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金沢ミステリ倶楽部

金沢ミステリ倶楽部の公式ブログ。

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『追憶の夜』

2015年12月04日 07時09分00秒 | ミステリin金沢
『追憶の夜』 山上たつひこ マガジンハウス 2003
 23年前に起きた残虐な「児童誘拐殺人」。
 その日何があったのか?
  金沢の私立探偵の前に、新たな謎と思いもよらぬ真実が姿を現すハードボイルドミステリ。

 県立図書館の前庭(ぜんてい)は駐車(ちゅうしゃ)した車でいっぱいだった。歩いてきたのは正解である。
 それにしても、正面玄関の前が車で立錐(りっすい)の余地もないというのはいかがなものか。
 来館者は車のすき間を縫うように進まないと玄関ロビーに行きつけないのである。設計者が悪いのか、運営者が悪いのか。
 (p15)

 遠慮のない声が響いた。受付のカウンターで八十歳に近いかと思われる老人が職員の女性相手になにか喋(しゃべ)っていた。
 「……全集を読んだ」、「あれは読みやすかったが……のほうはもうひとつ」、とぎれとぎれに話が届いてくる。どうやら本をたくさん読破(どくは)したことを自慢しているらしい。
 かなりの大声で、図書館内においては"非常識"の領域(りょういき)に入る行為である。しかし、それをとがめるような視線は周囲にはない。職員も嫌な顔をせず相手になっている。それが事務的ではなく、感情のこもった応対であることに成瀬はちょっと感動した。
東京の図書館には絶対にないなごやかさだろう。
(p22)



漫画「がきデカ」で一世を風靡したやまがみたつひこさんのハードボイドミステリーです。金沢が舞台になっています。
山上さんは現在金沢に住んでおいでるそうです。
創作民話「浅野川夢譚かわうそと風鈴」も書かれたそうです。

『ボトルネック』

2015年12月02日 06時45分00秒 | ミステリin金沢
『ボトルネック』 米澤穂信 新潮社

東尋坊からバランスを崩して落ちた僕。気づくと見慣れた場所に。自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられる。ここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。

金沢駅の前は玄関口らしくきれいに整備され、歩道さえ磨き上げられたようだった。物心ついたころからやっていた駅前の整備工事はついこの間終わり、駅は奇妙な空間となっていた。
駅前広場を高く覆う、金属パイプの天蓋。そして、DNAのようにねじりあった柱が支える、木製の巨大な門。おそらく、観光客を出迎えるための門なのだろう。


他にも杜の里や金沢市役所、21世紀美術館とかも出て来ます。



「ボトルネックで金沢めぐり」という写真入りのサイトがあります。
http://www.geocities.jp/kindai_sybs/yone/bottleneck.html

『死のある風景』

2015年11月29日 07時20分00秒 | ミステリin金沢
『死のある風景』鮎川哲也 光風社 (『鮎川哲也長編小説全集第5巻』収録)
 結婚を控えた姉が突如失踪、遠く九州からの一報を受けて阿蘇へ赴いた妹美知子は、自殺者が姉であると確認するに至る。
 また、内灘海岸で婚約者と旅行中の看護婦が射殺体で発見されるが、兇器は上野駅の構内に。次第に両事件を包含する広汎な犯罪の構図が浮かび上がる。鬼貫警部が活躍する。

作者ノート 
本編の取材で金沢へ行ったときには名物のジブ料理なるものを食べてみたが、これがただ単に菜っ葉と里芋と魚肉などを煮て椀に盛ったというだけの、何ともわけの解らぬ代物であることに拍子抜けがした。口のおごった金沢人があんな愚にもつかぬものを自慢するわけもあるまいから、もしかすると、旅館でだされたこのジブは偽物(にせもの)だったのかもしれない。
 翌日は武家屋敷(ぶけやしき)の残る町や兼六園、香林坊(こうりんぼう)などを午前中に廻(めぐ)ってしまい、午後から七尾線で高松まで往(い)った。

 内灘では夕日が日本海に沈むところに行き遭って松井氏は大いに感激のていであった。だが私にしてみると『砂の城』の取材で鳥取を訪れたおりに日本海の日没を眺めていたから、内灘のそれを見たからとてべつにどうということもない。暮れなずむ砂原(すなはら)に立っているとしきりに街の灯が恋しくなってくる。私は名残(なごり)り惜しげに立っている同行者の袖(そで)をひっぱって金沢市内に戻ったのであった。
 これが世間一般の男性だとキャバレへ行ったり旅館に芸者を呼んだり(金があればの話だ)するところだろうが、前にもしるしたようにわれらそろって清潔だから、風呂に入り食事をすませてその日取材した事柄を整理し合ったのち、おやすみなさいで各自の部屋に引っ込んでしまう。
(p366)


画像は東京創元社版。

鮎川さんが金沢に取材に来られたということに感動しました。
治部煮は鴨の肉が正式なので、魚肉は偽物です。

『乱れからくり』

2015年11月25日 00時00分00秒 | ミステリin金沢
『乱れからくり』 泡坂妻夫 幻影城 1977
 海外旅行に行く直前、降ってきた隕石で社長は死亡する。
 その後社長の家族に起こる連続殺人事件。
 からくりづくしの本格ミステリ。 

「真棹(まさお)さん、逆立(さかだち)人形という名を聞いたことがありませんか?」
 「逆立人形――ありますわ」(略)
 「大野(おおの)弁吉(べんきち)――。からくり師なんですか?」
 舞子が興味深そうに聞いた。
 「というよりも、もっと広範(こうはん)な学問を身に付けた科学技術者でしょうね。(略)
 大野弁吉は金沢の人で、若くして長崎で蘭学(らんがく)を学んだことがあります。金沢の平賀源内とも言われて、四条流(しじょうりゅう)の絵や彫刻(ちょうこく)をよくし、木彫(きぼり)や竹細工、金細工(きんざいく)、焼物からガラス工芸、蒔絵(まきえ)などの作品が残っています。学識(がくしき)は医学、理化学を始め、薬学、天文、暦学(れきがく)、航海術(こうかいじゅつ)にも長(ちょう)じていたというんです」
(p198~199)




 金石の大野弁吉が出て来て、11章「斬れずの馬」では金石の大野弁吉記念館が舞台となり、銭屋五兵衛と大野弁吉について書かれます。
 ただ金沢には実際には「大野弁吉記念館」はありません。
 その代り「石川県金沢港大野からくり記念館」があります。
 そこではお茶運び人形のからくりを観られたり、エレキテルを体験できたりします。他にもからくりづくしで楽しめます。

『乱れからくり』は「おすすめミステリ」でも紹介しました。
http://red.ap.teacup.com/lovelib/26.html

『金沢W坂の殺人』

2015年11月24日 06時51分00秒 | ミステリin金沢
『金沢W坂の殺人』 吉村達也 光文社  1993
 現場はかの文豪・室生犀星が愛したW坂。
文字どおりW字形に折れ曲がった坂道で、深夜、4人の屈強な大学生が、同時刻、同一犯人により、別々の方法で殺された…。

 「(略)きみも」
 「W坂はここに描いた絵のとおり、ジグザグになった四つの直線から構成されている。Wという字が四本の直線からできているようにね」
 田丸は、自分が描いたスケッチを指さした。 
「この四つの部分に分かれるW字型の坂道に、高台(たかだい)のほうから順番に、レスリング部の学生、ボクシング部の学生、空手部の学生、そして陸上部の学生が殺されて倒れていた」
 「………」
 「しかもだ、レスリング部の学生は首を絞めて殺され、ボクシング部の学生は頭を鈍器(どんき)で殴られて死に、空手部の学生は青酸カリを飲まされて中毒死、そして陸上部の学生は頸動脈(けいどうみゃく)を鋭利(えいり)な刃物でスッパリ切られて出血多量により死亡していた」
 「……信じられませんね」
(p15)

 ちなみにW坂については五木寛之さんが『新金沢小景』の中で次のように書いています。

 桜橋のたもとから寺町台(てらまちだい)に通じるジグザグの坂。「W坂」という呼び名は旧制四高(きゅうせいしこう)の生徒たちによってつけられたといわれている。 
 正式な名を「石伐(いしきり)坂」という。
(p160)