彼は、東京でも最も西に位置する市に生まれ育った。
その自然豊かな環境が、彼の優しさとおおらかさを育んだのかもしれない。
彼はいつもニコニコし、ゆったりと喋るのである。
しかし、昨日のケアマネ会議の後、二人で飲んだときの表情は、ふだんの彼と違っていた。
「三ヶ月か、もしかすると一ヶ月でツブれるかもしれない」
「でも、全然知らない人に、ウチのホームを任せてもうまくいくとは思わないし」
「仮に私がツブれても、若いスタッフが何かを感じ取ってくれればナ、と、思うんです」
彼はひどく思いつめた表情で、ポツリポツリと話した。
スタッフの協力関係が崩壊状態にある老人ホームと言うのは、実に陰惨なものである。
汚れたオムツのまま放置され、食事量も服薬もチェックされない。
そんな犯罪的な状況があらわれても、新人と能力の低いスタッフばかりではナスすべがなく、離職スパイラルに拍車がかかる。
彼は、その惨状をストップする役目を仰せつかった。
そこには恐らく「お人よしで人格者の彼なら断らないだろう」という判断もあったのだろう。
彼は引き受けたが、話を聞くと、充分な支援体制ができているとは思えなかった。
「死んじゃうよ、そんなふうに働かせられたら」
「さすがに、死ぬ前には辞めますよ」
家に帰って、ひとりでフトンに入ってみると、何だか悔しくて悲しくて仕方がなかった。
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その自然豊かな環境が、彼の優しさとおおらかさを育んだのかもしれない。
彼はいつもニコニコし、ゆったりと喋るのである。
しかし、昨日のケアマネ会議の後、二人で飲んだときの表情は、ふだんの彼と違っていた。
「三ヶ月か、もしかすると一ヶ月でツブれるかもしれない」
「でも、全然知らない人に、ウチのホームを任せてもうまくいくとは思わないし」
「仮に私がツブれても、若いスタッフが何かを感じ取ってくれればナ、と、思うんです」
彼はひどく思いつめた表情で、ポツリポツリと話した。
スタッフの協力関係が崩壊状態にある老人ホームと言うのは、実に陰惨なものである。
汚れたオムツのまま放置され、食事量も服薬もチェックされない。
そんな犯罪的な状況があらわれても、新人と能力の低いスタッフばかりではナスすべがなく、離職スパイラルに拍車がかかる。
彼は、その惨状をストップする役目を仰せつかった。
そこには恐らく「お人よしで人格者の彼なら断らないだろう」という判断もあったのだろう。
彼は引き受けたが、話を聞くと、充分な支援体制ができているとは思えなかった。
「死んじゃうよ、そんなふうに働かせられたら」
「さすがに、死ぬ前には辞めますよ」
家に帰って、ひとりでフトンに入ってみると、何だか悔しくて悲しくて仕方がなかった。
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