Tedのつゆ草の旅

母校関西学院ラグビー部とアメリカンフットボール部の試合を中心に書いているブログです。

rugby

2011-03-12 14:02:43 | ブログ

見つめるものは〝頂〟ではない。その前に立ちはだかる、そして、これまで打ち砕けずにいる〝壁〟を破ること。それが目標。その先に、頂に通じる道があると考えている。新たなスタートを切った関学ラグビー部、『新里組』を率いる者たちの所信表明。
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 2月5日、関学会館で行われたラグビー部納会の壇上で新里涼(社4)は大勢が見つめるなか口を開いた。主将として公に語る初めての言葉。それはどこか謙遜気味に、それでもしっかりとした口調だった。

 「驚かれて不安な思いを抱かれたと思いますが、期待に応えられるように頑張ります。

 (目標は)国立出場、ジュニア・コルツの全勝優勝。

 自覚、責任、感謝の気持ちを持って取り組んでいきたいと思います」

 新里組が掲げた目標は、例年とは異なるもので、新鮮であった。

 国立出場、つまりは全国ベスト4。全国制覇が山の頂上とすれば、それは2合手前と言おうか。去年一昨年のチームは『日本一』を、歴史が変わった3年前の室屋組が『関西制覇』(標高は違えど、関西リーグという名の山の頂上)を掲げたのとは違う。

 頂点が目標ではないのか? その真意を新主将に尋ねてみた。「国立出場」に定めた理由を。

 「ここ2、3年瑞穂で負けてるのがあって。そこを越えないことに日本一も見えてこない。そこの壁を越えることが先決。ここ2年間のチームの目標は『日本一』だったけど、みんな見えにくかったと思う。まだまだ雲の上の存在。『国立出場』だと、みんな見やすいかなと」

 いまだ朱紺の登山隊がたどり着いたことのない「てっぺんの2合手前」。関学ラグビー部にとって、頂点より先にクリアすべき場所があるとすれば、そこしかない。むろん、避けては通れない場所でもある。

 だから、あえて目標をそこに定めた。単純に下方修正の意味合いなど微塵もなく、むしろ〝現実的〟に捉えた決意に表れ。

 根底にあるキーワードは、「3年連続」と「瑞穂」だ。関西のトップクラスに位置するようになった一方で、それでもなお全国の舞台では3年連続で2回戦敗退を喫している。その事実を踏まえた上で新里は変化をチームに促そうとしている。

 「『キックでエリア取って、モール』で結果出してきたけど。ある程度は結果は出るけど、瑞穂で負けている以上、何かを変えないといけない」。そこでポイントとなってくるのは。

 「BKがもっと成長しないとダメかなと。BKで展開してそういうラグビーが出来たら」

 立ちはだかる壁、浮き上がる課題と真正面から向き合う。短所是正によって、目標に到達しうる関学ラグビーとなれるか。そこが、新里組の1年の見所になる。

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Kwangaku sports

 その新里組を率いるは新里と副将・小原渉(人4)。それぞれのラストイヤーを、スローガン『challenge』のままに過ごす覚悟でいる。

 新里涼にとっては最後の1年が勝負の1年でもある。入部当初から戦力として期待されたが、1年目のリーグ戦序盤で大怪我による離脱を余儀なくされた。そこから完全復帰に長い時間を要した。

 「つらかったスね。半年から1年間はラグビーできないって言われたときは、かなり落ち込んで。くさりかけたことも。怪我をしたことで、ラグビーを当たり前に出来ることが幸せなんやと考えさせられて。いい経験になった」

 3年目の昨年、怪我から完全復帰し、ようやく万全の状態でシーズンをむかえることが出来た。大学生活の半分を棒にふるったという過去は、良くも悪くも響いた。リーグ戦を前に「プレー経験はあって、ないようなもの」とこぼしたこともある。

 初めてフルシーズンを戦いぬいた3年目を新里は、こう述懐する。

 「春からずっとAチームで出させてもらう機会が多くて。最初はがむしゃらにラグビー出来てたかな思うんスけど、プレーで悩みとか増えて。Aで出てていいんかな、とか。思う必要ないとは思ってても、メンタル弱いんで。遠慮しがちなシーズンやったかなと」

 普段のおだやかな性格がゆえか、経験の浅さからか、ときに闘争心がくすぶった。「去年は何もチームに貢献できず」という思いがあるからこそ、ラストイヤーへの気持ちは高まる。就いた主将の重責も、自身をかきたてる好材料になる。

 「(主将に就くことは)かなりプラスになると思います。気持ちの面とか、ついてくると思うんで」

 新里にとって、おそらく4年目のシーズンはこれまでとは全く違うシーズンになるだろう。いや、違う1年になるように彼自身が歩を進めるに違いない。

 「いままでの自分とは変わるために。すべてのことに挑戦します!」

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緑川組のなかで、ひと際インパクトを残したプレーヤー。決してオフェンスシブではなかったチーム状況のなかで、トライを量産した男。小原渉が副将に就いた。小原の名を冠するリーダーの継承だ。

 「兄貴がキャプテンしてて、大変そうなのを近くで見てて。ぼく自身がキャプテンになるのもあったけど、支える立場になりたいなと」

 ラグビーを通じて小・中・高すべてで副キャプテンに就いた経歴を持っている。そうして大学でも、その道を選んだ。

 その副将に「すごいプレーヤーなんで、プレーで引っ張ってもらったら。みんなもそれを期待してる。思いっきりやってもらいたい」と主将は期待を寄せる。ポジション柄のアグレッシブさから、自然とプレーで牽引することが望まれる。小原自身は、いかなるリーダー像を描いているのか。

 「涼がプレーで見せる、ひたむきさとかで引っ張るタイプ。自分は声を出したり涼が出来ないことを補えたら。逆のスタイルで」

 新里組の主将・副将はどちらも、〝体を張れる〟タイプ。ま逆な点を挙げるなら、「声を出す」如何。物静かな新里と対照的に、小原は声を張り上げ鼓舞する。

 小原のそのスタイル血は争えない。『小原』の名の持つリーダー像。2年前のラグビー部主将、兄・正(社卒)を彷彿とさせる。兄はレギュラーに選ばれたときから、学年に関係なく、試合中は声を出しメンバーを盛り立てた。「練習のときでも声を出してくれてた、頼れる存在。みんなを引っ張っていける存在でした」。小原組のなかで頭角を現した弟・渉はシーズン最終戦で兄の姿をこう話していた。

 関学2年ぶりのリーダー『小原』のキャプテンシーに注目が集まる。その一方で、見逃せないのがトライゲッターとしての存在感だ。

 昨シーズンは不動のナンバー8として君臨。出場しては、公式戦全試合トライを記録し気を吐いた。かねてより目標に挙げているOBの西川征克(文卒)に、昨年の活躍で近づいたのでは

 「いや~まだまだ。たまに自分が2年のときの試合見るんスけど(敵わない部分は)ほとんどじゃないスか」

 毎試合トライを奪ってもなお、目指すところは上にある。チームを率いる副将として、チームを代表するトライゲッターとして。小原の4年目は自らの役割をまっとうすることに尽きそうだ。

 「国立に行きたいんで。関西で全勝優勝して、瑞穂で勝ちたい。そのためには毎日の練習とかも変えていかないといけない。質を変えていきたい。

 個人的には征克さんに近づけるように頑張ります!」

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憧れの国立へむけ熱っぽく語る主将と副将。だがチームの目標はそれだけではない。「国立出場」に加えて
「ジュニア・コルツの全勝優勝」。ここに、例年とは一味違う新里組のスタンスが感じられる。

 Aチームが関西大学Aリーグを戦うと同時期にジュニアリーグも幕を開ける。その下のコルツチームも各大学と総当りで戦う。リーグが始まれば星取表を意識するが、チームの目標として取り込み、なお大々的に掲げたのは例年にない試みだ。

 その狙いは、学生主体ゆえのチーム一丸になることにある。

 関学ラグビー部の大所帯ぶりはとどまることを知らない。そのなかでパフォーマンスの高低、怪我による戦線離脱、精神面の温度差部員の数だけ様々な思惑があり、1つのグラウンドに入り混じっている。同じベクトルを向くことは難しい。

 常につきまとうその状況の打開策、それこそが新里組が打ち出したスタンスだ。100人超の全部員の目指す場所があるその方針を具現化する役目を、主務の松村宜明(法4)は任された。新主務は語気を強める。

 「下の子らが目標をあきらめないために、場を用意してあげる。雰囲気だったり、当たり前のことを大事に。つきつめていきたい」

 自らもプレーヤーとして活躍することを長年夢見ながらも、2年生次にスタッフとしてチームを支える道を選んだ。周囲に支えられていることを実感し、サポートに全力を出す。

 マッチメイクも然り。「今年も練習試合とか力入れたい。最初から最後までしっかり」

 ときおり日本一への思いを漏らしながら、責務を果たすべく奔走する。

 「がむしゃらに。口だけじゃなくて、ひとつ、芯が通ったことをやって表現していくことが大事かなと」

 その姿勢がぶれることはない。

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Kosuke Sakaguchi

 すべてのカテゴリーの選手に目指すものが与えられている。トップチームは国立の舞台、ジュニア・コルツには無敗での優勝。たとえレギュラーから漏れたとしても、下位チームから抜け出せなくとも。明確な目標があるから、戦う理由がそこにある。

 小原は話す。「学生主体でやっている。だから、一つにまとまっていかなきゃならない。上下関係なく、目標を達成するために挑戦する」のだと。

 新里組のスローガンは『challenge』。そして部員の誰が言ったか、その文字のなかには『change』の意味が込められている。

 「ベスト8の壁を破るためにも〝挑戦〟を。関西制覇も逃しているので、取り返すためにも。

 いままでと一緒なら、一緒の結果に終わる。何かを変える必要がある。BKもFWも、ひとりひとりが〝変わって〟、〝挑戦していく〟」(新里)

 変革のための挑戦。新里組が挑む戦いは、関学ラグビー部史を大きく変えるそんな予感を漂わせている