途中でバラしたと残念がったが、手元に来てから「何か釣れてる!」と叫んだ。
上がったのは小型のガヤだった。
「なんだ」
千恵は二度がっかりしている。
「ガヤを馬鹿にするな。そいつはエゾメバルと言って煮魚にして旨い、メバルの仲間だ」
高志が注釈した。
「昔こればっかりしか釣れなくて、うんざりしたものね。釣れ出すとがやがや、がやがやで止ま
らない」
「棘棘だから注意してよ」
清子か言う。
言い終わらないうちに、今度は彼女にアタリだ。手元が何度も引かれて止まる。
「大物かな」
あやが自分のエサ付の手を止めて、海面下を窺う。
千恵も同じ言葉を反復して首を伸ばす。
獲物は水面下で黒い影を引いて、激しく横に走った。
「アブラコだ」
高志が断を下すように言った。
「これもサシミだね」
千恵が嬉しそうに笑う。
「いいポイントだ」
高志は言って、ゴロタ石を結えたアンカーを投げ入れた。高志がアンカーのロープを繰り出して
いる間に、千恵にまたアタリだ。