下道の主「吉備の前津屋」によって押し留められて、いくら呼んでも都へ帰らない吉備の「下道」に派遣していた虚空が、漸くにして帰ってきます。彼の口から当時の吉備の下道のあり様の報告を聞きます。虚空は、
“ある時、この「前津屋<サキツヤ>」は、小女(<オトメ>)を天皇として、一方、大女(<アネムスメ>)を自分とみなして、お互いに戦わします。書紀には『競令相闘<キソフテ アイアラソワシメ>』と説明しており、女相撲のようなものだと思うのですが、その闘争方法についての詳しい記述はありません。
この二人を相戦い競わして、もし、天皇と見なした大女が負けどもしたら、直ぐに、刀を抜いて、小女を殺します。
また、ある時は、小さい雄の鶏を天皇として、その毛を抜き、翼を切り取り、一方、大きな雄の鶏に鈴と鉄を着けて自分として闘わします。もしも毛の抜けた禿げ鶏が勝とうものなら、この時も、直ちに、その鶏も刀を抜いて切り殺してしまいます。”
と語ります。