BioDoxology

生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

映画(7) 「愛のむきだし」

2011-08-21 02:11:14 | 雑記
 2年前の夏休み、映画にはまり始めた自分が『DVDでーた』という雑誌を読んでいてふと目に留まったのが、中指を立てた満島ひかり(朝ドラの「おひさま」に出ている)の写真。別段思い入れのある役者でもなかったが、彼女の昔の出演作品「モスラ2」を知っているだけあって、「おおあのどうしようもない子役(笑)は今も頑張っているのか」と思った。見出しには「今年上半期、ひそかに最もすごかった映画は『愛のむきだし』だ!」というようなことが書いてあった。愛のむきだし?なんだかすごい名前だ。上映時間237分?安藤サクラなる人の演技がすさまじい?一気に気になってしまい、DVDをレンタルしてしまった。それまで観てきた映画の常識を覆された。

(以下、ネタバレを含みます)

 あらすじ:幼いころ母を亡くし、神父の父と二人で暮らす高校生ユウ(西島隆弘)。父テツ(渡部篤郎)は愛人のカオリ(渡辺真起子)に逃げられてからユウに意味もなく懺悔を迫るようになり、ユウは自ら罪を作るために女性の下着を盗撮するようになる。ある日、罰ゲームで女装をさせられていたユウはヨーコ(満島ひかり)という女子高生に出会い一目ぼれするが、ヨーコはユウを女性と思い込んで一目ぼれしてしまう。そして二人に、新興宗教・ゼロ協会の地方幹部コイケ(安藤サクラ)が近づき、二人の生活を崩壊させる。

 あらすじに書いただけでもバカとしか思えない話の展開。そして自主映画じゃないかと思ってしまうようなチープなカメラワークと演出。普通ならマニア好みのB級アイドル主演で作る80分程度のVシネマが関の山である。しかしこの映画は違う。下ネタ、レトロといったサブカルチャーを入れまくり、あらゆるB級要素をごちゃまぜにしていやというほど流し続け、勢いで237分押し通してしまう。正直あっという間の237分とは言えず、中盤で若干だれるところもあるが、しかし4時間にしては短い。これぞB級映画のだいご味。ありえない、普通なら相手にされないようなことがまかり通り、一般の映画にはないパワーを生み出す。この化学反応を起こすのに必須なのが、突出した役者の存在である。今作の安藤サクラが、まさにそれ。

 まずはほかの役者たちから見ていく。ユウ役の西島隆弘は映画初出演ということで、台詞回しはうまいとはいえず、一本調子で叫んでいるように聞こえてしまう部分もかなりある。しかし彼の持つ雰囲気が見事にユウとあっている。従順、幼稚、性欲なしといった草食系ががんばる青臭い感じが絶妙である。さらにAAAのメンバーだけあって盗撮アクションが華麗で、見ていて楽しめる。しかし、AAAのメンバーをこんな映画に出させるavexもすごい。ちなみに、ユウが女装をしていた時の格好は、あのB級バイオレンスの傑作「女囚701号 さそり」の梶芽衣子と同じである。だから「サソリ」というニックネームなのだ。一方の満島ひかり。やたらと絶賛の声が上がり、現にこれ以降仕事が増えたようで結構なことだが、今作の演技について言うとそこまで素晴らしいとは言えない気がする。「体当たり」といわれるが、当たり方にも良し悪しあるわけで、西島同様叫び方が一本調子だし、アクションもキレがない。サービスショットの多さは評価に含めるのか?まあ、最近知る限りの映画であれだけ○○○○した役者もいないが、ユウがあそこまで感激ほどすんごい○○○○かというと、どうなんでしょうか皆さん(笑)。ただ、いくつかのシーンで役とシンクロしたようないい表情が出ており、バスの中で「海がみたい」とつぶやくシーンは印象的。ダメな大人二人を演じた渡辺真紀子と渡部篤郎は見事な怪演で、特に渡部の堕落っぷりは壮絶である。海岸での異様なカーチェイスには正直参った。ある意味このシーンが一番「むきだし」かもしれない。

 そして、なんといっても安藤サクラ。これは本当に凄い。まず顔がすごい、というかえぐい(笑)。奥田瑛二と安藤和津の娘だが、両親のえぐいところを組み合わせたような風貌で、ある意味奇跡である。登場シーンからして圧倒的な存在感というか気色悪さ。舌が蛇のように伸びてきそうだが。まるで画面がヌメヌメしてくるようである。キャラ設定もマッチしていて、とにかく頭がよく回り、ずるがしこく、巧みな言葉で相手を丸め込んでいく。ユウとヨーコを巻き込んでいくそのあざとさが、ひたすらに不快で憎たらしく、降参だ。ふすまを開けてユウを除いてくる目、朝目覚めたユウの目の前にある顔。皆強烈で、西島や満島を完全に圧倒し食っている。白のテニスウェアという服装も、宗教っぽくてナイスである。

 話はあってないようなものだが、ユウ・ヨーコ・コイケの3人をつなぐものとして「愛の欠如」が見えてくると、なかなか深い映画にも見える。狂人にしか見えないコイケがユウとヨーコを執拗に付け狙う理由も純真なもので、気持ち悪いと言い続けてきたが、なかなか同情を感じずにもいられなくなる。ラストも拍子抜けするほどあっさりしていて、全体として「ゆがんだ純愛映画」とでもいえばいいのだろうか。園監督が結局何を言いたいのかよくわからなかったが、無難な話が多い昨今の日本映画界に、昭和の「よきバカ映画」の香りを取り戻させようとしているのかもしれない。

個人的評価:☆☆☆☆☆