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Tedのつゆ草の旅

母校関西学院ラグビー部とアメリカンフットボール部の試合を中心に書いているブログです。

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2012-12-18 20:43:34 | ブログ

 またしても勝利の女神に突き放された。自分たちに非があることは承知している。けれども、この黒星が意味する現実はあまりにも無情だ。大学選手権セカンドステージ第2戦、藤原組へ下された裁定。

 

■観戦記『非情なる黒星 ~法政大戦~』

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 「厳しい状況には変わりないですけど」と付け加えることは忘れなかったが。主将・藤原慎介(商4)は、大学選手権の初戦を経て、新しくなった大会形式に言及した。

 「勝ってたらプール戦いらんやん、とね。次がベスト4を決める試合になるわけですから。ただ初戦で負けても次があるというのは、プール戦でも良かったのかなと。チャンスがちょっとでも増えたのはありがたい」

 今年から採用されたプール戦(全4各ブロック4校による総当り戦)の恩恵。これまでのトーナメント制ならば、たった一回のノックアウトが終戦を意味していた。それが今年は、他3校との星取表の兼ね合いはもちろんのことだが、たとえ一敗してもそれで道が潰えることには、ほぼ直結はしない。そもそも3試合は決められている。初戦の慶大に黒星を喫した藤原組にとっては、限りなく苦境に立たされたものだったが、目指す頂への可能性が0になったわけではなかった。

 選手権セカンドステージ第2戦を2日後に控えたグラウンド。練習を終え、主将は声を弾ませた。

 「正直今までと違って切り替えて。4回生とも話しして、4回生がしっかりせなあかん、今こそ力の見せ所かな、と。今日も良い練習出来ました。最近で一番、練習の最初から集中出来ていました」

 慶大戦で露呈した課題に向き合い、気持ちを落とすことなくチームは踏ん張り、前を向いていた。課題とは「ミスを減らすこと」と「精度を上げること」。一見、表裏一体のものに捉えられるが、それぞれシチュエーションによって異なる。先の慶大戦を思い返す。ディフェンス面、「自陣でミスをしてしまい、相手にトライを取りきられてしまった」。転じてアタックでは「取りきれず。精度の高さを保っていけば良いゲーム出来ると」。負けはした、だが確かな手応えがあったのは事実である。

 「ゲーム開始早々トライ取られたけど、アタックしてても負けてる雰囲気なくて。だから負けて余計に悔しかった。試合終わってみて、予想以上に通用したという実感が。ミス、精度の低さが無ければ関東の大学相手でも勝てる」

 主将の胸中に芽生えた実感と確信。それがあるからこそ、この一週間、練習時には集中力を求めた。そして、チームはそれに応えた。「一つひとつのパスだったり、ミス少なくて、声を出してやってくれている。一人ひとりが集中してくれています」

 関東勢にも自分たちのラグビーは通用する。第2戦の相手となる法政大に対しても「強いチームですし、けど勝てない相手だとは全く思わない」と見据えていた。必要なのは、ミスなく精度を上げること。主将は意気込んだ。

 「勝てますよ、絶対。勝ちますよ!」

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 課題は克服されていたか。舞台は博多、レベルファイブスタジアム。選手権では実に4年ぶりとなる法政大との一戦。朱紺の闘士たちは序盤から敵陣でプレーを展開していく。だが、フィニッシュへと至ることがない。相手のプレッシャーもあれど、ノックオンでボールを献上。順目へボールを行き渡らせようとするも、選手間の呼吸が合わず、楕円球は見当違いにグラウンドを転々とする。注視するからに余計ではあるが、それでもミスは目立った。ようやく結ばれたのはゲーム自体が動いたシーン。前半16分、自陣でのターンオーバーからCTB水野俊輝(人2)が相手ディフェンスを揺さぶりながらゲイン。最後は外側で併走していたCTB松延泰樹(商4)へパスを出し、松延が悠々と独走トライを決めた。アタッキングなCTBコンビもこれで3試合目。チームが求める攻撃的要素をトライという形に仕上げる。前半24分、追加点も同じく水野が防御網を激しく破り最後は松延につなげたものだった。

 攻める場面でのミスは、次第に減っていった。しかし、もう一つの課題こそが、敵につけ込ませる部分となる。先制点の直後、PGで反撃を許す。そして前半残り10分の場面、自陣でペナルティを犯すと、そこからすぐさまリスタートを切った相手に、防御の整備もままならずトライを許す。強みのディフェンスも、精度が伴わなければ、意味を成さない。そうして前半終了間際の攻防。ターンオーバー合戦で攻守が入れ替わり立ち代わる。フィニッシュへとつなげたのは、法政大だった。

 最悪なタイミングで喫した逆転。しかし、それでもなお、この時点でチームに影が落ちることはなかった。ハーフタイムの様子を主将は述懐する。

 「気持ち落ちる様子も無くて、後半の最初から気持ち作って、と。ハーフタイムで、まだまだ走れるという顔をチームはしてて。またギアを上げて、近大戦みたいな後半にしようと」

 実のところは、自分たちの手で、己の首を絞めていた。前半40分間は、そういった展開だった。かといって、そのことで闘志が揺らぐことなどなかった。フィットネスを軸とした『カンガクウェイ』、そのウェイ=道を突き進むだけのことだ。

 後半から意識したのは、ボールを奪ってからトライへ至るまでのイメージ。一度ボールを持てば、幾ら細かくても丁寧に刻んでゴールへ迫ろう、と。

 後半4分、相手のパントからボールを獲ると、そこから反撃に転じる。前に出て、ポイントを作って、外へ。その反復。とにかく細かく。ラックを生じさせてでもキープし前進するもの。リスクを減らし丁寧にボールをつないでいくという意図だとすれば、これ以上に確実な方法はないだろう。そして後半の10分間で、ターンオーバーからの得点パターンで2トライを上げ、リードを奪い返したのである。

 「自分たちのラグビーが出来れば、いけるということを再認識しました。フェイズを重ねてでもいいから、フェイズを重ねながら前に出て、と。理想とするラグビーが出来た」(藤原)

 先の慶大戦から得た確信は、このとき果実として具現化されようとしていた。

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 しかし勝利の女神は目をつむるようなことはしなかった。彼女は相手よりも上手な者に惹かれ、反対に綻びある者を甘やかせることはない。

 ブレイクダウンにおける反応の良さを持ってして、法政大に幾度とチャンスを奪われる。逆に、課題をカバーしきれないチームは後手に回りピンチを招く。後半15分、再度リードが入れ変わる。

 自陣で過ごす時間が多くなってきた。ターンオーバーに成功すれば、それこそ自陣からじんわりと攻め上げ、ときに松延らのビックゲインでゴールへと猛進してみせたが。最後の最後で、インターセプトされ、振り出しに戻る。精度の低さが、決定力を縮減させた。

 追い討ちをかけられたのは後半32分。自陣でのマイボールスクラムから、キックでの陣地挽回ではなく、ボールを回すことを選択した。SO春山悠太(文4)が周りの動きを見て、キックパスを繰り出す。頭上から舞い降りてくる楕円球を目掛けて松延が飛ぶ。が、しかしボールは相手の手に。そのまま追加点を許した。

 残り時間は5分を切っている。スタンドからは、振り絞られた声援が飛ぶ。10点差、とにかく前へ、と。相手のペナルティもあって、敵陣へ。だが、ここでも自分たちのミスで自ら勢いを断つことになった。最後、HO浅井佑輝(商2)の追い上げトライもむなしく、29-34でゲームを終えた。

 試合後、通常ならば記者会見の会場へそのまま足を運ぶのだが、藤原は意識なかったか。チームとともにいったんはグラウンドそばの室内練習場に戻り、ほおを濡らした。それから主務・越智慶(人4)に促されて、腰を上げた。

 「全然負ける相手じゃなかった。自分たちのミスで首をしめることに。先週よりも、もったいなかった」と主将は口にした。

 不甲斐なさが身に痛く染みたことだろう。勝てる試合をみすみす落としてしまったことへの自戒。けれども、それ以上に、自滅が最悪のシナリオを招いたことに気づいたときに、彼らの心は崩れた。選手権セカンドステージ、2敗目。チームが目指し続けた頂への道が完全に途絶えた瞬間だった。

 記者会見、アフターマッチファンクションを終え、チームの全体集合。部員たちの前に立った主将は、ときおり言葉を詰まらせながら、思いを口にした。「勝てんくて申し訳なくて、、、ただ4年生にとって、もう一試合やらせてもらえるのが嬉しくて、、、(中略)まだお前らとラグビーしたいから。あと1週間、4年生は最後まで死ぬ気で頑張るから。1週間しかないけど、ついてきて欲しい。一緒に頑張って欲しい」

 非情なる現実に打ちひしがれていた。夢が潰えたという事実。だが、もう一つの現実が確かにある。最後の戦いが残っているということ。

 藤原組のラストゲーム。12月23日、筑波大戦。それは、この一年のなかで、もはや勝敗を問わない唯一の試合になる。そこで藤原組が成すべきことは、たった一つ。チーム最後の80分間で、自分たちのラグビーを出し尽くすこと。

 「次で最後。それはもう分かってしまってるんで。どれだけ力を出せれるか。今週一週間、しっかり練習して臨みたい。

 80分間走り切って、ターンオーバーからフェイズ重ねて、トライへつなげる。関学ラグビーを徹底したいです」

 彼らのラグビーは日々、成長を遂げてきた。これまでの自分たちをさらに超える、〝OVER〟するラグビーを見せてくれると信じて。時は、終着へむけ刻まれる。


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2012-12-12 13:12:58 | ブログ

関学ラグビーは全国の舞台でも通用した。全国大学選手権セカンドステージ第1戦、わずかに及ばず慶大に17―29で惨敗。痛い黒星を喫したものの、相手に引けを取らない内容であったことは成長の証であった。

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 全てが悪かったわけではない。同点で折り返した前半は、慶大を相手にこれまで磨き上げてきた関学らしいラグビーを展開。粘りのディフェンス、テンポの良いアタックで慶大に立ち向かった。だが歯車が狂ったのは後半。終盤になって主導権を握られ17―29で敗戦。セカンドステージ初戦を白星で飾ることはできなかった。
 試合開始早々先制点を許すも、前半19分にはLO藤原(商4)がゴール右端にトライ。その後も両者一歩も譲らず一進一退の攻防が続き、12―12で前半を折り返した。
 後半9分、CTB畑中(商3)がトライを奪い、ここで関学は初めてリードを奪う。だがその後、敵陣ゴール前で勝負を仕掛けていくも、得点につなげることができず苦戦。気持ちの焦りからミスや反則が増え関学のペースは崩され、後半の最後に連続トライを許して17―29で惜敗を喫した。
 「関東の大学を相手にしても関学のラグビーが通用した」と主将・藤原慎介が話したように、決して悪い試合展開ではなかった。「一つ一つのミスを減らし、プレーの精度を上げていかなければならない。次の法大戦でも関学のラグビースタイルを貫いて勝負する」と藤原は気持ちを切り替えた。この敗北を糧に関学は前へ突き進む。


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2012-12-07 17:03:46 | ブログ

大学ラグビー選手権は9日から第二ステージが始まる。

我がラグビー部も西京極スタジアムで慶応大との対戦する。

「Noble Stubbornness」(高貴なる粘り、高貴なる頑固さ)は
関学体育会の有名なモットーです。
「堂々と勝ち 堂々と負けよ」にしても、 関学関係者ならば誰でも知っている「Mastery for Service」にしても、 関学らしい品位に満ちています。
関学ラグビー部のOBとして、この気高さを忘れずに慶応大学との対戦してもらいたい。

『堂々と勝ち堂々と負けよ』(カール・ダイム(ドイツの哲学者)の詩の一節)
いかなる闘いにもたじろぐな
偶然の利益は騎士らしく潔く捨てよ
威張らず、誇りを持って勝て
言い訳せず、品位を持って負けよ
堂々と勝ち、堂々と負けよ
勝利より大切なのはこの態度なのだ
汝を打ち破りし者に最初の感激を
汝が打ち破りし者に感動を与えよ
堂々と勝ち、堂々と負けよ
汝の精神を、汝の肉体を、常に清廉に保て
そして、汝自身の、汝のクラブの
汝の国(学院)の名誉を汚すことなかれ

後輩諸君の健闘を祈る・・・


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2012-12-02 12:56:49 | ブログ

 これぞ今年の関学だ!後半だけで奪ったトライは7本。同点で終えた前半と打って変わって、後半は関学の独壇場となった。トータルスコア62―17で近大に勝利し、関西3位で大学選手権への出場権を手にした。

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 大学選手権に弾みをつける圧巻の戦いぶりだった。リーグラストゲームとなった近大戦。序盤こそ攻撃がかみ合わず苦戦したが、後半11分のCTB松延(商4)のトライを皮切りに得点を重ねた。終わってみれば62―17で近大に完勝。関西3位で大学選手権出場を決めた。
 「メンバーが入れ替わり、序盤はうまくプレーできていなかった。それでも20分くらいからかみ合ってきた」と話した主将・藤原(商4)。これまで固定メンバーで戦ってきた関学だったが、この日はCTB水野(人2)、FB中野(文1)がスタメン入りし、さらに春山(文4)がSOでの出場となった。新たな布陣で臨んだ前半はなかなかリズムをつかむことができず、14―14で折り返した。
 後半に入ると前半の苦戦が嘘のように、関学の勢いは止まらなかった。松延のトライでリードを奪うと、次々に得点を重ね62―17で近大を圧倒し勝利をつかんだ。
 「ここにきて自分たちのラグビーを確立できた。関東を相手にしてもこのラグビーをしたい」と藤原。熱い思いを胸に、藤原組の新たな挑戦が始まる。


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2012-11-30 15:59:35 | ブログ

リーグ最終戦にて、たどり着いた境地。つまりは『カンガク・ウェイ』。いま、藤原組は一つの答えを導き出した。

 

■観戦記『藤原組のファイナルアンサー ~近大戦~』

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 試合後のチームの全体集合。部員150人が集う輪に向かってマコーミックHCが前に出る。開口一番、「イエス!!」。その顔は、普段から見せる笑顔よりもさらに高陽している様子。そのわけは、やはりこの日のゲーム内容にあるだろう。11月25日、リーグ最終戦で藤原組が見せたラグビーとは。

 消沈ムードに突入しようとしていた。前半開始から許した連続トライ。相手ペースになっていたわけではない。ただ、歯車に微々たる狂いが生じていた。グラウンドコンディションとのミスマッチもあったという。しかし主将・藤原慎介(商4)が要因に挙げたのは「意思疎通」だった。ディフェンス面、とりわけ組織的な守備に関してはシーズンを通して培ってきた部分。ディフェンスにあたり「誰がどこを見るか」、そこで生じた歪みを近大に突かれた形だった。

 だが、序々に組織面での本来の動きを取り戻す。それにつれて、ボールを持つ時間帯も増えていく。チャンスをものに出来ない場面が続くが、逆襲の時はいままさに訪れようとしていた。そうして前半33分、今季大活躍のWTB畑中啓吾(商3)が、持ち味のスピードとパワーをミックスさせたプレーでインゴールを割る。トライゲッターが決めた一撃が持つ効力か。直後、攻撃に転じてBK陣がボールを前へ運ぶなか、CTB松延泰樹(商4)があわやノックオンのぽろりと思いきや、〝幸運の左足〟でチップキックの形に。インゴールへ転々とする楕円球を松延が押さえ、あっという間に同点となったのである。前半を終え、14-14の同点。反撃ムードで充たされた前半最後の10分間の好転は、残り40分間で繰り広げられる協奏曲のプロローグに過ぎなかった。

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 この試合、初めてSOとして先発出場を果たした春山悠太(文4)は話した。「近大も良いディフェンスするチームで。前半はこっちが攻めて攻めて」、それでも取り切れずに、ああいう内容になったのだと。後半に臨むにあたって「やっとスイッチ入ったな、と」。前半40分のスコア上の拮抗なぞ、どこへやら。後半、怒濤のトライラッシュが幕を開けた。

 その攻撃は、相手の気力を奪い、足を止めてしまうまでのものだった。リーグ戦を通して幾多のトライを上げてきた面々が、この日も攻撃のフィニッシュを飾る。もはや得点シーンは、リプレイを見ているかのごとく、一つのパターンとして繰り出されたものだった。

 言うならば。春山は端的に述べる。「フィットネス。それが自分たちのやりたいラグビー」。グラウンドに立つ全員が攻守両方の場面で走ること。ボールキャリアーが前に出る。相手のディフェンスにより止まる。そこに走り込んでくるFW陣。ボールを確保し、態勢を整える。広がるBK陣へボールが渡る。ボールの動きとともに、展開しゴールラインまで走り切る。

 その動きが、途切れることが無いのだ。フェイズを重ねること、いやそれもあるが、40分間一時もこちらの足が止まることが、無かった。それが相手の心を折った一因だろう。

 予兆はあった。前半最後の10分間、反撃の狼煙となったプレーもまさに同じような展開だった。後半の40分間、その展開をやり続けた結果が、実に7トライにだったのである。このアタック面について主将はこう語る。

 「とにかく順目順目に。FWも一生懸命走って、ポイントを作って、空いたスペースにBKが働いてくれる。FWが頑張って走れば、BKがトライを取ってくれるという信頼感があります」

 FWとBKが織り成す剛柔多彩の波状攻撃。それはまるで、協奏曲の如し。FW陣も身体を張り、ときにボールを運ぶこともいとわない。最たる例は一列目の男・PR幸田雄浩(経4)だ。前節の京産大戦でも見せたように、ボールを持ち自ら突き進むシーンがこの日もあった。相手ディフェンダーとの衝突ありきのそれを〝剛〟と呼ぶならば、〝柔〟はやはりBK陣なかでもバックスリーだろう。スピード、テクニックそして強さも相まって決定力はもはや言うまでもあるまい。松延、畑中を筆頭にフィニッシャーとしての役目を存分に果たしている。

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 今シーズン、新しくチームにやってきたマコーミックHCは藤原組に、彼らに見合ったスタイルを落とし込んだ。今年のチームに備える機軸。現在のラグビー日本代表を率いるエディー・ジョーンズ監督が提唱した『ジャパン・ウェイ』に倣った、『カンガク・ウェイ』なるもの。この夏の時点で、HCは言い放った。

 「1にフィットネス、2にディフェンス。3にアタックで4にコンタクト、そして5番目にセットプレー。これが『カンガク・ウェイ』になります。フィットネスは厳しく見ていて、走れないとトップチームに上がれないほどに。いまフィットネスを軽視する人は少ないです」

 とにかく、走れることをチームに求めたのである。技術や戦術よりも、動けること。メンバー選考でも、このフィットネスが重視されたという。そして、そこからチームのスタンスとして、守れることを第一に据えたのである。

 以前、主将は口にした。「走って、走って、ディフェンスして、勝つ」。春シーズンは、それらに終始した。対外試合はロースコアに持ち込むゲームプランを徹底して実践。練習時間はディフェンスの構築に費やしてきた。もとより、昨年の新里組のスタイルだったアタッキングラグビーの財産を引き継いだ点もあったが。それゆえに、攻撃面は度外視し上半期を乗り越えた。

 半年間を終えて、手応えはあったのだろう。それとも、チームの強化の工程表に組み込まれていたのか。夏からアタック面の増加に取り組んだ。秋、『カンガク・ウェイ』は、陽の目を見るところまで迫っていた。

 こうして藤原組はリーグ戦へと臨んだのである。一つの完成形を持ってして、大一番でもあった開幕戦に挑む、そのつもりだった。だが、強敵・天理大が相手だっただけに、チームはここで勝利至上主義のもと方針を変更する。主体としたのは、キックで陣地を獲得するもの。それが黒星という結果に直結したわけでは決してないが、自分たちのラグビーはなりを潜めていた。

 相手への対策を講じるばかりに、いつしか相手の土俵のなかでラグビーをしてしまうことになっていたのだ。リーグ戦の最中、チームは再度確認する。自分たちのラグビーとは、と。

 ようやく『カンガク・ウェイ』の実現がなされた。2勝2敗で迎えた11月3日の摂南大戦。順目に人とボールを動かすことを意識づけした。片鱗が見えてきた。

 続く京産大戦。ディフェンス面では課題が残る内容で相手との打ち合いになったが、80分間の最後の最後までメンバー全員が走り切った結果、大逆転勝利を収めた。

 そして、リーグ最終戦となった近大戦。後半40分間、相手に1つのトライも許すことなく、ねじ伏せた。

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 何度も言おう、走れることは前提だ。ディフェンス力、それは負けない為の絶対条件だ。そしてアタック力、勝つ為の必要条件である。

 上半期を経て、藤原組はディフェンスラグビーが機軸となると思われた。試合を見てきた者は、誰もそのことを疑わなかっただろう。しかし、どうだろう。封印してきた攻撃力が加味された今のラグビーは。そう、これが進化の証、藤原組が導き出した答え、『カンガク・ウェイ』なのだ。

 面白いことに、春シーズンでは幾度とパワーあふれるトライを見せてきた主将・藤原だが、このリーグ戦で奪ったトライ数は0。それだけ、いまはBK陣を中心に攻撃的な要素がチーム全体へ万遍に行き渡っていることを意味しているのではないだろうか。

 近大戦、チームの司令塔としてボールを配球した春山は振り返った。「チームがやろうとしたことが出せたのが、嬉しかったです」。

 リーグ戦が終わり、結果として関西3位。主将は「正直、悔しいですね」と漏らした。けれども、もう間もなく全国の舞台が藤原組を待ち構えている。

 「関学のスタイルを徹底すること。今から新しいことをしても仕方がないので。精度を上げていくことで。

 どの試合も勝たなければならないのは決まっている。自分たちのラグビーが関東に通用するか、それを試せるに十分な相手。楽しみ、だと」(藤原)

 『カンガク・ウェイ』を、今こそ見せつけてくれ。


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2012-11-15 01:47:52 | ブログ

逆転勝利でリーグ戦4勝目をつかんだ!12―19とリードを許したまま迎えた後半。後半に入ってもなかなか関学はペースをつかめずにいたが、後半32分に試合が動いた。ナンバー8中村(人2)のトライを皮切りに勢いづいた関学は、4連続トライで京産大を突き放し見事逆転勝利。3位への希望をつないだ。

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 関学はPR石川(社4)のトライで先制点を奪った。そのまま勢いに乗るかと思われたが、京産大に一気に3トライを許し、まさかの逆転。12―19で前半を折り返した。
 「もっとシンプルに丁寧に順目から攻めよう」。主将・藤原(商4)は仲間に声をかけた。後半開始早々、関学はPGで得点。そしてWTB金(総2)のトライで22―19と逆転に成功する。だが立て続けに京産大にトライを許し、22―33とまたもビハインド。流れは京産大へと傾きかけたが、残り時間10分、関学の逆転劇が始まった。中村のトライで4点差まで詰め寄る。その直後にはSO水野(人2)からパスを受けたWTB松延(商4)がインゴールへと駆け込みトライ。34―33と関学は再度逆転に成功した。松延に続き、CTB春山(文4)、WTB畑中(商3)が立て続けにトライを挙げ、48―33でノーサイド。「自分たちが逆転した後も慢心がなかったから、あの時間でも立て続けにトライを取れた。終盤のようなプレーを始めからできていれば」と松延は振り返った。関学は見事な逆転劇を演じ、貴重な白星を手にした。
 関学は最終戦で近大に挑む。勝者が関西3位となる。絶対に譲れない戦いだ。藤原は「1週間でしっかり準備をしたい。再度チーム全体でアタックの意識付けをする」と気を引き締めた。

【春山悠太】
 後半36分にCTB松延(商4)のトライで追い付き、逆転に成功した関学。その3分後、押せ押せムードの中、CTB春山(文4)が魅せた。
 「自分の持ち味はトライを取ることじゃない。でもできれば取りたいと思っていた」。敵陣10㍍のラックからパスを受け、相手をはねのけながらインゴールに飛び込んだ。試合を決定づける、今シーズン自身初トライを挙げた。周りを生かすプレーを持ち味とし、今季のWTBの躍進を支えている春山。最終戦も泥くさいプレーでチームを勝利に導く。

 

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2012-11-05 23:10:46 | ブログ

 関学が好調を取り戻した。前節の立命大戦では天候を味方にできず実力を十分に発揮できなかった。しかし、この日はWTB畑中啓吾(商3)が3トライを奪うなど関学が終始主導権を握る試合展開となった。前半を完封し、後半に失点を許すも摂南大に40―7で圧勝した。

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 「これ以上負けたくない」。熱い思いを語ったのは畑中だ。前節で今リーグ2敗目を喫した関学。これ以上黒星を重ねたくないというチーム全員の思いは勝利へつながった。 
 キックオフ直後から関学の攻撃力が光った。前半2分、WTB金尚浩(総2)がゴール左端にトライ。そして続く15分、22分には畑中が連続でトライを奪取し、28―0で前半を折り返した。 
 このまま関学が主導権を握り続けるのかと思われたが、後半10分に攻め込まれ失点。反撃を許した関学だったが、簡単には引き下がらなかった。再び関学に流れを引き戻したのは畑中だ。畑中  がボールを持つと観客が沸いた。その期待に応えるかのように後半13分SO安部(経4)からのパスを受けこの日3本目のトライ。試合後畑中は「安部さんや春山(文4、CTB)さんが周りをよく見て、的確なパスを回してくれたおかげでトライを決めることができた」と自身の得点シーンを振り返った。試合は40―7で摂南大を圧倒し、関学はリーグ戦3勝目を飾った。
 計6本のトライのうち3本を決め、キックでは6回中5回を成功させる大暴れでチームを鼓舞した畑中。しかし、その活躍の裏には前節の立命大戦で得点に絡むことができずに敗北した悔しさがあった。その悔しさを見事に晴らした畑中は、大車輪の活躍で勝利の立役者となった。


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2012-10-30 11:03:07 | ブログ

関学の攻撃の手はことごとく封じられた。昨年のリベンジが懸かったこの一戦は、再び立命大に軍配が上がった。前後半合わせても関学はペースをつかむことはできなかった。苦手とする雨天の中の決戦は10―26で敗北した。

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 関学が圧倒されていたわけではない。立命大が堅実で強かった。付け入る隙を与えてはもらえなかった。雨天でお互いに思うようなプレーはできなかったが、立命大に一枚上をいかれ、10―26で関学は敗北した。
 セットプレーが勝敗を分けた。立命大はラインアウトを読んで先手を取り関学に圧力をかけ続けた。「プレッシャーをかけられ、考えすぎて悪循環に陥った」と主将・藤原(商4)。ゴールライン際でのラインアウトでもショートパスを取られ、モールで押し戻された。キックでエリアを取り返されてチャンスをつぶされてしまった。
 5―12で迎えた後半、巻き返しを図る関学だったが、立命大の堅実なディフェンスを前にチャンスを作ることはできなかった。次々と絡んでくる立命大のディフェンスにパスコースを奪われ、前に進むことができなかった。しかし、関学も意地を見せる。後半17分にラインアウトのショートパスからFL安田(人4)が素早くトライをねじ込み追い上げを見せる。最後まで勝利を信じ戦い抜いた関学だったが、焦りから終了間際にトライを許し試合を決定づけられた。
 これで今リーグ2敗目。残り3戦は絶対に落とせない。この試合で敗れた立命大には大学選手権での雪辱を誓う。まだまだ成長の途中にある関学は試合を重ねるごとに強くなる.。


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2012-10-24 19:34:27 | ブログ

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◆松延3トライもまだまだ足りない?
 昨年の雪辱を果たすべく臨んだ大体大戦で、関学に先制点をもたらしたのはWTB松延泰樹(商4)だった。前節の同大戦では自らトライを決めることができなかっただけに、その悔しさを晴らすかのようにこの日の松延は見事な活躍を見せた。
 速い試合展開の中で軸となったのはBK陣であり、その要が松延だった。ボールを持ち出すと相手の隙をどんどん抜いていく。前半3分、9分に連続でトライを奪った。その勢いを誰も止めることはできない。後半、関学は相手のペースに流されていたが、試合終了直前松延がとどめの追加点を決め大体大を突き放した。
 しかし、試合後には「もっとトライを決めたかった」と語った。3本のトライを奪った結果には満足せずどこまでも貪欲な松延。それは、ラストイヤーに懸ける熱い思いの表れだ。関学ラグビー部の一員として戦う姿は今シーズンで最後となる。その輝く雄姿から目を離さずにはいられない。

◆安部キックでゲームメーク&トライの立役者
 「前節の反省点はクリアできたと思う。勝ちに貢献することができてよかった」と試合後コメントしたSO安部都兼(経4)。安部はこの日トライにつながるラストパスを4本放ち、自身でもトライを奪う活躍で関学の38―17での勝利に大きく貢献した。
 蹴っても的確なキックでチャンスを広げた安部。強力FW陣に対抗するためキックでエリアを取っていった。「後半は相手に勢いを与えてしまった。80分間通して精度の高いプレーをする必要がある」と次戦に向けての反省も忘れなかった。

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2012-10-23 15:32:43 | ブログ

関学の展開ラグビーが思う存分に発揮された試合となった。前半から積極的にボールを動かした関学。CTB松延(商4)の3トライを始めとし、BK陣がトライを量産して38―17でリーグ戦連勝を果たした。

20121021d1追撃を許すも勝負どころでチャンスを逃さなかった関学。前半は怒とうの攻撃で大体大を圧倒した。だが26―0で迎えた後半、自分たちのミスから大体大に流れを持っていかれ17点を献上する。38―17で勝利したものの、後半の失点が悔やまれる戦いとなった。
 「前半の入りは良かった。今週取り組んできたBKのアタックがうまくいった」と主将の藤原(商4)が言うように、前半はBK陣のプレーが光った。松延は開始3分にトライを奪うと、続く前半9分にもパス展開から連続トライを奪取。その後も得点を重ねた関学は、守っても相手に得点の隙を与えることはなかった。だが後半に入ると関学押せ押せの展開に大体大が待ったをかける。関学が犯した反則から流れをつかまれ得点を許し、後半38分には14点差まで詰められた。このまま嫌なムードで終わるかと思ったが、この日絶好調の松延がダメ押しのトライを挙げ、再び大体大を引き離すことに成功。38―17で勝利しリーグ戦連勝を飾った。
 「このまま流れに乗っていきたい。立命大には昨年負けているので、チャレンジャーの気持ちで挑み勝ちにいきたいです」次戦の立命大戦へ藤原は意気込んだ。立命大はこれまでリーグ戦3戦負けなし。好調の立命大を崩すことはできるか。


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2012-10-15 20:27:55 | ブログ

 開幕戦黒星から1週間。続く第2戦で、あわや暗礁もちらついたチームを救ったのは、両端に構えるトライゲッターだった。同志社大戦白星の立役者は、金尚浩(総経2)と畑中啓吾(商3)、両WTBだ。

 

■金尚浩&畑中啓吾『両翼が強く羽ばたいた日』

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 予想を超えていた。対峙する同志社大の展開力が。グラウンドの横幅を端から端まで使い、人とボールが動く。そのスピードに、加えて当たりにいっても止まらない強さに、動揺が生まれた。あれよあれよと2本のトライを許した前半15分間を副将・松延泰樹(商4)は振り返る。

 「自分たちの立ち上がり悪かったのと相手が対策以上に、個々の強さ、ラインスピードが速くて。そこだと。

 正直、去年と同じ展開も考えた。先週負けてた焦りもあったんで」

 昨年の同志社大戦。序盤に許した失点から、ずるずると得点を許し、勝負は決まった。それと同じ光景が、グラウンドに立つプレーヤーたちの脳裏をよぎった。速さに翻弄され、ダブルタックルでも仕留めきれない。ディフェンスラグビーを標榜しながらも、受け手に回っている時間帯で生じるジレンマはやがて焦燥感へと形を変えていた。

 「このままでは去年の二の舞になるな、と。FWでもBKでも、とにかくディフェンスを起点に仕掛けたい」

 チームが泥沼に引きずり込まれそうになるなか、WTB金尚浩はうかがっていた。反撃に出るチャンスを。カウンターで仕掛けていくイメージを固めていた。

 「ノブさん(松延)たちからも、『ボールが来たら、思うようにプレーしたらいい』と言われてたんで。思い切って勝負!と」

 前半20分、自陣でボールが尚浩の元へ回ってきた。WTBとしての見せ場が、訪れた。まずは外へ、相手WTBを片手で抑えながら振り切ると、そこからライン際を駆け上がる。後続のディフェンダーが掴みきれないとなれば、歓声も次第に上昇。大歓声が沸き上がるなか、相手SOが前に現れるや、角度を変え、内へ切り込む。捕まらない。今度は真横からディフェンダーがくる。尚浩はワンハンドで相手を制止しようとするが、決まらない。いよいよ捕まったか

 「圭佑が最後までついてきてくれてたんで」

 ビックドライブの果てに、尚浩はバックフリップでパスを送った。相手は、会心の笑顔を浮かべながら追走していたナンバー8中村圭佑(社2)。パスを受けた中村は悠々とインゴールへ。カウンターからの一閃。「ゲーム前にしていたイメージトレーニング通りに。ひとり抜いて、と」。快足WTBの疾走は、相手の防御網だけでなく、それまでグラウンドを支配していた暗いムードをも切り裂いた。反撃の狼煙(のろし)が、上がった。

 続く23分、敵陣でのマイボールスクラムから、外へ展開。的確にパスをつないでいくと、FB高陽日(経2)から一番外にいた尚浩へボールが渡る。

 「もらった瞬間、ゴールが見えてて。コースに走りこんで。トライするだけだったらいけないと思って、中央まで」

 インゴールに到達するだけでなく、追い討ちをかけるようにポスト裏まで走り抜けた。反撃から逆転まで。前半のハイライトを、尚浩の足が飾った。

 その「11」番の活躍に触発されたか、同じWTBとして逆サイドに構える「14」番・畑中啓吾もふつふつと闘志をたぎらせていた。前半も残すところ10分ほど、同志社大がPGで1点差に迫ってきた場面。自陣でのターンオーバーから一気に相手陣内へ。左サイドから中央へボールが渡り、SO安部都兼(経4)から畑中はパスを受ける。前を向くと、相手のディフェンスラインはきれいに揃っていた。選んだのは、正面突破。「やばいかな」と思いつつも同大のナンバー8に真っ向から当たっていき、負けずにゲイン。そこから軽快なステップで2人を裁き、ゴール中央へ飛び込んだ。

 「相手も予想してなかったんじゃないですかね!?」

 得意気な顔で追加点を語る。もとより小柄な体格なぶん、ウェイトトレーニングは常に意識してやってきた。「まわりに大きい選手がいてるなかで、絶対に鍛えなあかんとこは鍛えて」肉体造りに励んできた。スピードも速いわけではないと語るぶん、ステップで相手をずらすスタイルを磨いてきた。まさにWTB畑中の強さと強みが発揮された得点シーンだった。

 個人技で取ったトライの次は、「チームで取った」トライだ。後半5分、味方が外へ外へとボールを運びライン際でパスをもらうと、あとは前を行くのみ。「相手いてなかったんで」と話すが、このときも2人のディフェンダーをかわし、弾いてのプレーだった。

 畑中の活躍はトライだけにとどまらない。要所でキッカーとしての役目を託されている。後半13分、好位置で相手ペナルティをもらうと、PGを選択した。「確実に蹴れる位置で。キャプテンとも話し合って、確実に取れるとこは点取っていこうと」

 開幕戦でもPGを成功させており、「今年は安定している」と話すだけに自信を見せる。この日も成功させ、追加点を足で叩き出した。

 両WTBの大車輪の活躍によって勝利を収めたリーグ第2節、同志社大戦はBK陣が存在感を見せつけた。「尚浩のトライもあって、数少ないアタックチャンスでシンプルにトライを取ることが出来たのが」良かったと松延。副将が信頼を置くバックスリーが中心となってゲームを動かした。前節の悔しさも、彼らのギアを一段と加速させる一因だった。尚浩は話す。

 「前の試合では2回しか触れず。今日はボールもらいにいこうと。

 天理大戦はチームのFWに助けられた部分が大きくて。同志社大は8番とか重量級のFWがいるから、今度はBKがFWを助けてあげようと思っていた。グラウンドを広く使って振ってくるのも分かってたんで、BKが視野を広く持って、引きつけてディフェンスしていこう、と」

 尚浩自身はスピード、そして何より185センチの長身を武器に大型WTBとして今シーズン初めからレギュラーの座を不動のものにしていた。安定感、そこには常に全力プレーを心がける姿勢がある。「全試合通して自分のプレーが出来るように。ボールをもらったら、思い切って走ったり、タックルでもまわりとコミュニケーションを取って。自分の身体とモチベーションも高く保って、全試合100パーセントの気持ちで臨んでいます」

 リーグ戦に入り、レギュラーであることを、より意識している様子。「150人のなかで選ばれるのもなかなか。選ばれなかった人のためにも、楽しもう、勝とう、と思います。アンガスさんからも『レッツ・エンジョイ!』と言われていますし」

 前節と打って変わって、フィールドを駆け抜けた同志社戦。さぞかし楽しかったのでは?

 「すごい楽しかったです!」。満面の笑顔をはじけさせた。

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 一方の立役者、畑中も開幕戦の屈辱をばねに、この1週間を過ごしてきた。初戦で務めたキッカーとして、舐めた苦杯。「1本1本が大切やと意識してたんスけど、2本外して結果2点差で負けた」

 天理大戦の試合後、彼は唇を噛みしめながら口にした。

 「ぼく自身悔やんで、落ち込んでても仕方ないんで。次に向けて、もっと練習して。4回生の思いもあるんでね。次!次にむけて、やっていきたい。

 責任感じてますけど、、、向上していきたいと」

 それから1週間の間、プレースキックの練習時。とくだん量を増やすようなことはせず、一本ごとに集中力を高めて蹴ることにした。キック〝1本の重み〟を知ったからこそ、である。

 話すに「(自分は)緊張するタイプ」。張り詰めた緊張感が支配するプレースキックの場面、畑中はとにかくリラックスして蹴りにかかるという。「入れなあかん、という考えではなくて、気楽に。気負ったら力んで外してしまう」。

 自らを落ち着かせることで、〝1本の重み〟をその右足に宿すことが出来るのだろう。「今日もリラックスして、1本1本集中して、蹴れました」。畑中は、同志社大戦をそう振り返った。

 輝きを放った両WTB。タイプが違う2人は、トライを取るという共通事項のもと、それぞれの役目をまっとうするべくプレーしている。尚浩は「2回生が引っ張っていけたら。4回生が僕らのケツは拭いてくれる、と言うてくれてるんで(笑)。思いっきり楽しんでいきたい」と声を弾ませる。畑中はこの日コンバージョンキックを1本外したことを引き合いに「トライを取るのが仕事。それプラス、キック蹴るのが自分の役目。100パーセント成功、それが僕の役目としてある。100パーセント、自分の仕事をこなしたいですね」と意気込んだ。

 関学のチームロゴである、KGで模されたイーグル。この両翼をもってして、藤原組は頂点へむけ、力強く羽ばたいてゆくのである。


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2012-10-11 00:16:28 | ブログ

息が詰まるほどの接戦となった開幕戦。いまだから明かすことの出来る、この一戦にかけた各々の思いを完全告白。そうして挑んだ果てに、喫した黒星はチームに何をもたらすか。

 

■観戦記『想定内と想定外のシナリオ ~vs天理大学~』

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 「萩井さんとアンガスさんは、天理大戦、どんなイメージ持ってますか?」

 9月半ばに行なわれたリーグ戦を前にした最後の合宿。練習が終わった直後の、夕食でのことだ。副将の安田尚矢(人福4)が、隣に座った萩井好次監督に聞く。同じテーブルには、主将・藤原慎介(商4)と同じく副将の松延泰樹(商4)の姿がある。少し間を置き、萩井監督が答える。

 「天理大戦に限らず、FWで2トライ、セットプレーから2トライ、ターンオーバーで2トライを。ただ天理を相手に6本は難しいと思う。

 FWで2本、セットで1本、ターンオーバーで1本取って。20点取られると厳しいな」

 すなわち、被トライ数3がボーダーライン。4本目を喰らうと勝利は遠のく。その数字に、以前に安田がチームの現状を話していた際の台詞を思い出す。

 「接戦に持ち込める自信はある。アタック力あるチームに対しても、3トライ以内には。けど

 シーズン当初から磨き続けたディフェンス力。ゆえにロースコアゲームは大歓迎。接戦になってこそ、勝利への道は開ける。自分たちの目指すラグビーは決まっていた。

 そして、もう1つ。今シーズンにおいて定まっていたことがある。それは、関西大学Aリーグの初戦の相手が、前年度関西王者の天理大学であるということ。昨年の成績が反映される対戦カード。開幕戦は前年度1位と5位が例年対戦する。

 その確定事項について、開幕戦の2日前、主将はあっけらかんと言い放った。

 「もう決まってたことなんで!言っててもしゃあないですから。春から分かってたんで、それに合わせてチームの固め方を。あとは、やるだけ」

 割り切るしかない。初戦の重みがいっそう増したことも、好材料に変えるのみ。主将は息を巻いた。

 「勝つつもりでいるんで。勝ち方のことしか考えてない。天理はどのエリアからでもトライを取りきる力を持っている。どのエリアでも気が抜けない。ちょっとした油断でやられてしまうので、80分間必死でディフェンスしたいです」

 関学のチームカラーが防御なら、天理大の特筆すべき点は攻撃。様々なシチュエーションから展開し決定打を浴びせるアタック力。その中心となるBK陣を、CTB春山悠太(文4)はこう分析していた。

 「あれが日本一のBKやと思います。みんな上手いっスよね、あそこ。全体のスキルにパス、ラン、全員がレベル高い。突破できる13番がおって、SOはまわりを活かすことに徹している。ひとり一人が自分の仕事を分かっていて、高いレベルでまっとうしている。歯車がかみ合っている」

 真正面から、正直に受け止めていた。その強さを。今春の対戦では白星を挙げていたが「あの頃より強い選手が戻ってきているし、チームの出来上がり方も凄いっスよ」(春山)。対戦を前に、彼らが穴の空くほど相手を見ていたことは想像に容易い。

 実際、アンドリュー・マコーミックHCも数週間前から分析班より天理大のビデオを受け取り、チェックしていた。

 「対帝京、対流経、対東海、をね。向こうのテクニックやサインも見て。展開が早くて、テクニックがうまい。けど組織の動きはシンプルだし、凄い印象はない。精度は高いけどスクラムとかセットプレー、あとゴール前のディフェンスが足らないかな。あ、これはいつ書くの?(試合が終わってからです。)オッケー」

 臨戦態勢は整っていた。ゲームに臨む選手たちからは「自分たちのやってきたことをやるだけ」が共通して聞かれた。それは自信ゆえ。一貫して取り組んできたディフェンスへの自負。強敵相手にも、確信があった。春山は声を上げた。

 「(勝てるイメージは)ありますね。きっちりありますよ!FWでプレッシャーかけて、相手下げさせて、最後BKで」

 ただ一抹の不安もあった。それは、自分たちのやってきたことを〝やれなかった〟場合。春山は続ける。

 「自分たちのやってきたことを出せないこと、出させてくれないことに不安が。それに克てたら。出したら勝つ、そこの強いイメージはある」

 自分たちを、自分たちの歩んできた道を信じるのみだった。

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 いつしか関西の覇権争いを演じるのは朱紺と黒のジャージになっていた。関学が関西制覇をかける試合の相手は決まって天理大だった。その決戦が、今年はオープニングゲームになった。10月7日、花園ラグビー場。火ぶたが、切って落とされた。

 開始早々に先制点こそ奪われたが、前半20分あたりで繰り広げられた自陣ゴール前の攻防。相手のFW陣を必死で食い止める。「前半、関学のスタイルが出せた」と主将。そう、ディフェンスだ。上半期、このシチュエーションでゴールを割らせたシーンは、無いといっても過言ではない。あれからさらにチームは進化し続けたのだ。関学FW陣も「最近なってゴール前のディフェンスを強化しよう」(藤原)と貪欲だった。開幕スタメンに立ったHO金寛泰(人福2)も振り返る。

 「9月、FWは朝も夕方もかなりハードな練習をして、自信ついた。今日もゴール前で危ないとこはあったけど、強みのディフェンスと、FWでしっかり勝負出来たので。手応え感じました」

 息詰まらせる攻防の果て、自陣を割らせることはなかった。相手の反則を誘い、陣地を挽回。そうして前半も残すところ10分、朱紺のジャージが反撃に転じる。

 前半33分、相手ゴール寸前でFWが粘ると、最後はナンバー8中村圭佑(社2)が敵陣を陥れる。コンバージョンも決まり逆転に成功、続く37分、敵陣内で相手ペナルティでボールをゲット。ここで、チームはPGを選択する。キッカーを命じられたWTB畑中啓吾(商3)も「それまで蹴ってて、良い感触あったんで。FWとも話し合って、蹴りました」。蹴り上げられた楕円球は、ポストの真ん中を貫いた。

 前半終わって10-5。互いに1トライのみのロースコアゲーム。「関学らしいゲーム展開になっている、と。しっかりディフェンスして、取れるとこは取って。後半に臨んでいこう」。ハーフタイムで、主将はチームにそう説いた。

 そうして始まった後半、試合はシーソーゲームの様相を呈していく。後半5分に天理大が逆転。だが、徐々に敵陣でのプレーを増やしていた関学がプレッシャーをかけていく。後半15分、ゴール前でのマイボールスクラム。「セットプレーは心配ない」とマコーミックHCが話していたように、あっさりとFL徳永祥尭(商2)がトライを決める。再度、リードを奪った。

 決めた2トライは、相手のウィークポイントで確実に仕留めたものだった。つくべきは『ゴール前のディフェンス』、HCの狙いは見事に的中した。

 シナリオは出来上がっていた。それも想定どおりの。しっかりと守り、取るべきとこで取る。まさに主将がチームに話したこと。あとは、最後まで徹底し続けるのみだった。

 が、しかし。後半27分、やはり警戒すべき相手のストロングポイントに打ち砕かれた。ターンオーバーから相手BK陣のゲイン。先制点を上げた留学生CTBの突破力を警戒してか、ややライン際の防御網が緩くなる。そこへパスがつながり相手WTBが大外一気。リードは3たび、変わった。

 残すは10分強。3つ目のトライを目指して関学は走る。けれども、リードが覆ることはもう無かった。

 「ペナルティですね。同じ反則を2回も繰り返したりで。もったいなかった」(藤原)

 攻撃のチャンスは幾度とあった。しかし、決定打となる前に自らのミスでチャンスを逃した。後半ロスタイムのラストプレー、ボールを獲得するも、焦りがあったか、早〝すぎる〟パスワークでボールがこぼれた。そして、勝利も。

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 「ワンプレーの精度ですね。こだわり持ってやっていたら。取られたトライも、自分たちのミスからのトライで。精度の差だったと」

 この日、体を張ったディフェンスとトライで存在感を光らせた徳永は敗因をそう語った。自分たちのほんの小さなミスが、取りきれた場面、抑えきれた場面で積み重ねられたことで、最終的には大きく響いた。

 試合後、クールダウンに入る直前、マコーミックHCは主将の傍に寄り、こう話したという。

 「決して悪くないゲームだった。良いとこもたくさんあった。やってきたことも間違いない。ただ、ペナルティ。反則を無くすための練習をしよう」

 黒星という事実は揺るがない。だが、『15-17』というスコアは、それ以上の意味合いを持っている。4本目を奪われなかったこと、20点以内に抑えたことは、かつて萩井監督の想定したシナリオ通りだった。

 一方で、冒頭で述べられた安田の台詞の続きも、いまリンクする。「けど、ディフェンスも強いチーム相手に3本取る自信はない」。春シーズンは徹底的にディフェンスを磨いたからこそ攻撃面には着手していなかった。その点を自認し、夏を経て、アタック面でも着実にレベルアップを果たしていた。

 「自分たちのやってきたことは出せた」。試合を振り返り、選手たちは口を揃えた。3本目のトライが奪えなかったのは、主将が「直接的な敗因」と述べたペナルティそして精度という想定外のポイント。それが、分かったことが開幕戦の収穫だ。

 今日、ピッチで誰かが叫んだ。「これで全部終わったわけちゃうぞ!」

 グラウンドから引き上げ、競技場の外でのチームの全体集合。輪の中で、主将も力強く声にした。

 「俺たちが目指すのは日本一やし、リーグ戦を通じてまだまだ強くなれるから!」

 頂点を目指す闘いは、いま始まったのだ。下を向いている暇などない。

 リーグ開幕戦を控えた先週。週初めはどこか緩い雰囲気もあったが、ふと全体が引き締まったものに変化したという。その切り替えが出来るのならば。

 部員たちに問う。一発目の練習となる火曜日の朝、君はどんな顔でグラウンドへ来る。


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2012-10-11 00:10:27 | ブログ

関西王者天理大を崩すことはできなかった。昨リーグ1位の天理大との初戦。関学の5点リードで迎えた後半、前半にも増し試合は白熱した展開になる。お互いに一歩を譲らずシーソーゲームが繰り広げられた。だが勝負を決めたのは天理大だった。後半27分、3点あったリードを返され15―17と逆転負けを喫した。

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 終了間際まで勝敗の行方がもつれ込んだ大接戦の末、勝利を手にしたのは天理大だった。3点リードで迎えた後半26分、わずかなディフェンスの隙を突かれ追加点を許してしまう。なんとしても追いつきたい関学は、終了間際に自陣ゴール前からインゴールを目指したが万事休す。天理大がボールを外に蹴り出し無情にも試合終了のホイッスル。15―17で敗れ、初戦を白星で飾ることはできなかった。
 「風上に立った前半、もっと敵陣でプレーしたかった」と主将・藤原(商4)が語った前半はエンジンがかかるのに時間がかかった。開始早々に得点を許し、その後も自陣深くまで攻め込まれるシーンが続く。粘り強く守り続け、流れが変わったのは前半の残り時間が10分を切ったころだった。ナンバー8中村(社2)のトライとゴール成功、ペナルティーゴール(PG)でついに逆転に成功する。
 10―5で迎えた後半、最初のトライを取ったのは天理大だったがすぐさま関学も反撃し主導権を離さなかった。だが後半26分、強固だった関学のディフェンスの隙を突かれて天理大BKのパス展開を許し、15―17とされる。関学はリザーブメンバーを投入し総力戦で挑むも試合をひっくり返すことはできなかった。
 惜敗を喫した関学だったが、「ディフェンスからターンオーバーすることができたし、外国人選手を一発で止めることができたところもあった」と藤原はディフェンスに関する手応えを語った。敗れはしたものの確かな成長を感じさせた関学。さらなる進化を予感させる敗北であった。  


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2012-10-06 22:31:07 | ブログ

例年以上に話題に上る関学ラグビー部。今シーズン、上ヶ原の地に君臨した男の存在が、人々の視線を集め、期待を高まらせている。日本ラグビー界における歴戦の勇士、アンドリュー・マコーミックが、朱紺の闘士たちに薫陶を授けているのである。

 

■アンドリュー・マコーミック『赤鬼は、優しく微笑む。』
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 上半期に行われた大学定期戦での一コマ。試合後に両校の選手たちが、レセプションにて交流を深めるのは、いつもの光景。軽食とともに振る舞われるアルコールも、メンバーたちの気持ちを高揚させる。ついつい飲み過ぎたか、顔を真っ赤にさせた4年生部員が声を上げた。

 「これからは僕が赤鬼を継ぎます!!」

 高らかな宣言に周囲も大笑い。その姿を見て、コーチ陣がにやけながら、「こう言っているけど」と、一人の男に投げかける。振られたのは、おおよそ体格もがっちりとした、それでいて白い肌に、青もしくはグレーいや茶色か、何ともいえない澄んだ瞳で、その風景を見つめていた男性。ジャケットからのぞかせる首元には朱紺色のネクタイが締められている。

 男の名はアンドリュー・ファーガソン・マコーミック。交流ある者は彼を「アンガス」と呼ぶ。かつて桜のジャージを身に纏い、一国のキャプテンをも務めたラガーマン。舶来の闘将、激しいプレースタイルから、ついたニックネームは『赤鬼』。

 そう、いまの関学には鬼がいるのだ。

 「入るとは思ってなかったけどね」

 関西学院大学体育会ラグビー部ヘッドコーチ就任という衝撃的ニュースから半年。大学のグラウンドに併設されたスポーツセンターにて行なわれた1次合宿でのインタビューで、マコーミックHCはそう振り返った。3年前、当時トップウエストに属していたNTTドコモ・レッドハリケーンズのHCに就任してから、チームの本拠地が大阪だったこともあり、合同練習や練習試合で関学と接することがあった。胸を貸す立場から見て、そのときの大学チームの印象は

 「一生懸命やっているチーム。ゲームへの準備とかける時間、アップと組織の点が良かったです。

 ゲームになったときは、力・サイズの問題があったと。それでも良いプレーはあった。それを80分やるのは大変。やっているラグビーは悪くないが、ひとり一人の接点で負けていたかな」

 当時のイメージと、いま直接関わるなかでの実状とを刷り合わせ、丁寧に日本語を紡いでいく。

 「あと、若さ。ラグビーをやっている時間が、社会人はそれこそ10年くらいプレーして身体が出来ているから。けど、いま学生のなかでも1年生と4年生で身体は違う。1年生はまだまだ大きくなると思うし。徳永(FL=商2=)は4月と身体が全然違う。最初ガリガリだった(笑)。大学生はまだ身体が出来上がる、その最中ね」

 NTTドコモ、その前はコカコーラウエスト、と数多の社会人チームに指導者として携わってきたなかで、リーグ昇格といった輝かしい成果を残してきたマコーミック氏。その経歴において、学生のチームを指導するのは初めてのこと。これまでの練習の場で様々な大学チームたちと触れ合うことはあったが、そのなかで「印象が良かった」と話す関学に巡り合った。「社会人ラグビーをずっとやってたので。大学、面白いなと」。

 そこにあるのは『アンドリュー・マコーミック』というラガーマンを形成する、一つの純心。

 「チャレンジ、大好きです」

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 楕円球の王国から赤道を越え東洋の島国へと渡ったのも、ずばり新しい環境への挑戦だった。生誕の地は南半球のニュージーランド。祖父・父はともに母国の代表、言わずと知れた『オールブラックス』に名を連ねてきたという家系で生を授かった。受け継がれたDNAは、必然として黒衣への憧れを芽生えさせる。しかし、それが叶うことはなかった。当時23歳、クルセイダーズ(カンタベリー州協会)の主力だったマコーミックは代表選考(『オールブラックス・トライアル』という)にて落選。王国への条理において、挫折を味わったのである。「それから2回挑戦するも結果はだめでモチベーションも下がっていた」。彼は王国から飛び出ることを決断する。選んだ先は、日本だった。

 「海外でラグビーするときも、周りから色々言われたけどね。イタリアとかも選択としてあったけどそこはラグビーオンリーだった。僕自身まだ若いから仕事でもチャレンジしたくて。東芝が仕事とラグビーの両方が条件だった。その形は日本だけ。面白いな、と」

 母国ニュージーランドを始め、楕円球が文化として刻み込まれている環境に敬意を払いながらも、それだけではない、一人の人間として成長する道を選んだのである。

 東洋の地に降り立った彼はここから日本ラグビー界において輝かしく確かな足跡を残していくことになる。96年、社会人リーグの東芝府中に入団。1年目は規則により公式戦に出ることは出来なかったが、2年目からは晴れて出場へ。この年、チームには強力なBK陣が揃い、「メンバーが合った」と話すマコーミックもCTBとしてその一角で活躍を見せる。果たして、それからの東芝府中の日本選手権3連覇に貢献。社会人ラグビー界における一時代を築くとともに、自身はさらにその上のステップへと進む。99年のW杯にむけて結成された、かの〝天才〟平尾誠二氏率いるジャパンのキャプテンに任命され国際試合を戦うことになったのである。それは日本ラグビー史で初の出来事だった。

 国の代表とは、ラガーマンとして目指す高峰。彼が手にしたのは、黒一色に銀のシダが縫われた王国の装束ではなく、紅白のストライプに桜のエンブレムが刻まれたジャージだった。それでも、マコーミック氏は断言する。

 「ジャパン代表のキャプテンをやれたことは、すごい誇り。生まれたときから、お祖父さん父親がオールブラックスで、まわりはみんな自分を知っている環境でした。けど、日本は誰も自分を知らない世界だった。自分が変わらないと、と思ってラグビーを続けた結果だったから」

 その後、2度の引退を経て日本ラグビー界には、それまでと違う立場で関わっていく。母国に帰省しながらも、飛行機で通い続けたコカコーラウエスト時代は臨時コーチとしてチームのリーグ昇格に貢献。続くNTTドコモの監督就任にあたっては、家族ごと日本へ住まいを移し、こちらもリーグ昇格を遂げた。チームを次のステージへと押し上げる功績、人は彼の背中に『勝利請負人』の肩書きを見た。

 あれから3回ものW杯が開催され、2012年、マコーミックは次なる指導の場に全くの新天地を選んだ。関西学院大学、大学生というカテゴリー。

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 「常に見られている環境というのは大きいです」

 マコーミックHC元年、主将を務める藤原慎介(商4)はその影響力をそう話す。ある種の伝統でもあった、関学独自の「学生主体」の体制。フルタイムで指導にあたる存在はこれまでいなかった。新しいHCは、それを埋めるピースとなった。それも、とてつもなく重要な。

 「4回生だけで進めていくと、甘えが出てきてしまったり。下の学年の子も、ゆるい気持ちが。フルタイムでいてくれることで、引き締まって集中できている。

 説得力があって、言うことがチームに入ってきやすいです」

 常に近くにいて、自分たちを見てくれているという存在は、やがて信頼を生む。信頼があるこそ、練習メニューやメンバー選考にも納得がいく。この春、早くからチーム内で意思統一が成されていたのも、この環境が与えたものが少なからずあるはずだ。

 藤原組で構築された新しい体制は、絶対的信頼のもとで回っている。むろんベースは学生たちの意思。取り組むメニューは、週初めの火曜日に監督、HC、そして4回生の幹部で話し合われる。そうして火曜日の昼には4回生と下の各学年の幹部に、そこからチーム全体へと落とし込まれていく。跳ね返ってくる学生たちの意見も取り入れながら、練習メニューを考えていく。マコーミックHCも、メニューの意図をきちんと伝え、指示を出す。「アンガスさんを信じて。チームの方針を、迷いなく進めていけてる」と主将は全幅の信頼を語った。

 半年間で、それほどまでの関係を築けた理由とは。その人が持つオーラも、もちろんあるだろう。ラグビーに通ずる者であれば、一度は聞いたことがあるビックネームだ。だが、いまの学生たちにとっては「アンドリュー・マコーミック」の現役でプレーする姿というのは、おそらく物心がついたばかりの頃になるはず。実際、高校からラグビーを始めた藤原も「凄さは知らなかった」と漏らす。

 「学生のHCをやるのは初めてだから、今までと同じやり方では困るね。選手たちの気持ちと僕のやり方、その2ウェイを合わせて」

 そのために、何よりも大事にしているのはコミュニケーションだとマコーミックHCは話す。遡れば、彼が日本のグラウンドに降り立った際も、最初は言葉の壁が立ちはだかったという。しかし「会社だったり、遊んだりで一緒の時間を増やした。話すのを見るだけで覚えていくしね。あ、日本の彼女にアタックするためにも日本語を覚えたよ!(笑)」。

 同じ時間を過ごしていくなかで、必然として会話が生まれ、濃密な関係へとつながっていく。ふとしたグラウンドでの一場面、部員たちに愛称で呼びかけ、話す姿があった。SO土本佳正(社4)には「ツッチー!」との具合で。

 総勢150人超の部員を前に「時々、名前が出ない」と罰が悪そうな表情を見せたが、親指を立てた。「でも、覚えています。彼らをニックネームで呼んで。僕が来てから4ヶ月一緒にいるからね」。さしずめアンガス流コミュニケーション術といったところか。

 そこから、欲しいのは部員たちからの働きかけだとマコーミックHCは語る。「自分の思うことは言って欲しいし、どんどん言ってくれたら。私たちチームなので。毎日練習で合うし、僕も事務所にいるので。壁が無い、ノーウォールで。けど、僕の変な日本語で困らせているかもね(笑)」。

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 コミュニケーションの大切さを説かれた一人に副将の安田尚矢(人福4)がいる。

 「常に取れ、と言われています。副キャプテンは、チームとして何をせなあかんかを一番分かっとかなダメなポジションで。とにかく言い続けなあかん、と。

 プライベートでもアンガスさんとコミュニケーションを取って、『ヤスの思っていることを話して欲しい』と。

 すごい頭の柔らかい人ですよ。メニューも『僕はこれが良いと思うけど、どうかな?』って、その理由も詳しく言ってくれる。学生ならではの意見もこっちから言うし、それに同調もしてくれる」

 双方のベクトルが交差し、一つの大きなベクトルへと変わっていく。「自分の考え方だけでは、ね。教えられる技術面とそれ以外のとこはスタッフと話して、聞いて考えて良い方法で。スタッフのサポートが無いと困ります。

 選手だけで125人いて、組織面はすごい難しいけど、僕もまだまだ勉強中。色々とやり方あるね。毎日が楽しみ」とHCは目を輝かせた。

 これまでと違った、新しい環境に身を捧げている。社会人から学生へ。かつてはトップリーグ昇格を託された。今回は、日本一。それでもコーチとして果たす責務は変わらない。それは「状況も環境も違うので、比べられない」ものではあるが、勝利の先に目指す結果があり、結果のために目の前の勝利があるという定理は不変だ。

 いま関西学院大学ラグビー部の置かれている環境にも、さらに良くすべき点があるという。だからこそ「結果が出せば変わるかもしれないし、結果を出すためにも変わることが必要。どっちの考えもあります。まだ日本のトップ4にもなってないからね」

 勝利請負人の看板を背負っている以上自らの使命をはっきりと胸の内に宿している。「本当に毎日が大事。僕自身が、大学のコーチとしてどこまで伸びるか、を考えている」。

 アンガス効果は確かに存在している。ラグビーのスキルを始め、チャレンジ精神、コミュニケーションの重要性、学生たちが学べることは多い。そして、ラグビーをプレーするうえで欠かせないものがある。それは、ファイティングスピリットだ。

 ジャパンを経験した者が語る、その台詞のなんという重さ。「テストマッチは、いつもとは違う気持ちが必要。絶対負けない、というね。相手も同じ気持ちでくるから。

 学生たちにも勝ちたいという気持ちはあると思う。勝つ為にやっているという選手の気持ちが大事なんです」。

 死に物狂いで勝利を目指すという気持ち。その闘志のエッセンスを、指導するチームに、もたらしたい。

 関学にも? 「作りたいな

 そう口にしたときの目の鋭さ。これが、赤鬼と呼ばれた男の瞳か。マコーミックHCは静かにうなづき、口元を緩ませた。鬼の微笑み、そこにスケールの大きさを感じた。

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rugby

2012-10-03 22:08:05 | ブログ

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月25日、ホテル阪神で10月7日に開幕するリーグ戦に先駆けてプレスカンファレンスが行われた。各大学の監督や主将が一同に会した。


 シーズン開幕を前に行われたプレスカンファレンス。関西大学Aリーグに所属する大学の代表が集まった。関学からは主将・藤原慎介(商4)と萩井好次監督が出席し、リーグ戦への抱負を語った。
 開幕戦の相手は天理大。天理大は一昨年、昨年と関西王者に君臨している。さらに昨年は全国準優勝を果たした。圧倒的な力を見せた天理大だがレギュラー9人が抜けた今年、どれほどの実力があるのか未知数である。しかし今後に勢いをつけるべく、互いに白熱した試合になることは間違いない。「どれだけFWがプレッシャーをかけていけるか、組織的なディフェンスができるかが鍵になる。ロースコアに抑えて勝ちたい」と藤原は天理大戦に向けて意気込みを語った。
 10月7日、いよいよリーグ戦が開幕する。3年振りの関西の王座奪還を目指す関学。そのためにも天理大との初戦は落とすことはできない。関西の頂点、そして日本一を目指す藤原組の戦いを見逃すな! 

藤原主将
 昨年は関西5位という結果に終わりましたが、今年アンドリュー・マコーミックさんをヘッドコーチに迎え、しっかりとディフェンスの整備ができたと思います。15人全員がひたむきなディフェンスをし、1試合1試合を勝ち取っていきたいです。

萩井監督
 春はディフェンス強化、夏はアタック中心に取り組んできました。今年のチーム目標は大学日本一。ですがまずは初戦の天理大学さんに胸を借りるつもりで挑みたいです。