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牧師の読書日記 

読んだ本の感想を中心に書いています。

3月5日(火) 「使徒的宣教とその展開」 C・H・ドッド著  新教出版社

2013-03-05 08:40:33 | 日記

 ドッドは20世紀の著名な新約学者である。本書は分量から言えば小さな神学書であるが、内容から言えば大きな影響を与えた書物である。著者は、初代教会の宣教者の伝えた福音の内容を、新約聖書全体にわたって検討し、いわゆるケリュグマ(宣教)の全貌を示してくれている。

 本からの引用。「新約聖書の記者たちは、「宣教」(Preaching)と「教え」(Teaching)とを明確に区別している。、、、、初代教会にとっては、福音を説くことと、道徳的教訓、あるいは奨励を述べることとは、決して同じ事柄ではなかった。教会は主の教えを伝達するのに熱心であったが、改宗者を作ったのはこの方法によってではなかった。神が人間を救うこととされたのは、「ディダケー」(教訓)によってではなく、「ケリュグマ」(宣教)によってであったとパウロは言っている。私たちは、使徒たちによって宣教された宣布された福音の実際の内容を、どの程度まで発見しうるかを検討しなければならない。」

 ケリュグマ(宣教と福音)の内容は何か。これに答えるのは本書の目的である。イエス・キリストの使徒の中で一番重要と言えるパウロが書いた手紙から得た「ケリュグマ」(宣教)の内容を概括するとこのようになると著者は書いている。すなわち、
 ・預言は成就された。そして新しい時代がキリストの来臨とともに始まった。
 ・彼はダビデの子孫より生まれた。
 ・彼は聖書に書いてあるとおり、この悪の世から私たちを救い出さんために死んだ。
 ・彼は葬られた。
 ・彼は聖書に書いてあるとおり三日目によみがえった。
 ・彼により罪の赦しが与えられる。
 ・彼は高きに挙げられて、神の子また、生けるものと死にたるものの主として、神の右に座している。
 ・彼は人類の審判者、また救い主として再び来るであろう。

 
 もう一人の重要な使徒ペテロの最初の4つの説教の内容は、用語と陳述の順序とがわずかに変わっているが、実質的にパウロの「ケリュグマ」(宣教)の内容と同一の立場をとっている、とドッドは説明している。また使徒的宣教はそもそもイエス・キリストの宣教内容に基づいているとしている。

 次に著者は「ケリュグマ」(宣教)の視点で共観福音書(マタイの福音書、マルコの福音書、ルカの福音書)を考察している。結論として著者が書いているのは、マルコが一番純粋にケリュグマの内容を拡大したものであり、マタイとルカは純粋な意味では福音ではなく、それは「ケリュグマ」(宣教)に「ディダケー」(教訓)を組み合わせていて、特にマタイは全体として見れば「ディダケー」(教訓)の要素がきわめて顕著であるという点である。

 これはとても重要な指摘である。すなわち使徒たちも明確に宣教と教えを明確に区別していたという点が、神学的にしっかりと説明されているからである。私は教会開拓をしたら、福音書から礼拝説教をしようと考えていたが、どの福音書から説教するかは決めていなかった。しかしこの本を読んで、私が説教する福音書は、マルコの福音書からであるという思いを強くした。