居間で無垢の楢(なら)材で作られた、大型の座卓の前で茶を淹れながら、その後の暮らし振りのことを
楽し気に話す。
昔風の広い空部屋のふす間の仕切りを払って、週に2回は手芸教室を開き、一日は先生を招いて
の書道教室、二日は油絵を描いている。
その他にも茶道の教室にも通っているというから、とても孤独で寂しい生活とは思えない。
「あやちゃんが来たら楽しくなるね。もちろん私に付き合わなくてもいいけれど、傍にいて一緒
に暮らしてくれるだけで、私は何倍も楽しくなる。
貴方は貴方で、ここで遣りたいことを遣ればいいのよ。若いんだからどんどんやればいいのよ。
貴方はそういう女なんだから」
彼女は何の気負いもなく、さらりと言う。
それがあやの心を落ち着かせた。
何だか優美と会うことが楽になった。
少なくとも拘りは持たずに話せそうだ。
永い冬の明けた札幌の街は、どこも陽の光が溢れている。
街路樹の柔らかな緑は溶け出して、街中に滲んでいく。大通公園の欅(けやき)と楡(にれ)は一際盛大にビルの
連なる辺りを染め上げる。
足下の花々も負けじと、色とりどりに波立つように広がっていく。
あやは忘れかけていた記憶の中を泳ぎながら、優美との待ち合わせの場所に向かった。
大通公園に面した、今風のホテルのロビーは、ここが北海道の中心都市であると同時に、一大観
光地であることを、気付かせてくれる造りだ。