掲げた目標は、昨年以上の成績を挙げること。昨シーズンは一つの頂に立った。背負う看板に、周囲からの比較の目も、今年のチームには注がれる。主将・徳田健太(商4)らの言葉で紡ぐ、2015年シーズン前半の戦闘譜。
■徳田組『ネクストレベルへのステップ』
これまでに関学ラグビー部が刻んできた歴史を鑑みて、野中孝介監督はこう説いたことがあった。
「関西制覇を達成して、その翌年も優勝もしくはリーグ上位につける。そして、ずっと大学選手権に出続けられていること。そのことは大事にしていかないといけない」
2014年度、チームは関西全勝優勝を命題に、果たして戴冠を遂げた。5年ぶりとなる『関西王者』の看板がかけられ、臨む翌シーズン。新チーム『徳田組』が掲げたのは「関西全勝優勝」そして「打倒関東」だった。
リーグ戦では無敗も、全国の舞台では一つの白星もつけられずに終わった昨季。それを超えることを使命とした。
ただし、頂への登山道は裾野から厳しさを伴った。昨年の『鈴木組』はそれこそ下級生次からトップチームを経験してきた面々が並んでおり、黄金世代が存在を示したシーズンであったことは明白。新戦力のプレーヤーの台頭は見られたが、当時の中心選手が卒業したことで今年の顔ぶれは大きく変わった。そのことを、他でもない今季の上級生たちは意識していた。主将に就いた徳田は「自分らの代でゼロからのスタートになる」とハッキリと口にした。
むろん、自分たちのラグビーを作り上げることへの〝スタート〟の意味合いも含んでいただろう。自陣からでもボールを継続しリズムよく、かつ粘り強く攻め込むスタイルを昨年は実行した。今年はそれに加えてキックによる陣地獲得を手段として増やし、徳田いわく「蹴る判断もパスの判断も求められる、去年よりも考えるラグビー」を目指している。
シーズン初戦は4月19日、対するは京産大。前半は拮抗も、後半は連続トライにくわえ相手の攻撃をゼロ封(52—19)。走り勝つという前年度の強みも継承され、初陣を飾った。
「内容は良くなかった」と主将は辛く口にしたが、この時点では春の一発目。長所も欠点も明るみになってしかるべき。だがチームはここから混迷を極めることになる。
同志社大に黒星を喫すると(4月25日/31—45)、近畿大を相手には「攻めるたびにターンオーバーを許し、カウンターから失点」し敗北(5月17日/35—52)。5月5日の関学ラグビーカーニバルの天理大戦は市橋誠(商2)の活躍はあれど、全体を通して見ればなす術無く終わった内容だった。
その試合後に副将・石松伸崇(商4)は激白した。
「徳田がね…投げる相手がいないと言ってるんです」
ポイントが生じれば何度も顔を出し、ボールをさばき、攻撃にリズムをもたらす。一年生次からトップチームの『9』番を着け、この3年間つねにチームのタクトを振るって来た。
徳田が漏らした嘆き。改めて本人に聞いてみた。
「今年は新しいメンバーで臨む試合も多くて。なかなか良いアタックが出来てない。FWの形だったり、シェイプだったりが上手くいってないですね。
こっちに合わせてもらうくらいに、どんどんFWに要求していきたいと思います」
フィットネスしかり、個々の強さしかり、前年度を基準として見れば確かにそれらは上がっているという。走れるし、強さも伴っている、ただしピッチ上で昇華されていない。
徳田組が抱えるウィークポイントとは。その答えの一つは、主将が口にした「新しいメンバー」という台詞にあるだろう。
新戦力を交えて臨むぶん、その彼らには大学トップレベルでの経験値が少ないのである。
オープン戦とはいえども、対するはAチーム。激しさやプレッシャーも異なり、勝負所の見極めも求められる。フィールドに立つ誰もがリーダーシップを発揮し声を張り上げチームを鼓舞する必要がある。
しかし今季のチームでは、それらを体現できる者が限られている。「点を取られたり、やられたら落ち込んでいく。うるさいくらい、しゃべっても良いと思うんです」とは石松の証言だ。
春シーズンゆえに、セットプレーの精度、選手ひとりのフィールドプレー、チームの連携面も発展途上なのは当然。けれど、それ以外に備わるべき点が不足がちなのは、経験不足も一重に関係してよう。
関学ラグビー部の長年の課題である、試合の立ち上がりの部分で先手を打たれてしまうことも。「相手の様子を見てから、それで〝受けて〟しまうのが悪い部分」と徳田は言う。
自分たちのリズムでプレーし、試合のペースを早々から握ること。そのために必要なのは日々の修練であり、そこで築かれる自信。
「自信をつけていくには時間もかかるけど、そんなことも言うてられないんでね。個人の自覚とか、それこそ4回生がどれだけラグビーに取り組めるか、とか。まだまだ甘いんじゃないかと。
焦りは…無いことはないです。ベストゲームというか…うまくいってる試合がここまで無いんで。練習でもすごい良い練習が出来る日と、落ちてしまう日があって。
早い段階から取り組めるようにならないと、危ないんじゃないかと思います」
白星が遠のき春シーズンも半分を消化した5月。主将は焦燥感と危機感を隠さずに、しかし翌月に迫るファーストジャージを着用しての連戦に気持ちを向けていた。
「関東の大学との試合だったり定期戦があって、これまでの練習試合とは意味合いも違ってくるんで。アンガスとも話してて、絶対に勝ちにいこう、と。これからは勝利という結果が大事になってくるので、そこにこだわって戦っていきます」
上半期の最終月。6月7日の京都大との定期戦を皮切りに、徳田組は4週間連続でファーストジャージを着用した。
京大戦では4回生を中心としたメンバー編成で臨み、「タフチョイス=辛いことに率先して取り組んでいく」テーマを、それこそ4回生たちが徹底させる。一つの被弾も許さず、一方で最後まで走り切り圧勝する。(97−0)
翌週は神戸大との交流戦(79—12)に加え、兵庫県フェニックスラグビーフェスティバルのメインカードとして慶応義塾大と対戦。リードこそ奪うことは出来なかったが、一進一退の攻防を演じてみせる。バックス陣の妙技が光り、また大型新人FL野村祐太(社1)のトライなど見所の多い試合だった。(12−33)
6月も下旬に入り、朱紺の闘士たちは関東の地へ繰り出した。21日は青山学院大との定期戦。新しいグラウンドのこけら落としとなった一戦は、徳田組がペースを離さず。FW、BKがともに強さを見せ敵地で白星を掴んだ。(45−14)
春シーズン最後の対外試合は27日の関東学院大戦。ニッパツ三ツ沢スタジアムのスタンドでは相手チームの部員にくわえ地元のラグビースクール生からの声援が飛び交い、まさに「カントウ一色」の気配。
そんなアウェイのムードが影響してか、こちらカンガクは持ち味を発揮はするものの得点を重ねることができない。試合時間も残り10分を数え、リードを許す厳しい展開となる。
「受け身になってしまう…課題です。アウェイだったことも余計にそうなったかも。気にしないつもりだったんですけど。
いける感覚はずっとあったけど、試合を通じて、はがゆい感じでした」(徳田)
敵陣で攻撃を仕掛け、残り時間もわずかのところで途中出場の山田一平(商2)が逆転のトライを決めると、ロスタイムで野宇倖輔(経3)がとどめの一撃を見舞う。劇的な勝利で、春シーズンを締めくくった。(35—24)
新幹線での移動が伴う2週連続での遠征という例年とは違ったタイトなスケジュールだった。「疲れや試合への入り方、修正しきれなかったとこはある」とは主将の振り返りだが、「大学選手権では、そんなことも言ってられない」と語気を強める。この経験が活かされる場面が半年後には訪れることは、あり得ない話ではないだろう。
〝結果にこだわった〟6月はトップチームのメンバーもほぼ固定されていた。シーズン当初から培った経験を最もフィールドで昇華できる顔ぶれが揃った。右へ左へテキパキとボールが回されるパスワークも、春シーズンを通して磨かれた部分だった。
「ペナルティでボールを獲ったら、すぐゴールにいくことだったり、動く意識はあるので。他大学に比べて身体が大きくないぶん、相手のいないところを見極めてボールを動かして」
関東学院大戦後に主将は、目指すスタイルを実現できつつある確かな実感を語った。だが、まだ物足りない様子。それは、この試合で徳田自身がボールを持ち突破を図ろうとする姿勢が幾度と見られた点について。
「極力、持っていたくはないです。けど、人がいないんで、結局行ってしまう。
あいにく自分が警戒されているんで、もうちょっとランナーがいてくれたら、もっと上手く使えると。そこは夏合宿で確認していきます」
コンバートによる化学反応も、ニューフェイスの台頭も見られた徳田組の春シーズン。背中には関西王者の看板が掲げられているものの、今年は今年ならではの挑戦が待ち受けていた。
そこに立ち向かっていくための『伸びしろ』が、このチームを表すキーワードになるか。そして、この春の経験をさらに活かしていくことを。
「色んなメンバーを試して、選択肢も増えてきたと。そのなかでもAチームならではの厳しさだったり、逆に甘えも残ってたりするので、そこは経験した者がビシッと締めて。それを継続的に伝えていきたい」(徳田)
関学ラグビー部を一つ上の次元に押し上げるために。徳田組は経験を積み重ね、糧としていく。