Tedのつゆ草の旅

母校関西学院ラグビー部とアメリカンフットボール部の試合を中心に書いているブログです。

関西学院ラグビー部プレイヤー外伝

2015-10-01 22:13:47 | ラグビー

常に訴えていた。試合中も黙り込んでしまうチーム状況に危機感を抱いたから。そうして迎えたリーグ開幕戦。副将・石松伸崇(商4)が鳴らし続けた警鐘は本番で—勝利を呼び込む号令へと変貌を遂げた。


■石松伸崇『覚悟が結実した開幕戦』
 

 

 

 

 


 先のラグビーW杯で日本代表を愛でたような勝利の女神がいるならば。おそらくこの日、ここ花園でもラグビーの神様は見定めをしたのだろう。


 『関西全勝優勝、打倒関東』を掲げるチームが、果たしてそれに足るかどうか。試合も残り時間15分、関学ラグビー部『徳田組』は試されていた


 リーグ戦開幕を数日後に控え、野中孝介監督は「タイトな試合展開になる」と踏んだ上で、懸念されるこれまでの傾向をこう話した。


 「うまくいっているときは良いけど、きつくなったときに声をかけられるメンバーが少ない。キャプテン、副キャプテンはやるけど、それ以外が足りない。経験してないぶん、リーグ戦のなかで成長してくるかなと」


 それはこの春先から見られたチームの影の部分でもあった。ひとたび失点をすれば、たちまち消沈ムードになってしまう負のスイッチ。春シーズンのとりわけ序盤の黒星を喫した対外試合では顕著だった。


 徐々に意識が変わったか、慶應義塾大戦ではリードされても実のある内容を見せていた。しかし強化をにらんだ夏の菅平合宿でチームはまたしてもピッチ上に影を落とす。合宿を締めくくる東海大Aチームとのラストマッチ。早々の打ち合いから一転、次第に相手がペースを掴み出すと足取りは重くなり、目に見えて士気が減退していく。大差をつけられての敗北に、試合後の全体集合では重苦しい空気が流れる。LO小林達矢(経4)の嗚咽だけが耳をついた。


 リーグ戦まで残り1ヶ月の時点で、徳田組は抱える弱点を拭えずにいたのである。



 その声を聞いたのは春先、5月5日の関学ラグビーカーニバルの試合後だった。メインカードの天理大戦を振り返るなかで、副将の石松は口にした。


 「去年はFW8人全員が試合中もしゃべってた。今年は静かですね点を取られたり、やられたら落ち込んでいく。うるさいくらい、しゃべっても良いと思うんです」


 最上級生たちがトップチームにずらりと並んだ昨年。FW8人のうち7人が4回生というラインナップも常であった。一つ下の学年ながらもスタメンに食い込むことがあった石松は、トップチームのメンバーが持つべき姿勢を学ぶ。


 「FWもリーダーがいっぱいいたんです。井之上亮さん、竹村俊太さん、ガンテさん、ムネオさん」。そこで見た風景をしかと心に刻んでいたからこそ最上級生になった今年は、フィールドに立つまわりのメンバーたちへも当然に求めた。


 「下のチームも含めて選手が多くいるなかで、Aチームはそのポジションで一番認められた者が立つ場所。ひとり一人がリーダーとしての意識を持っていいのだと」


 むろん副将、トップチーム経験者、そしてピッチ上のリーダーとして。石松自身も「うまく自分が引っ張っていけたらと思います」と誓いを立てていた。


 だが、メンバーたちに総じていえた経験値の低さゆえか、改善には時間を要した。やがて夏合宿へ。8月27日の東海大戦後、石松はFW陣の強化に早急に手を打つことも含めて危機感をコーチ陣に訴えていた。


 いまにして思えば、このときにもたらされたショックが、転機だったのかもしれない。その1ヶ月後、石松はこう証言することになる。


 「今となっては、あのときにボロボロにやられたのが良かったのかも。野宇(倖輔/経3)ともスクラムのことを真剣に話し合いましたし達矢も泣いてましたね

 あれがあって気が引き締まったのかなと。やらないといけないという覚悟が出来たんだと思います」


 9月27日、関西大学Aリーグ開幕戦。残り時間も15分を切ろうかとしたとき、徳田組は立命館大に逆転を許す。電光掲示板には「1417」のスコアが表示されていた。



 前半を1410の4点差で折り返し、そのまましばらくスコアは動かなかった。ハーフタイムでは敵陣のプレーすることを共通認識としたものの、なかなか侵入できない場面が続く。そこから喫した失点だった。


 後半も半分を過ぎた時間帯で許した逆転。だがピッチにいるメンバーたちはその場で失点の原因を明確にし、修正を施した。ミスを無くしていこう、と。


 それは攻撃の面でもいえたことだった。それまで過ごしてきた時間自体は自分たちのペースだった。幾つもあった決定機を逃したのは、結局は自分たちのミスによるもの。


 そのペナルティからゲームが再開される際のスクラムで、石松はFW陣が発する熱を感じ取っていた。「言うんですよね、スクラムにしても『練習の方がキツいで!』って。しーんとした時に、岡部や野宇、須田が声を上げるんです」


 後半の最中に石松は腕を負傷しドクターから処置を施される場面があったが、そんな副将の代わりと言わんばかりに野宇や須田(悠介/文3)らがチームを引っ張る姿勢を見せたという。


 「その姿が見えて。頼れる後輩たちです。

 めちゃくちゃ成長を感じましたよ! 今年入って初めてだったと。FWの声が途切れなかった」


 FW陣を中心に熱をまとい、プレーひとつ一つに思いを込めれば。試合にあたって『走り切っての80分間勝負』と胸に留めていたように、チームは再びフィールドを駆けていく。逆転されてから10分後、敵陣に侵入すると最後はSH山戸椋介(社4)がトライを決め、リードを奪う。試合はそのまま80分を経過。6分とアナウンスされたロスタイムにスタンドは騒然とした。


 2117のまま、時計の針はノーサイドへむけ刻まれていく。フィールド上では決死の攻防が繰り広げられた。ボールをキープしていたチームは『攻め続けること』の意識を持ち、リードを守る。最後は相手にボールを委ねたが、修正された防御網をしきゲインを許さない。やがて笛が鳴り、徳田組はオープニングゲームを白星で飾った。


 後半77分に交代した石松はベンチからロスタイムの攻防を見ていた。


 「あそこで守り切るチームと、取られるチームとでは全く違ってくる。今までだったら取られていた。

 最後は信じるしかなかったです。ずっとそわそわしてました(笑)」


 ベンチに腰掛けたと思いきや、次の瞬間には立ち上がり叫ぶ。心中穏やかではなかった副将は、頼れるピッチ上のメンバーたちを信じ、果たしてノーサイドの瞬間を迎えたのであった。



 リードされてもなお、自信はあったのだという。それまでの間、攻めることは出来ているという確証を持っていた。しかし、石松自身もそうであったように、細かなミスがチャンスを逃していた。おそらくはビックゲインにつながっていただろう、WTB中野涼(文4)との連携ミスもあった。


 「そういうとこの甘さも、ですね。本来なら、そんなに競る試合では無かったと思いますから。精度もしっかりしていけたら」


 反省を受け止めた石松だったが、ただそこに至ったプレーそのものは彼の強みが発揮されたものだった。この日の試合ではブレイクダウンでの動きにこだわっていた。それでも後半に臨む際、中学生時代からの旧知の仲である同期の村田賢大(経4)から檄を飛ばされる。


 『とにかくボールを持て、お前の強みはそこやから』


 相手の防御網を突破することは、かねてより自らに課している役割だという。そうしてボールを持つことを意識した後半は、幾度とゲインを果たした。


 「抜いてから、どうするかをこれからは意識していきます。ゲインラインを切るのは当たり前、そこからつなぐことを当たり前に。どうボールを動かすか、を」


 自身のレベルアップを誓い、また石松は次節をにらむ。開幕戦でチームは進化した姿を見せてくれた。変革を訴え続けたFW陣は本番にて覚醒した。


 野中監督は部員たちに説く。「リーグ戦で成長しないことには、その先の関西全勝優勝は無い」と。目指す頂にむけて立ちはだかる7つの壁の、まずは一つ目を打ち破った。


 「立命館大戦以上の試合をしないと勝てないと。どんどん成長していきたいと思います」(石松)


 闘いは始まった。その手、その足、そしてその声を、止めるなかれ。




関連リンク

▶石松伸崇プロフィール