伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

田舎暮らしの日々とガーデニング 時々ニャンコと

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ジャコシカ77

2018-10-11 19:11:28 | ジャコシカ・・・小説
強い不安を感じた。

 「やはり危険な女だった」 


 
10

 時が経つにつれ、この家の隅々までに眼が行き届き始める。

 最初の内は旅先の、宿の部屋を見る眼で見ていた。ほっと寛(くつろ)いではいるが、明日は出て行く場

所である。

 駅舎のベンチに腰を下ろした時の気分と、さして変わらなかった。

 眼に写るものは何の感慨もなく通り過ぎていく。入江の家も同じだった。

 ところが日を重ねるにつれて、自分との距離がなくなり、気が付けば全てが馴染み深く心地良い。

 板敷の居間も、錆や凹みが目立った眼鏡ストーブも、赤の湯沸し器も、その先に伸びる煙突も、

見ているだけで心安まる。

 木製の内側にトタンを張った流し台も、その脇の黒く光る井戸ポンプも、傷(いた)みはあるが清潔に磨

きこまれた茶箪笥も、今では皆ただの物ではない。

 どれもが一言声をかければ、応えてくれるほどに身近で自分を見ている。

 気が付けばこの家の中のものは完全であり、欠けたものは何もなく、余分なものもない。


 この部屋で燃えるストーブの音を聴きながら、網針を使い延縄の鈎を結んでいると、心は解(ほど)け時

間はゆるゆると流れていく。

 高志は何となく視線を上げて、周りを見渡した。
コメント
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