伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

田舎暮らしの日々とガーデニング 時々ニャンコと

小説を発信中

  
  
  
  

  

ジャコシカ81

2018-10-28 19:17:34 | ジャコシカ・・・小説
 そんな状況の中で、わしは町に出かけてしまった。

 そしてあやは父と母を、同時に失うことになった。

 海を甘く見ていた訳ではない。

 ここは海からの風が屏風のように立ちはだかる崖と山にぶっかって、竜巻や突風になることが多

い。

 山から吹き下ろす風が海面で勢い付いて、逆巻くこともある。だから山の天気のように変わりや

すく危険な海なのだ。

 慣れた海で長年息の合った仕事をしてきた二人だが、それでも襲ってきた災厄を避けることはで

きなかった。

 町から戻ったら海であやが沖を見て、ちっちゃな棒杭のように立っていた。

 わしは磯舟を出したが、二人の乗った船はどこにも見えない。白波の立つ海には長くは留まれず、

危く転覆しそうになりながら、入江に吹き戻されてしまった。

 海は出かける時とは一変していて、魯漕ぎの磯舟で出られる状況ではなかった。

 やむなく上りの汽車に乗って漁協に駆けこんだ。

 ただちに警察と消防、海上保安庁などにも連絡がとられ、海からと陸からの捜索になった。

 入り組んだ海岸の捜索は難行し、結局は翌日波が収まってからの漁船による捜索で、夫婦は岩場

に打ち寄せられた状態で発見された。

 「鉄さんのせいだ。鉄さんのせいだ」

 泣き叫びながらわしに殴りかかり、武者ぶりついたあやの声は今でも耳の底に残っている。

 後で分かったことなのだが、あの子は眼の前で両親が海に呑みこまれるのを見ていたんだ。

 あの時からあの子のわしに対する心は、凍ったままなんだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする