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生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

映画5 「バットマン ビギンズ」

2011-07-18 10:42:56 | 映画
 実は「ダークナイト」を観たときには前作である「バットマン ビギンズ」を観ていなかったので、続編鑑賞後に観るというのも変な話だが、スターウォーズを観るような感覚で楽しめた。

 (以下、ネタバレを含みます)

 幼いころ両親を殺害され、復讐心にとらわれていた大富豪の息子ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)修業を積むにつれて正義に目覚め、故郷であるゴッサムに戻り、生涯使える執事アルフレッド(マイケル・ケイン)に助けられながら、闇の戦士バットマンとなって犯罪撲滅に身を投じていく過程を描いている。

 「ダークナイト」が重苦しい雰囲気なのに対し、「ビギンズ」はシリアスではありつつも温かみのあるドラマがみられる。アクションシーンもテンポよく進み、凄まじいというよりはかっこいいキレのあるシーンが中心なのでとても見やすい。特に、水蒸気に覆われた空をバットマンが飛行するシーンは素晴らしかった。アメリカのヒーロー映画の王道を行く感じである。主人公の位置づけも、もともと超人というわけではない、善悪の違いに悩む、彼女ができない(笑)といった21世紀型アメコミ映画(最たる例がスパイダーマン)のヒーローのイメージに沿ったものになっている。

 「ダークナイト」ではバットマンが半ば脇役にまわってしまっていたが、「ビギンズ」ではブルースがバットマンになる過程がとても念入りに描かれているので、クリスチャン・ベールの演技を堪能できる。やはり彼はうまい。復讐にとらわれた大学生時代の演技は、もちろんメイクの助けもあるのだろうが、精神の不安定な若者の空気がとてもよく出ていて、ゴッサムに戻ってからとはまるでキャラクターが違う。さすがオスカー俳優、ただのイケメンではない。

 一方、悪役の存在感は「ダークナイト」のジョーカーやトゥーフェイスに比べるとかなり薄い。今作では、ブルースに修行を貸す師でありながら、のちにゴッサムで敵対する「影の同盟」の首領ラーズ・アル・グール(リーアム・ニーソン)や、精神科医で厳格ガスを使用して市民を狂わせるスケアクロウ(キリアン・マーフィ)が登場する。しかし両社とも、何のために犯罪を行っているのかあいまいで、「ダークナイト」にみられた重みを感じない。ついでに「影の同盟」はただの忍者のコスプレにしか見えず笑ってしまう。偽のラーズ・アル・グールを渡辺謙が演じているが、この扱いはひどい(笑)。ベテランのニーソンは安定感抜群、マーフィはマイケル・ジャクソンのようなどこか不気味な表情が印象的だっただけに、もったいなかった。

 また、「ダークナイト」では物語中盤であっけなく爆殺されたレイチェルが今作では大きなウェイトを占めている。まず演じている役者が違う。「ダークナイト」ではオスカーにもノミネートされた経験を持つマギー・ギレンホールだったが、「ビギンズ」ではトム・クルーズの奥さんであるケイティー・ホームズ(最近NHKのBSで放送されたドラマ「ケネディ家の人びと」に出ていた)。似てなくはないが目の大きさが3倍くらい違う(笑)。別にどうでもいいが。

 このレイチェルとブルースの関係について文句が。ブルースはアルフレッドにも感づかれるほどレイチェルに気があるようで、女と遊んでいるところでレイチェルと鉢合わせすると取り乱し、真顔で「心の中ではもっと誠実だ」という。これは事実で、大富豪のブルースが夜に出歩かず、バットマンとして活動するだけでは行動が怪しまれる、というアルフレッドのアドバイスに従って遊んでいるだけなのである。しかしレイチェルが理解してくれるはずもなく、“It's not who you are underneath. It's what you do that defines you.”(字幕では「大切なのは心の思いを行動で示すこと」と訳された。名訳!)と言われてしまう。ちゃんと行動してるのに…。その後バットマンとなって、敵に襲われかけたレイチェルを救出した際、「本当の名前を教えてくれ」と言われたブルースは、“It's not who I am underneath, but what I do that defines me.”と言い返し、あっさり正体をばらしてしまう(日本のウルトラマンとはえらい違い)。レイチェルの気を引こうとする魂胆が見え見えである。

 後日、レイチェルもブルースのことを理解してくれたのか、「あなたが帰ってきてから私とあなたのことを考えていた」と言ってめでたくキスまでたどり着く。しかし、直後に「あなたの本当の姿は悪人を震え上がらせる」「私が愛したあなたはもういない」「ゴッサムがバットマンを必要としなくなったらそのあなたにまた会えるかもしれない」と面倒な理屈をこねて、ブルースを振ってしまう。振るつもりならキスなどするな。詐欺だろ。でも振られた直後のブルースの「…まじかよ」といった不満顔が秀逸なので許す(笑)。さすがベール。ところが次のカットで2人は手をつないでいる。もう理解不能だ。男女の世界は自分にはわかりません。

 個人的評価:☆☆☆☆