BioDoxology

生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

リーダーシップとフォロアーシップ

2011-06-16 02:02:42 | 政治
 気づけば震災から3カ月たっている。「がんばれ東北」といったスローガンやACのCMを目にする頻度が減る一方、政治への批判は日に日に強まっている。やめると言いながらいつまで続投するのか示さない総理に、民主党内はおろか、閣僚からも早期退陣を促す意見が噴出。自民党からは「菅総理が辞めないと審議には応じない」とまで言われ、2次補正予算も、その財源となる特例公債法案も審議に入ることすらできない。この国会はどれだけのろまなのか。早く対策を打つのが国民のため、ひいてはどの党、どの政治家にとってもプラスになるはずなのに、それができていない。いったいなぜこのようになってしまったのだろうか。

 先日テレビ出演した仙石副官房長官が、「今の政治にはリーダーシップがない。しかしそれと同時に、リーダーを選んだ者たちのフォロアーシップも欠けている」と述べていた。これは、本人が実際行っていること(早期退陣の呼びかけ)は別として、すぐれた分析だと思う。

 まず、リーダーシップから考える。菅総理は震災当時から、決して昼寝をしているわけではなく、彼なりに頑張っているのはわかる。ただ、がんばりの方向が、「俺は原子力にはすごく強いんだ」と言って原発についての知識や情報を自身のもとに集めさせたり、東電に殴りこんで「撤退などあり得ない」「東電は確実につぶれます」と一喝したりと、どうもトップリーダーのやるべき事とはずれているように見える。総理大臣の仕事は、専門的な知識をもとに、ここの現場の判断に首を突っ込むことではなく、多数の現場からなる状況全体を、政府の手足たる省庁とともに把握して、人材・資金などの資源の最適な配分、さらには個々の現場の判断に任せきりでは実現しない公共性の強い決断を行うことではないだろうか。菅総理にそうした感覚が薄いのか、あるいは省庁との連携が政権交代以来ずっとうまくいっていないのか。そして辞意の表明とその後のあいまいな時期表明が求心力低下に拍車をかけた。事務次官級の官僚の官邸訪問頻度が激減している。これではリーダーの体がなせるはずがない。

 一方でフォロアーシップ。民主党員およびその議員は去年の代表選挙で菅氏を選んだのであり、また既に忘れ去られた感じさえ受けるが、あの不信任決議に対して反対票を入れたのである。菅総理を国会の本会議場という場で信任したのである。さっさと辞めろという権利があると言えるのか。もちろん、退陣を前提とした信任であるし、その後いつまで続けるかはっきりさせない総理の態度は裏切りに近い。だがそれを言うなら、あの議員たちはなぜ総理の魂胆を見抜けなかったのか(自分は完全に無知ゆえ見抜けなかった)。本当に能力を持っているリーダーを選び、選んだ以上はその者に従うといった組織行動の基本ができていないのではないか。国民新党の亀井静香氏の「切腹をしたがっている人に介錯を急ごうとする」といったたとえは言いえて妙だ。

 こんなことを言うと政治家がみな使い物にならない、ということになってしまう。しかし結局、損な政治家を選んだのは国民である。フォロアーシップの問題は我々に帰ってくる。政治家の責任を国民に押し付けるようなことをしているわけではないが、それでも諸外国と比べた時の支持率の乱高下ぶりは、国民の態度にも政治家同様の場当たり的な要素が強いことを示していると思われる。今の政治の混迷は全員に責任があると言えるだろう。

 そんな責任を感じてか、自分たちの選んだ相手を見限ってか、若手政治家は超党派で会合を開き始め、ボランティア団体や被災地の住民によるグループは行政の肩代わりに近いことをしている。地方自治体の職員、警察官、自衛隊といった現地の公務員の不眠不休に近い働きぶりも忘れてはいけない。こうした人々の中から次のリーダーが生まれるのかもしれない。そしてリーダーになれそうになれない自分は、せめてまともなフォロアーにならなければならない。人に任せてていい時代は本当に終わり始めている。

男性の顔

2011-06-14 00:42:58 | 雑記
 昭和の日本映画が好きなのだが、昔の日本人男優はとにかく顔が濃い。三船敏郎、勝新太郎、三國連太郎、菅原文太、高倉健、仲代達矢、千葉真一、北大路欣也など、存在感も脂汗もギンギンのおじさんたちが大スターだった。市川雷蔵、山村聡、石原裕次郎などの若手二枚目路線ももちろんいたが、やはり少数派。これが70年代に入ると、三浦友和や沢田賢二(ジュリー)等のアイドル路線俳優が出てきたが、彼らの当時の顔を見ると、やっぱり今より濃い。ついでに髪形は、今では見てもいられないようなロン毛パーマで本当に笑える。そして現在、映画やドラマで主役を張る40代の男優では、織田雄二、阿部寛、豊川悦司、渡辺謙など、やはり整った顔立ちの人が多い。例外は役所公司や、三國の息子・佐藤浩市くらいか。若手でも妻武木聡、松山ケンイチ、藤原達也といった人たちが活躍しているが、みなとてもさわやかな自然体といった感じ。向井理や佐藤健にいたっては、不快指数は三船の1万分の1くらいしかない。

 アメリカやヨーロッパなどでも、クリント・イーストウッド、ジャック・ニコルソン、スティーヴ・マックイーンなどのタフガイ路線から、マット・デイモン、ブラッド・ピット、トム・クルーズといったイケメン路線への動きがみられるが(ジョニー・デップは位置づけが不可能…)、日本の男優の顔立ちの変化はさらに激しい気がする。理由はわからないけれど。個人的には、昔からの濃くて暑苦しい顔のほうが好きで、若手では柳楽優弥くらい(縁あって実物を見たが本当に濃い)、あるいは伊勢谷友介のようなトンガってギラギラした人たちが好みだったりする。家族には時代錯誤といわれている。

 政治家も似ている気がする。戦後第一世代の吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山、池田隼人、岸信介、田中角栄などは、昔ながらのこってりしたワイシャツと背広を身につけ、いかにも政治家といった、裏のありそうな、老獪な雰囲気が強い。ハト派の佐藤栄作、派閥嫌いの福田赳夫といった人々が少し柔和そうだ。これが80年代になると、ニューリーダーと言われた竹下登、阿部晋太郎、宮沢喜一や、社会党の村山富市など、人のよさそうなあっさりとした雰囲気になる。さらにその後の細川護熙、小泉純一郎、谷垣禎一、石原伸晃、そして特に民主党の菅直人、鳩山由紀夫、枝野幸男(この二人、下の名前の読み方は同じなのか)、前原誠司、玄葉光一郎などは、もはや一般のサラリーマンよりもさわやかでクリーンな印象になっている。昔ながらのイメージを保っているのは、森喜朗、小沢一郎、亀井静香、中川秀直あたりのベテランだ。政治家も選挙で選ばれている以上、ルックスはご時世を反映する部分があるはずで、いかにもやり手といった顔より、国民目線、クリーンといった顔が人気となっているようだ。

 政治家の顔の変化は世界でも共通な気がする。チャーチル、ルーズベルト、ドゴールといった戦後初期のリーダーより、おそらくケネディの人気と、その後のニクソンへの不信あたりを境として、カーター、メージャー、ゴルバチョフなど徐々にクリーンな印象が増してきているように見える。現在のオバマ、キャメロン、サルコジ(こいつは微妙か)など、その差は歴然だ(実際やっていることは別としてね)。

 日本に戻ると、好みの男性のタイプが変わってきている、とはよく言われるが、それを痛感したのが先日の帰りの電車内。近くにいた女子大生2人が男性のタイプの話になり、一人が「ドMで料理好きな男」と言い出した。もう一人が「そんな頼りなさそうな男でいいの?」と聞いたところ、「私、男に頼る気ないから」。参りました。もう、何も言えません。

デジタルフロッグ

2011-06-12 01:49:11 | 生物
 これまで、自分は大学での解剖のために4回、動物を殺している。ふ化前のヒヨコを2回、マウスを1回、ウシガエルを1回。数週間後にはアメリカザリガニも殺すことになる。生物学の道に進む者にとって解剖は避けられない道だ。ところが…

 アメリカの動物福祉研究所(Animal Welfare Institute)が、カリフォルニア州の一部の学校で、カエルの解剖を廃止し、コンピューターソフト「デジタルフロッグ(Digital Frog 2.5)」で代用すると発表した。動物福祉、雌の使用に伴う危険の回避、学校のコスト削減といった事情があり、アメリカでは生体解剖への逆風が強いそうである。

 解剖を廃止した学校の校長は「実際の動物の解剖とは違うが、生徒が失うものはない」と語っているという。文系の同級生に「今度カエルを解剖するぞ」と話したときも、「俺たちはそんなことのために授業料払ってない」といわれた。しかし、自分の経験からいえば、解剖を行わないで失うものは大きいと思う。

 まずソフトでは、解剖をしたときの手の感触が得られない。このデジタルフロッグは製造元の会社のホームページで一部映像が見られるのだが(digital frogと検索すると出てくる)、メスでの切断はマウスのドラッグ&ドロップだ。これでは、小動物の骨がとてももろいこと、表面の皮膚がまるで果物のようにはがれることなど、全く知る機会がない。また、動物のにおいもわからない。マウスにはマウス、カエルにはカエルのにおいがあり、また麻酔薬やホルマリンのにおいを知ることもない。そして、生物の体が教科書で習うほど単純ではない、ということにも気づけなくなる。実物の消化器系や神経系などは、一度体外に出すと、複雑に入り組んでいるうえ、無数の膜・血管・繊維・脂肪などがまとわりついていて、見た目はぐちゃぐちゃ、器官の判別も大変である。しかし、体に収まっているときは、まるで芸術作品のようにきれいに整えられている。人間が理解できる世界なんて小さいのだと、本物の生物の体は教えてくれる。

 動物福祉や生命倫理の問題に踏み込むと大変だが、自分なりの答えとして、解剖した生物は徹底的に、出来るだけの時間をかけて隅々まで観察するようにしている。観察を求められる部位が内臓と中枢神経だけだとしても、足の先や眼まですべて調べ上げることを心掛ける。せめてもの供養ではないけれど。そうして得られる物はとても大きい。カエルの眼のレンズがビー玉のような球形で、薄い膜が玉ねぎのように重なってできていること、足の坐骨神経が枝分かれして個々の筋肉にしっかりつながっていることなど、まるで(たとえが不適切かもしれないが)おもちゃ箱のよう。教科書に書かれていないことをこれだけ自分の目で見つけられる機会はほかにそうない。コストがかかるのはわかる。それならせめて、コンピューター教材を全生徒に使わせるのに加えて、グループに1体でも実物を与えるくらいのことはしてほしい。コンピューター教材では、講義に不要な部分まで再現はしてくれないだろう。それは、かえって生物を軽く見ることにならないか。実物を目の当たりにして向きあってこそ、真の生命倫理が得られるはずである。

映画の宣伝

2011-06-10 02:10:51 | 雑記
 ちょっと宣伝を。昨日の6月9日(木)から12日(日)まで、銀座シネパトスという映画館で「上意討ち 拝領妻始末」「切腹」という昭和の時代劇映画がリバイバル上映されている。この2作は、小林正樹という「人間の条件」シリーズなどを手掛けた巨匠監督の代表作で、特に「切腹」は日本映画の屈指の名作として評判が高い。あいにく自分が今週末忙しくて観にいけないので、お時間のある方はぜひ足を運んでいただきたい。スクリーンで古典映画を観られる機会は、そうありません。
 「上意討ち」は10:30、15:05、19:40に、「切腹」は12:40、17:15に上映予定。詳しくは劇場ホームページでも。

女王バチとロイヤルゼリー

2011-06-10 01:31:13 | 生物
 先日natureに、ミツバチが女王バチに成長するのに必要とされるロイヤルゼリーから、成長の原因となるタンパク質を発見したという論文が発表された。著者は富山県立大学の鎌倉正樹教授。久々の日本人、それも連盟ではなく1人というところがすごい。

 ロイヤルゼリーはミツバチの働きバチが分泌する物質で、将来女王バチになる幼虫のみがこれを摂取する。働きバチは卵巣が発達せず生殖能力がないのだが、女王バチは大きな卵巣を持ち、1日に3000個も卵をうみ、体が大きく寿命も長い。鎌倉教授はまず、さまざまな時間にわたって40度で加熱したロイヤルゼリーをミツバチの幼虫に与えたところ、加熱時間が長いほど、大型化・卵巣の肥大・成長期間の短縮といった女王バチの特徴が出にくくなることを発見し、ゼリーに含まれるタンパク質がカギを握っていると推測した。そしてロイヤルゼリー中のタンパク質を分離してそれぞれ幼虫に与えたところ、その1つであるロイヤラクチンというタンパク質を与えた時に、女王バチ同様の成長が確認された。

 さらに鎌倉教授は、このロイヤラクチンがどのように幼虫の体に作用するかを調べようと考え、いったんミツバチの代わりにミバエ(ハエの一種で、ウリミバエなどは青果類の害虫として有名)を実験対象とした。ミバエはさまざまな遺伝子型の個体がそろっているので、タンパク質が生体に与える影響を調べるのに適している。具体的には、正常な個体では発現しているタンパク質についての情報をもった遺伝子が欠けている個体が、個々の遺伝子ごとに何パターンも存在している。先日のマニュアルのたとえを用いれば、原本の特定のページがだめになっていて、そのページに対応するブロック作品が作れなくなっているという個体が、さまざまなページについて存在するというわけ。特定の遺伝子が欠け、それに対応するタンパク質を発現できないいくつものパターンの個体にロイヤラクチンを与えると、結果によってどの遺伝子・どのタンパク質がロイヤラクチンに関係しているかがわかってくるのだ。

 まず、正常なミバエの個体にロイヤルゼリーを与えると、女王バチと同じ特徴をもった「女王バエ」になった。そして、いろいろな個所の遺伝子が欠けた個体で試したところ、EGF受容体(受容体とは、細胞の表面にあって外から来る特定の物質と結合・反応し、細胞内に情報を伝える構造物)や、MAPKというタンパク質に関する遺伝子が欠けていた個体にロイヤラクチンを与えても効果が見られなかった。つまり、EGFやMAPKがロイヤラクチンによる生体反応に深く関係しているということがわかったのである。もともと、EGF受容体から出た情報がいくつかのタンパク質を伝わってMAPKに到達し、さらにMAPKが別のタンパク質に情報を伝える役割を果たしていることが分かっていた。よって、ロイヤラクチンがEGFに結合し、MAPKを含む情報伝達系統を刺激し、最終的には20E、および幼若ホルモンというタンパク質を分泌させ、卵巣の肥大、成長期間の短縮といった効果がもたらされる、と推定された。この推定が、結局ミツバチでも成り立ったという。

 このように、ロイヤルゼリーがミツバチの幼虫に与える効果は、単に栄養満点でぐんぐん育つ、といったレベルではなく、体の仕組みをタンパク質による刺激で変えていくという大がかりなものである。今回のように細胞内のタンパク質を介した情報伝達径路を明らかにするのは、推理ゲームを特養でとても難しい。細胞内ではこうした経路がおびただしく存在し、複雑に関係し合っている。実際、全容が明らかになっていない経路のほうが多いくらいだ。これほどの難業をやってのけた鎌倉教授は相当な方だと思う。

 それにしても、ミツバチとミバエで同じ結果が出たということは、両者の遺伝子がかなり似通っているということだろう。確かに見た目は似ているが、ミツバチは羽が4枚なのに対してミバエは2枚しかないなど、違いも多い。もっとも、ヒトの病気を調べるのにマウスが相当役立つなど、遺伝子は見かけ以上に種の間で共通していたりもする。ただ、さすがに人とミツバチとでは違いも大きいと思われるので、女性が乳幼児期からロイヤルゼリーを大量に食べ続けても「女王ビト」などになることはないだろう。一方で昔から滋養強壮に良いとされているので、何か効果的な作用を持つタンパク質があるのかもしれない。