無知ではないバルト独特の部分が良い。今回は「自説に固執する」を否定することで解答に二重性を与えた。
 (注)むろん、傍線部よりあとの「自分の知的な枠組みそのものをそのつど作り替えている」を使用してもかまわないが、段落の視点と字数的な扱いやすさで「自説に固執する」を使用している。

要素④直後の内容
  「知性的な人」と感じるような解答にすること。

要素⑤理非
  できれば言い換えたいところ






【解答例】
自説に固執することなく他人の意見を聞き、自分が腑に落ちたかを基準として正否を決めていく人。



※難しいと思った人は気にせずに本文→解答→【分析・対応】の順で読んで解答がどうできたかを理解しよう。

 解答の意味さえ分かればいい。なにせ東京大学の問題なのだから難しいのは当たり前。

 現代文が苦手な方はこちらの記事も参照してくだされ。



「日本の反知性主義者の肖像」の収められている『日本の反知性主義』の前書きも読んでおこう。
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