タッシリ・ナジェールは、アルジェリア南東部に位置するサハラ砂漠にある台地状の山脈。
トゥアレグの言葉で「水の多い大地」を意味する。
約3500年前は、現在のような砂漠でなく湿潤な土地であったと言われている。
長さ約800kmに渡る大地に1万点以上の岩壁画が点在しているという。
1933年フランスのサハラ駱駝部隊のブルナン中尉が偶然に岩絵を発見。
岩絵の年代は7000年以上も前に遡るそうだ。
「狩猟民の時代」には、キリンなども描かれ、サハラに緑豊かな時代があったことの証し。
「ウシの時代」には、人々は牛を飼い、歌や踊りを楽しむ様子が描かれている。
その後、サハラの砂漠化が進み「馬の時代」「ラクダの時代」へと移っていく。
近年、イララム過激派の活動が活発となり、地中海沿岸の地域はともかく、
アルジェリアの内陸部・サハラ砂漠の国境沿いの地域は、暫くは立入ができない状況にあった。
訪ねたのは2018年。
まだ、安定した情勢とは言えない状況ではあったが、漸く観光客の受け入れを始めた所。
航空機をカタール・ドーハで乗りついで、アルジェリアの首都アルジェへ。
早速、旧市街「カスバ」の散策に出る。
随分と昔に「カスバの女」という歌が流行ったことを思い出す。
「ここは地の果てアルジェリア どうせカスバの夜に咲く・・・」
自分の人生に悲哀を感じて、どちらかというと投げやりな歌と記憶する。
地中海に面した斜面に沿って、互いの建物が寄りかかるように立ち並び、
道は迷路のように曲がりくねる。
ここに一度住み着いたら、一生ここから出られない妄想に襲われる。
翌朝、空路でタッシリ・ナジェールの近郊の町ジャネットに着く。
砂漠に囲まれた荒涼とした所。
砂漠から風に運ばれてきた黄土色の細かい砂が、一年中、舞っているかのよう。
車から降ろしたばかりのスーツケースの表面がザラザラとなった。
宿は、コテージ点在するタイプのホテルで、予想していたよりも整っていた。
次の日からはキャンプ生活なので、文化的な生活は暫くお預け。
お湯のシャワーに感謝して、ゆっくり浴びた。
4WDで砂漠地帯に入ると、軍隊のチェックポイントがあった。
かなり細かくチェックを受けている様子。
未だに治安状況は良くないのだろうか。
それから4日間は、砂と岩と壁画の世界。
砂の丘陵が変幻自在に出現し、
じっと眺めていると、不思議と何かに見えてくる奇岩の数々。
そして、その陰には、お約束のように壁画が描かれている。
ガイドですら、「確か、あの辺りにも…」
「犬も歩けば・・・とやら」との印象すら。
北アフリカの岩絵を初めて目にしたのは、高校時代の社会科の教科書だったと記憶する。
狩りをしている人々の姿が、決して上手とは思えない図柄で挿入されていた。
今となっては、地球環境の変化によって、じわじわと砂漠化が進み、
人間や動物の住んでいる地域が変化している現実を目の当たりにする。
牛が涙を流しているように見える有名な壁画は、自然の変化を嘆いているのだろうか。